TEDで学ぶ組織行動論(10) アンジェラ・リー・ダックワース 「成功のカギは、やり抜く力」(日本語字幕付き)

TED Conferenceとは、TED(Technology Entertainment Design)が主催している講演会で、学術・エンターテイメント・デザインなど様々な分野の人物がプレゼンテーションを行なう場です。講演会の内容はインターネット上で無料で動画配信されており、多くの著名な人物もここでプレゼンテーションを行っています。


今回は、TEDのプレゼンテーションに学ぶ組織行動論(10)として、アンジェラ・リー・ダックワース 「成功のカギは、やり抜く力」を紹介します。プレゼンテーション動画は以下のリンクからだと日本語字幕つきです。


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TEDで学ぶ組織行動論(9) ダン・アリエリー 「我々は本当に自分で決めているのか?」(日本語字幕付き)

TED Conferenceとは、TED(Technology Entertainment Design)が主催している講演会で、学術・エンターテイメント・デザインなど様々な分野の人物がプレゼンテーションを行なう場です。講演会の内容はインターネット上で無料で動画配信されており、多くの著名な人物もここでプレゼンテーションを行っています。


今回は、TEDのプレゼンテーションに学ぶ組織行動論(9)として、ダン・アリエリー「我々は本当に自分で決めているのか?」を紹介します。プレゼンテーション動画は日本語字幕つきです。


このプレゼンテーションは、アリエリーの著書「予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」」に関連するもので、人間の意思決定についてのテーマです。アリエリーは、私たちは自分で合理的に物事を決めて選択していると思っているが、そうではないことを様々な事例を通じて解説します。むしろ私たちの思考は、予測できるかたちで歪んでいる(バイアスがかかっている)のです。それをよく理解することは、ビジネスや経営、そして日常生活においても、それを逆手にとって自分にとって有利に物事を進めるアイデアを生み出すことにもつながることでしょう。


日本語によるスピーチ全文


「直観」が優れた意思決定につながる条件は何か

ビジネスや経営の実践において、直観的な意思決定が重要な役割を担うと考えられる一方で、直観は間違うことが多く、合理的な意思決定に劣るとする研究もあります。おそらく、どんな場合にも直観が優れた結果をもたらすわけではなく、直観が優れた意思決定につながるためには、なんらかの条件があると考えられます。Dane & Pratt (2007)は、このような観点から、いくつかの境界条件についての理論と命題を導いています。


まず、直観に基づく優れた意思決定につながる要素として、対象領域についての複雑かつ深い知識体系が重要になってくるとDane & Prattは論じています。対象領域に関する複雑な知識を保有していなければ、直観は単なる思考の省略(認知の近道)に過ぎず、それが合理的な意思決定に劣りがちであることは多くの研究が明らかにしているところです。つまり、すでに本人が持っている対象領域に関する複雑な知識体系が直観プロセスによって活用されることによってはじめて、優れた意思決定につながると考えらるわけです。


そのような対象領域に関連する複雑な知識体系は、意図的な学習を長期間かつ繰り返し行うことによって身に着くとDane & Prattは論じます。かつ、そういった学習は、結果が迅速にフィードバックされるものである必要があるといいます。意図的な学習とともに、無意識的な学習も有効だと言います。その場合は、対象に対して深く集中する機会をどれだけ持てるかが大切となります。問題状況に集中することによって、そこから無意識的に学習し、知識が蓄えられていくのだと考えられるわけです。


また、直観が優れた意思決定につながる別の次元の条件として、問題構造もしくはタスクの特徴があげられます。Dane & Prattは、問題構造やタスクの不確実性が高いほど、それは状況判断を多く伴うタスクにつながり、判断を伴うタスクほど、直観が優れた意思決定につながると論じます。逆に、複雑であっても状況判断を必要とせず、特定のプロセスで明確に正解にたどり着くような問題やタスクは、直観よりも論理的、合理的な意思決定のほうがすぐれた結果をもたらすでしょう。前出のポイントと絡めていうならば、人々が、すでに蓄積している対象領域にかかわる複雑な知識体系を、不確実性が高いがゆえに状況判断を多く伴うようなタスクに用いる場合に、直観が優れた意思決定につながると考えられるわけです。

文献

Dane, E., & Pratt, M. G. 2007. Exploring intuition and its role in managerial decision making. Academy of Management Review, 32, 33-54.

経営意思決定における「直観」とは何か

昔から、「直観」はミステリアスなものとしてしばしば捉えられます。ビジネスや経営でいれば、経営の「勘」のようなものが重視されたりします。一方で、こういった「勘」は頼りにならず、合理的判断が必要だという説もあります。では、そもそも直観とは何なのでしょうか。また、直観は経営意思決定にどれほど重要なのでしょうか。Dane & Pratt (2007)は、理解に混乱が生じがちな「直観」について、先行文献を丁寧に踏まえたうえで、整理して解説しています。


直観とは何かを考える上で、Dane & Prattはまず、人間の情報処理プロセスには2種類の並行するプロセスがあると説明します。1つ目は、自動的で努力を要しない情報処理プロセスや学習です。これは、半ば無意識的に経験から何かを得て、それを活用することにつながります。これは様々な呼び方がされますが、「システム1」とも呼ばれ、私たちが日常の生活の多くの部分で利用しているプロセスです。2つ目は、意識的に、注意を集中しながら物事を学習したり分析したり考えをめぐらすプロセスです。これもさまざまな呼び方がされますが「システム2」とも呼ばれます。直観的意思決定はシステム1に近く、合理的な意思決定はシステム2に近いと考えられます。


上記のように、Dane & Prattは、「直観」を、無意識的な情報処理であると考えますが、すべての無意識的な情報処理が直観であるわけではないと主張します。たとえば、無意識的な学習は、むしろ直観のインプットであり、直観そのものではないとします。直観とは、どのように学習された情報が頭の中で結びついたり活用されたりするに関するプロセスだと考えます。また、直観の定義としては、プロセスのみならず、その結果も考慮します。これらをふまえ、Dane & Prattは、直観の特徴として、(1)無意識的なプロセスである、(2)全体的な把握を伴う、(3)意思決定や判断が迅速である、(4)直観の結果、感情的要素を伴う判断が生じる、の4つに整理しています。


まず、直観は無意識的なプロセスです。私たちは直観によって、ふと考えが浮かんだりしますが、なぜそのような考えが生まれてきたのかよく分からなかったりします。それは意識的に情報を組み合わせたり活用したりしているわけではないからです。次に、直観は、全体的な把握を伴います。人々はすでに経験により蓄積された、さまざまなパターン、カテゴリー、特徴と、眼前にある状況や環境とのマッチングを無意識的に行っていると考えられます。直観的なプロセスでは、経験により得られた深層的な知識とのパターンマッチングを行っていることになります。それがゆえに、直観はスピーディーで迅速です。これは、進化心理学的にいっても人類が生存していくうえで重要な機能であったと考えられると同時に、ビジネスや経営の場面でも求められる要素です。そして、直観的な判断はしばしば感情を伴います。なんとなく気持ち悪いとか、良さそうだとかいうフィーリングだったり感覚的なものだったりするわけです。人間の感情機能が、直観的プロセスおよびその結果に関与していることがうかがわれます。


よって、Dane & Prattが定義する直観とは、「迅速で、無意識的で、全体的把握を伴うプロセスによって行われる感情が伴う判断」となるわけです。よって、直観は、熟考によって行われる、分析的で論理的な思考を伴う合理的思考とはかけはなれたプロセスであるといえます。また、直観は、「本能」や「洞察」とも違います。「本能」とは、生物として生得的に組み込まれている情報処理プロセスを指します。よって、経験から得られた知識や情報を用いる直観とは異なります。「洞察」は「問題解決に資するような、予期せず突然訪れる考え」だと言われますが、これは、熟考を伴うような長い思考や知識獲得の結果、異なる要素が突然結びついていわゆる「ひらめく」ものです。この場合、突然浮かんだ考えやアイデアは、何と何が結びついてできあがったのか本人にも分かります。けれども、直観の場合、どうしてそういう考えが浮かんだのかさえ分からないわけです。

文献

Dane, E., & Pratt, M. G. 2007. Exploring intuition and its role in managerial decision making. Academy of Management Review, 32, 33-54.