内発的モチベーション理論の新展開:目的ー手段融合モデルの革新性

ワーク・モチベーションの中でも、特に「内発的モチベーション」は、多くの研究者や実務家がその重要性を認識しているがゆえに、最も白熱するトピックだと言えましょう。一方で、内発的モチベーションをめぐるこれまでの研究や理論は、多くの人に混乱を与えているということも言えそうです。その発端となっていると思われるのが、外的報酬を与えると内発的モチベーションを低下させるという「アンダーマイニング効果」というもので、心理学者のデシらによって子供に対する実験結果などを通して提唱された、研究者や実務家によく知られている効果です。しかしその後、外的報酬は必ずしも内発的モチベーションを低下させないという研究結果も発表されるようになり、論争が巻き起こりました。

 

デシらは、最初は認知的評価理論という理論枠組みを使ってこのアンダーマイニング効果を説明していましたが、論争に対応する中で、自己決定理論というものに枠組みを修正し、モチベーションの分類も内発的・外発的という単純な二項対立からもう少し複雑な分類に修正しました。確かに人間の本質的な3つの欲求(自己決定、有能感、関係性)に着目する自己決定理論は妥当性の高い有効な理論だと思われますが、こと内発的モチベーションの理解については、逆に分かりにくくしてしまったと言えるかもしれません。デシらが認知的評価理論から自己決定理論への発展を通して展開した内発的モチベーションの理解が混乱を招いた原因は、1つ目として、内発的モチベーションを、外的報酬が存在しないのに生じるモチベーションだと理解したこと、2つ目として、人間が本来持っている内なる欲求から生じるモチベーションを内発的モチベーションだというようにモチベーションの内容に焦点を当てていることだと考えられます。

 

上記の問題提議を通して、内発的モチベーションを、別の視点から、あるいはもっとシンプルな方法で理解しようとしているのが、Fishbach、Kruglanski、Woolley、およびその共同研究者たちが主張する、「目的ー手段融合モデル」による内発的モチベーションの定義と理解です。Fishbachらの内発的モチベーションの定義は至ってシンプルです。それは、「目的や目標と、それを実現するための手段が、融合していると知覚されている時」が、内発的モチベーションが生じている時だということのみなのです。「手段が目的と化す」という表現がよく悪い事例として用いられますが、まさに、目的と手段が融合して、どちらがどちらか分からないような状態、あるいは、それ自体を目的として活動していることこそが、内発的モチベーションが高まっている状態と見なすのです。

 

上記のようなFishbachらのシンプルな内発的モチベーションの定義においては、外的報酬の存在とか、モチベーションそのものの内容、例えばやりがいがあるとか面白いとかいうことは一切関係ありません。例えば、ある仕事や活動にやりがいがあろうとなかろうと、ある仕事や活動が面白かろうが面白くなかろうが、本人にとって目的と手段が融合してしまっている場合には、内発的モチベーションが高まっているのだというわけです。Fishbachらによれば、このような「構造的な」内発的モチベーションの理解の方が、デシやその他の研究者の多くが採用する「内容に焦点を当てた」内発的モチベーションの理解よりも混乱が少ないし、かつ、モチベーションを高める施策も分かりやすく提案できるように思われます。では、本当にそうなのでしょうか。

 

繰り返しますが、Fishbachらの「目的ー手段融合モデル」による内発的モチベーションの理解では、外的報酬の有無は関係ありません。彼らは、アンダーマイニング効果を次のように批判します。確かに、外的報酬は内発的モチベーションを低下させるかもしれない。しかし、内発的モチベーションに干渉してそれを低下させるのは外的報酬だけではない。例えば、他に面白いことや興味関心のあることが生じたならば、それまでやっていた活動に対する内発的モチベーションは下がるだろう。これは外的報酬ではなく、別の内発的な興味関心なので、そもそも引き金となるものが外的であることは本質的には関係がない。引き金が外的であろうがなかろうが、その要素の登場によって本人の中でその活動と目的や目標が分離してしまうならば、内発的モチベーションが下がるということなのです。

 

また、外的報酬を用いることで内発的モチベーションは高まりうるとFishbachらは主張します。これも繰り返しですが、「目的ー手段融合モデル」では、外的報酬の有無とは関係なく、目的や目標と手段が融合して知覚されることさえ生じれば、内発的モチベーションは高まると理解するのです。例えば、お金を稼ぐことを目的としてある仕事をしているとしましょう。この場合は、目的や目標(お金を獲得すること)と、それを実現するための手段がクリアに分離しているので、内発的モチベーションは低いと解釈できます。しかし、お金を稼ぐことを目的としてパチンコやギャンブルをやっているときはどうでしょうか。これは、お金を獲得するという目的や目標と、その手段としてギャンブルをするという活動が一体化して経験されているので、パチンコやギャンブルをしている本人の内発的モチベーションが高まっていると言えるのです。外的な金銭的報酬が内発的モチベーションを高めているのです。

 

デシらの自己決定理論では、自己決定感、有能感、関係性の欲求を満たすものが内発的モチベーションを高めると主張しますし、それ以外にも好奇心・探究心や仕事のやりがいや面白さこそが内発的モチベーションを高めると主張する研究者もいます。逆に言えば、面白くない仕事、自由度のない仕事、やりがいのない仕事などでは内発的モチベーションは生じ得ないということになります。それに対して目的ー手段融合モデルでは、例えば自己決定が少ない状態とか面白くない仕事であっても内発的モチベーションが高まりうることを主張します。ある人が、上司に言われたことを忠実に実行することが求められるような自己決定感のの少ない、あるいはとりわけ面白いわけでもない仕事をしていたとしましょう。そのような人だって、仕事に没入して気がついたら時間が経つのを忘れていたというように、内発的モチベーションが高まることもありうるのだと主張するのです。なぜそのようなことが起こるかというと、その人の中では、目標とそれを達成するための活動が融合していたからなのです。

 

このように、目的ー手段融合モデルでは、外的報酬がないことを内発的モチベーションと考えることもしないし、仕事のやりがいや面白さを内発的モチベーションと結びつけることもしません。シンプルに、目的と手段が融合したような知覚を生み出すことが内発的モチベーションを高めることであって、その方策を考案して実施さえすれば人々の内発的モチベーションが上昇すると考えるのです。これだけシンプルだと混乱が少ないし、かつ、その方策が効果的であるという証拠が多くの実証研究から得られているという点で、実践的にも有効で革新的な内発的モチベーション理論だと言えるかもしれません。Fishbachらが目的ー手段融合モデルに基づいて提案する内発的モチベーションの向上策は、(1)即座にベネフィットにつながるような活動を選択させる、(2)活動をしたときに即座にそのベネフィットを得られるように活動を設計する、(3)その活動を行った際に即座に得られるベネフィットに注意を向けさせる、というものです。

 

ある活動をすることによって、即座にベネフィットが得られるのであれば、その活動をすること自体が目的や目標となります。仕事そのものが楽しいから(楽しみというベネフィットを即座に得られる)というのも当てはまりますし、活動によって即座に金銭的報酬が得られる(ギャンブルをすることでお金が獲得できる)というのも当てはまります。仕事や業務の中身や、外的報酬の有無を考える必要はありません。目的や目標と手段とが融合する策を考えるだけで良いのです。そうすることで、活動している本人は、ポジティブな感情を経験することができるし、エンゲージメントも高まると予想されます。これだけシンプルだと応用範囲も広そうですね。皆さんもぜひ、内発的モチベーションの目的ー手段融合モデルを用いたモチベーション向上策を考えてみてください。

参考文献

Fishbach, A., & Woolley, K. (2022). The structure of intrinsic motivation. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 9, 339-363.]

 

Kruglanski, A. W., Fishbach, A., Woolley, K., Bélanger, J. J., Chernikova, M., Molinario, E., & Pierro, A. (2018). A structural model of intrinsic motivation: On the psychology of means-ends fusion. Psychological Review, 125(2), 165.

 

 

ジョブ・クラフティングの解剖学ーより深い理解のために

近年、組織や働き方の変化に伴い、ジョブ・クラフティングという概念への注目が高まっています。ジョブ・クラフティングとは、従業員が自らが担当する職務をより良いものに改善するプロセスを指し、従業員が主体的に行うジョブ・デザインとも言えます。これは、現代の組織や職場では、少なからず起こる現象だと考えられます。担当する職務内容や手順が厳密に管理されていて変える余地がほとんどなく、かつ従業員の職務遂行が常に監視されている状態では、従業員が勝手に自分のやっている仕事に手を加えることはできません。しかし、現代社会において、環境変化や顧客ニーズに素早く対応するために組織をフラット化させ、従業員の自律的な動きを重視するようになってきている状況では、多くの人々は、なんらかの形でジョブ・クラフティングを実践しているといえるのではないでしょうか。


しかし、ジョブ・クラフティングを「従業員による主体的なジョブ・デザイン」と大まかに定義してしまうと、ジョブ・クラフティングへの動機や、その機能や効果、そしてそれがもたらす結果などを詳細に理解することを妨げてしまいます。つまり、ジョブ・クラフティングと一口にいっても、それには特徴が異なる様々な種類ないしはタイプがあると思われるのです。レズネスキーとダットンによるオリジナルなジョブ・クラフティングでは、タスク・クラフティング、関係クラフティング、認知クラフティングの3つの分類でしたが、Bruning と Campion (2018)は、その後の研究の発展を念頭に置いた上で、ジョブ・クラフティングを複数の理論的フレームワークを用いて分類し、それぞれのジョブ・クラフティング類型が持つ特徴やメカニズムについて、理論的に考察するとともに、2つの実証研究を行うことによって明らかにしようとしました。


まず、BruningとCampionは、2つの軸を用いてジョブ・クラフティングを大まかに4つのタイプに分類します。1つ目の軸は、役割クラフティングとリソース・クラフティングの違いです。役割クラフティングとは、仕事を行う本人が、自分自身に対する便益を高めるために、自分がどのような立ち位置で、誰と関わりながら仕事をするのかを変更する(クラフトする)ことに主眼が置かれるジョブ・クラフティングです。役割クラフティングを行うことで、仕事への面白みやモチベーションが高まると考えられます。一方、リソース・クラフティングは、仕事の要求度を下げつつ、仕事を遂行するためのリソースを高めるために仕事をクラフトすることに主眼を置かれるジョブ・クラフティングで、リソース・クラフティングを行うことで、仕事への負荷やストレスが軽減され、元気に取り組むことができると考えられます。


2つ目の軸は、接近型クラフティングと回避型クラフティングの違いです。接近型クラフティングは、問題を解決したり改善を実現したいという目標に向かって仕事を改変しようとするジョブ・クラフティングを指し、回避型クラフティングは、仕事の役割や負荷を回避するような目的で仕事を改変しようとするジョブ・クラフティングを指します。この2軸を使えば、ジョブ・クラフティングは、接近型役割クラフティング、回避型役割クラフティング、接近型リソース・クラフティング、回避型リソース・クラフティングの4つに分かれます。ジョブ・クラフティングの効果や結果としては、充実感、ワークライフバランス、能率、パフォーマンス、チームワーク、プロセス改善、怠慢、離職など、さまざまな要素に影響を与えることが考えられますが、BruningとCampionは、ジョブ・クラフティングのタイプによって、効果が異なることを予測しました。


BruningとCampionによる最初の調査で、ジョブ・クラフティングはさらに細かく分類可能であることがわかりました。彼らが特定したジョブ・クラフティングは以下のように分類されます。

  • 接近型役割クラフティング
    • 仕事上の役割の拡大(仕事や関連する活動で果たす役割を当初よりも拡大する)
    • 社会的関係の拡大(仕事上の社会的リソースを活用する)
  • 回避型役割クラフティング
    • 仕事上の役割の縮小(仕事上の役割、要求、必要な努力、責任を、主体的かつシステマティックに減らしていく)
  • 接近型リソース・クラフティング
    • 仕事の組織化(仕事の要素を組織化するシステムや戦略を主体的にデザインする)
    • 適応(テクノロジーや他のリソースを仕事に活用していく)
    • メタ認知(仕事の組織的理解、意味づけ、自分自身の心理状態を認知的に改善する)
  • 回避型リソース・クラフティング
    • 減退クラフティング(仕事から自分自身を心理的、物理的に引き離していく)


BruningとCampionによる実証分析によれば、仕事上の役割の拡大は、仕事のやりがいの増加やストレスの軽減につながるなど、セルフ・モチベーティングな効果があると考えられる一方で、離職の意図など、将来のキャリアに向けた方向性にも働くことが示唆されます。社会的関係の拡大も、仕事のやりがいや満足度を高め、精神的に仕事に打ち込める状況につながると考えられます。人間関係の充実が離職意図を抑制する効果もありそうです。仕事上の役割の縮小は、回避型であるため、仕事からの後退につながることが示唆されます。仕事の組織化は、仕事の能率の向上やプロセスの改善を通じたパフォーマンスの向上、およびワーク・エンゲージメントの向上につながることが確認され、適応も、能率、チームワーク、改善などのパフォーマンスを高め、ワークライフバランスを向上させ、エンゲージメントも高める効果があることが示唆されます。メタ認知は、認知的クラフティングに類似しており、仕事の捉え方など、より心理的な効果をもたらすことが示唆されます。最後に、減退クラフティングは、仕事の能率の向上と仕事からの後退の両者に影響することが示唆されます。


やや複雑な説明になってしまったようなので、異なるタイプのジョブ・クラフティングがもたらす結果を簡単にまとめますと、役割クラフティングは、「やらされ感のある仕事をやりがいのある仕事に変える」といったように、自分にとって面白い仕事にするようなセルフ・モチベーションとしての効果が強いのに対し、リソース・クラフティングは、仕事をしていく上でのリソースを増やし、負荷を軽減していくような活動であるため、仕事の効率やパフォーマンスを高め、ストレスを軽減するなどの効果がより見込めるでしょう。そして、接近型クラフティングと回避型クラフティングを比較するならば、接近型のほうがよりポジティブな結果につながるため望ましいと言えます。回避型のクラフティングは、自分が仕事から遠ざかることを目的として行われることになるので、必ずしもポジティブな結果を生み出すということではないようです。

参考文献

Bruning, P. F., & Campion, M. A. (2018). A role–resource approach–avoidance model of job crafting: A multimethod integration and extension of job crafting theory. Academy of Management Journal, 61(2), 499-522.

内発的モチベーションの副作用にご用心

内発的モチベーションとは、何か別の目的のためではなく、それをすること自体を目的として何かを行おうとするモチベーションを指し、報酬のようなものに引っ張られるのではなく、それをすることが面白いから、楽しいから行うという側面が強いモチベーションです。一般的には、内発的モチベーションは報酬などにつられる外発的モチベーションよりも望ましく、実際に、仕事においては、内発的モチベーションが仕事のパフォーマンスを高めることが様々な研究で確かめられてきました。


しかし、ShinとGrant (2019)は、「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉が示す通り、いくら内発的モチベーションが望ましいといっても、高すぎる内発的モチベーションには副作用が伴うことを明らかにしたのです。一見すると、内発的モチベーションであるならば、高ければ高いほど望ましいように思いますが、どのような副作用かというと、あるタスクへの高い内発的モチベーションが、別のタスクのパフォーマンスを阻害してしまうという効果です。以下において、ShinとGrant による議論を詳しく見ていきましょう。


そもそも、仕事というのは単一のタスクで成り立つものではなく、複数のタスクで構成されています。例えば、学校の教師であれば、授業の準備、授業、採点、生徒指導、担任、学校運営などのタスクを行う必要があります。そのような現実において、すべてのタスクにおいて同じモチベーションが維持されているわけではありません。内発的モチベーションに関していると、自分が担当する様々なタスクのうち、特定のタスクに対して高い内発的なモチベーションが生じるということのほうが自然でしょう。その場合、内発的なモチベーションの高いタスクについては、努力、注意力、集中力、持続力が発揮され、良好なパフォーマンスにつながることは容易に予測できます。しかし、これまでのモチベーション研究では、この場合に、他のタスクのモチベーションやパフォーマンスはどうなるのかという視点が欠落していたのです。


では、あるタスクに対する内発的モチベーションの度合いが、他のタスクのパフォーマンスにどのように影響するのか考えてみましょう。まず、当該タスクの内発的モチベーションが低い場合には、他のタスクに対してもそれがネガティブに影響するでしょう。よって、当該タスクはもちろんのこと、他のタスクのパフォーマンスも低くなる可能性が高いといえます。それでは、当該タスクへの内発的モチベーションがそこそこ高い場合はどうでしょうか。この場合、全体的に良好な気分となり、幸福感も高まるため、他のタスクの遂行においてポジティブな効果が現れることが考えられます。


問題は、当該タスクの内発的モチベーションが非常に高い場合です。この場合、本人は当該タスクに「夢中になる」「のめり込む」ことが考えられます。そうなると、あまりに当該タスクに没頭してしまうあまり、他のタスクに対する興味が薄れ、他のタスクの手を抜いてしまう可能性が出てきます。対比効果という心理学の知識を援用するならば、非常に面白いタスクが目の前にあると(内発的モチベーションが高い状態)、別のタスクは、必要以上につまらなく感じてしまう危険性が出てきます。つまり、当該タスクの内発的モチベーションは、他のタスクを「退屈にさせ」、モチベーションを下げてしまうという副作用があると考えられるのです。


もし、他のタスクもそれなりに面白いものであったら、当該タスクの高すぎる内発的モチベーションの副作用は小さいと考えられます。しかし、他のタスクがそれほど面白いものでない場合、先ほどの対比効果も手伝って、そのタスクを遂行することが退屈で、場合によっては苦痛にさえ思えてしまうかもしれません。そうなると、そのタスクを避け、面白い当該タスクに「逃げる」ことも考えられるわけです。


ShinとGrant は、このようなロジックによって予想される効果を、フィールド調査と実験という2つの調査を実施することで実証しました。その結果、予想通り、当該タスクの内発的モチベーションと他のタスクのパフォーマンスとの関係が上に凸の曲線になること、そしてその傾向は、他のタスクがあまり面白くない場合に顕著であることが確認されました。つまり、他のタスクのパフォーマンスは、当該タスクの内発的モチベーションが適度に高いときに一番良好であり、内発的モチベーションが低い場合と、高い場合では相対的に低くなることが実証されたのです。


本研究結果がもたらす実践的含意として、私たちは日常の仕事において複数の異なるタスクを担当していることを考えるならば、適度なレベルの内発的モチベーションを維持することが理想的なのかもしれません。面白い仕事や仕事を純粋に楽しむことは良いことですが、過ぎたるは猶及ばざるが如しという格言を肝に銘じ、内発的モチベーションを高めすぎた場合に生じる副作用には用心しないといけませんね。

文献

Shin, J., & Grant, A. M. (2019). Bored by Interest: How Intrinsic Motivation in One Task Can Reduce Performance on Other Tasks. Academy of Management Journal, 62(2), 415-436.

採用や就職活動でもっと内発的モティベーションを強調すべき理由

就職活動において、求職者は自分の長所をアピールしてよい就職先を勝ち取りたいことでしょう。同様に、採用活動において企業はいかに自社が魅力的な職場であるかをアピールして優秀な人材を獲得したいことでしょう。自分の長所を売り込む際の2大ポイントとしては「能力」と「モティベーション(やる気、動機づけ)」があります。今回は、その中でも「モティベーション」に焦点を当て、Woolley & Fishbach (2018)による興味深い研究を紹介します。


多くの方がご存知のとおり、モティベーションは、「外発的モティベーション」と「内発的モティベーション」に分けることができます。外発的モティベーションは、魅力的な外的報酬(賃金、昇進機会など)によって動機づけられることを示し、内発的モティベーションは、仕事自身が面白いなど、外発的報酬がなくても動機づけられることを示します。内発的モティベーションが高い人というのは、仕事自体に喜びを見出す、楽しんで仕事を行うといった特徴を示しますので、望ましい特徴であると思えます。しかし、Woolley & Fishbachは、求職者もリクルーターも、ともに、内発的モティベーションの重要性を過小評価し、自己や自社のアピールにあまり用いない傾向があることを理論的かつ実証的に示したのです。つまり、就職活動、採用活動の現実では、内発的モティベーションをもっと強調すればよい結果が得られるかもしれないのにもったいないことをしている人が多いということです。


Woolley & Fishbachが発見した原理をもう少し詳しく説明すると、「求職者もリクルーターも、相手が外発的モティベーションをどれくらい重視しているかは比較的正確に推定できるが、相手が内発的モティベーションをどれくらい重視しているかは正確に推定できず、得てして過小評価してしまう」というものです。ではなぜ、そのようなことが起こってしまうのでしょうか。それを理解する鍵は、「外発的モティベーションにおける外発的報酬は目に見えやすいが、内発的モティベーションにおける内的報酬は他者からは目に見えない」という点です。そのため、私たちは、自分が内発的モティベーションを重視している(例、仕事自体が面白いことを重視する)ほどには、他者は内発的モティベーションを重視していない(内的報酬には動機づけられてはいない)と思ってしまうという錯覚をしてしまうことが先行研究でも分かっているのです。


上記の理由から、求職者は、自分自身が内発的モティベーションを重視しているとしても、企業の採用担当者は自分が考えるほど内発的モティベーションを重視していないと考えるため、面接等について自分がいかに内発的モティベーションが高いか(仕事に喜びを感じる、楽しんで仕事をする)をアピールすることをしない傾向にあるとWoolley & Fishbachは予測しました。しかし現実には、採用担当者も自分自身は内発的モティベーションを重視しているはずなので、志願者の内発的モティベーションが高ければ、その志願者を魅力的に感じるはずなのです。


同じロジックが、採用活動を行う企業のリクルーターの心理にも当てはまります。リクルーターは、自分自身が内発的モティベーションを重視しているほどには、求職者は内発的モティベーションを重視していない(例、就職先選びにおいて仕事自体が面白いということを重視していない)と考えてしまうため、自社の長所をアピールする際に、内発的モティベーションに焦点をあてない傾向があるとWoolley & Fishbachは予測しました。しかし、これも同様に、求職者はリクルーターが思うよりもずっと内発的モチベーションを重視しているはずなので、リクルーターがもっと内発的モティベーション(例、当社の仕事は面白い)をアピールすれば、優秀な人材の獲得に資することができるはずなのです。


では、どうすれば、求職者にとってもリクルーターにとってもこのような「もったいない」現象を軽減することができるのでしょうか。Woolley & Fishbachは、他者視点取得(perspective taking)の重要性を指摘します。つまり、相手の立場にたって考えるという思考を実践すれば、相手も自分と同じくらい内発的モティベーションを重視していることを理解できるというわけです。


Woolley & Fishbachは5つの実験的研究を実施することによって上記の理論および予測を実証的に検討しました。最初の実験では、採用担当者も志願者も、外発的モティベーションが採用意思決定に与える重要性は同等に評価しましたが、採用担当者のほうが志願者よりも内発的モティベーションが採用意思決定に重要であると判断していることが分かりました。2つ目の実験では、志願者は内発的モティベーションを面接で強調することは採用担当者が考えるよりも得策ではないと考えていることが分かり、かつ、リクルーターは自社のアピールで内発的モティベーションを強調することが求職者が考えるよりも得策ではないと考えていることが分かりました。外発的モティベーションについてはそのような傾向は見られませんでした。


Woolley & Fishbachによる3つ目の実験では、志願者は採用担当者が内発的モティベーションを軽視していると判断しがちであり、それが面接において内発的モティベーションを強調しない理由になっていることが分かりました。外発的モティベーションについてはそのような傾向は見られませんでした。4つ目の実験では、採用担当者は、内発的モティベーションを強調する志願者に魅力を感じがちなのに対し、多くの志願者は内発的モティベーションを強調しない傾向にあることがわかりました。そして5つ目の実験では、志願者が採用担当者の立場にたって考えると、自己アピールにおいて内発的モティベーションをより強調することがわかりました。


以上の研究結果から、求職者も、企業のリクルーターも、自分たちが思う以上にもっと内発的モティベーションを自己(自社)アピールで強調するべきだということが言えそうです。求職者は「企業の採用担当者がどのような人材を魅力に思うのだろうか」といったように、リクルーターは「求職者がどのような企業を魅力的に感じるのだろうか」といったように、相手の立場にたって考えることが重要だといえます。

参考文献

Woolley, K., & Fishbach, A. (2018). Underestimating the importance of expressing intrinsic motivation in job interviews. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 148, 1-11.

自分で決めた肩書を使うだけで働く人々が元気になる

会社の従業員がいつも元気で生き生きと働いているわけではありません。実際、日本では従業員のワーク・エンゲージメントが世界的に見てもかなり低いという調査結果もあります。また、職場によっては、精神的にきつく、精神的に疲弊する仕事に従事している従業員も多くいます。つまり、なかなか元気を出せないような仕事もあるわけです。そのような状況の中、ちょっとした工夫で従業員が元気になるヒントを提供してくれるのが、今回紹介するGrant, Berg, & Cable (2014)の研究です。彼らが注目したのは、仕事上の「肩書(job title)」を自分で決めさせるという方法です。


肩書だけで人々が元気に働くようになるのだろうかと訝しがるかもしれません。しかし、よく考えてみると、自分自身にとって「名前」が重要であると同時に、「肩書」も非常に重要であることに気づきます。新たな肩書を得たことによって自分に誇りが持てたり、自信が出てきたり、自慢したくなるといった様々なケースが思いつくのではないでしょうか。肩書は自分自身のアイデンティティに深く関わっているのですから重要でないわけがありません。この点に関して、Grantらは、難病と闘う子どもたちを支援する非営利団体の調査を行った際、そこで働く人々のほとんどが、「自己を表現する(真の自分を反映する)ような肩書を自分で作る」というその団体の試みについて言及し、それがいかに、憂鬱間や精神的な疲弊を伴うような業務であっても元気を維持することができるかについて語ることに気づきました。


その団体では、働く人々が「minister of dollars andsense」「lady of laughter and giggles」「royal ambassador of really cool kids」「princess of magical dreams」などの自己表現を伴った肩書を自分で作り、それを職場で利用していました。そこで、Grantは、調査対象となった非営利団体の人々を質的調査によって詳しく調べ、なぜ自己表現的な肩書を自分で決めることが従業員の精神的疲弊を防ぐことにつながるのかの理論を構築しました。その結果、自己を反映するような肩書を自分自身で決めることが、次の3つの効用をもたらし、それが精神的疲弊を防ぐという理論を構築しました。その3つとは、「自己確認(self-verification)」「心理的安全性(psychological safety)」「外部との関係構築、ラポール(external rapport)」です。


まず、自己を表現するような肩書を決めることによって、常に自分の優れた側面、強い側面、自信を持てる側面などを意識しながら仕事に取り組むことができます。これが「自己確認」の効果です。自己確認の理論では、人が逆境に陥ったり失敗したり気分が落ち込んだりしたときに自分の良い面を再確認することで、早くそこから立ち直ることができることが分かっています。よって、自己表現的な肩書を持つことで、精神的に辛い場面であってもうまくそれを乗り切ることができるというわけです。次に、働く人々が、場合によってはユニークでユーモアのある肩書を作って自己表現をしあうことで、職場において、「何か変なことを言ったり変な行動をすると罰せられるのではないか、虐められるのではないか」というような恐れがなくなり、人々が自由に自己表現をしやすくなります。これが心理的安全性という職場風土で、自分で肩書を作るという取り組みが職場の心理的安全性を高めることにつながったというわけです。3つ目に、自分で決めた自己表現的な肩書を持つことによって、初対面の人との会話がはずみ、関係構築がしやすくなります。これが外部とのラポール効果です。


Grantらは、質的調査から得た上記の理論を検証するために、次の研究で、異なるサンプルを用いたフィールド擬似実験を行いました。こちらも、比較的仕事上の精神的負担が大きいヘルスケア関連の団体です。その実験では、実験群と対照群にサンプルを分類し、実験群では、自己表現的な肩書を自分で作るように指示をし、対照群ではそのような指示をしませんでした。その結果、自己表現的な肩書を自分で作った実験群の従業員たちのほうが、対照群の従業員たちよりも、自己確認および心理的安全性の度合いが高まり、仕事によって精神的に疲弊する度合いが小さかったことが分かりました。質的研究で構築した理論が、より科学的なフィールド実験でも支持されたことになります。


Grantらの研究自体は、従業員が元気に仕事ができるように組織が行うちょっとした工夫の1つにすぎないと考えることができるでしょう。大事なのは、このような試みが、働く人々の自己表現を促進することで、自分自身の優れた部分や自信のある部分を常に確認しながら仕事をすることを助け、また、自己表現を含め、思ったことがいえる「風通しの良い」組織風土の形成に貢献しているという面です。それが結果的に人々が活き活きと働くための要因になるというわけです。「従業員に自信をもって活き活きと元気に働いてもらいたい、また、風通しのよい組織風土を作りたい、けれども、それを実現するのは簡単ではない」と思っている場合には、このGrantらの研究にヒントを得て、小さな工夫による大きな効果を目指してみてはいかがでしょうか。

参考文献

Grant, A. M., Berg, J. M., & Cable, D. M. (2014). Job titles as identity badges: How self-reflective titles can reduce emotional exhaustion. Academy of Management journal, 57(4), 1201-1225.

なぜコミットメントやモチベーションではなく「ワーク・エンゲージメント」に着目するのか

近年、職場における「ワーク・エンゲージメント」という概念への注目が高まっているようです。エンゲージメントの定義は必ずしも1つに定まっているわけではありませんが、近年の学術研究で多く用いられている意味合いとしては、従業員が生き生きと仕事に取り組む姿勢を示すもので、仕事に対する「熱意」、仕事への「没頭」、そして仕事をするうえでの「活力」がみなぎった状態の3つの次元で表されます。従業員のエンゲージメントが高まれば、組織の業績も高まると考えられています。


しかしながら、以前は「コミットメント」という概念に注目が当たった時期がありましたし、モチベーションについても常に話題になります。しかも、エンゲージメント、コミットメント、モチベーションなどの概念は、一見すると類似した概念のように感じられますので、なぜわざわざ「エンゲージメント」という概念にこだわるようになったのか、混乱するのではないでしょうか。実際、エンゲージメント、コミットメント、モチベーションは、相互に相関しているはずであり、例えば、モチベーションやコミットメントが低いのにエンゲージメントだけが高いというようなことはあまりないでしょう。それもそのはずで、これらの概念はすべて仕事におけるポジティブな従業員の心理状態を示しているからです。ですから、従業員が仕事に関してポジティブな心理状態にあるならば、厳密な意味ではそれぞれの概念に違いはあるにせよ、コミットメントも、モチベーションも、エンゲージメントも高まっていると考えられるわけです。


では改めて、なぜコミットメントやモチベーションではなく、「エンゲージメント」に着目するのか。私見では、これは、類似した概念であっても、コミットメントやモチベーションとエンゲージメントでは、そのコンセプトの背後にある思想が異なるからだと考えています。一言でいうと、コミットメントやモチベーションは、現代経営学をリードしてきたアメリカ的な思想から来たものであり、エンゲージメントはヨーロッパ的な発想からできた概念だと思われるのです。アメリカ的思想のコンセプトの例が、成果主義、目標設定、変革型リーダーシップであり、ヨーロッパ的な思想のコンセプトの例が、ワークライフバランスワークシェアリングウェルビーイングです。


アメリカ的な思想とは、自由競争市場を前提とする中で、組織やそこで働く個人の生産性を高めるにはどうすればよいかという問いが前面に出てくるような発想です。例えば、組織やチームの生産性を高めるために、従業員にコミットしてほしい、業績を高めるためのモチベーションを高めてほしい、コミットメントやモチベーションが高まるようなリーダーシップが必要だというように、マネジメント側からの要望が強く反映されているように思われます。それに対して、ヨーロッパ的な思想とは、やや社会主義的な発想が含まれており、組織や個人の生産性も大切だけれども、従業員の心身の健康や幸福ももっと大切ではないか、という考え方だと思います。つまり、アメリカ的思想と比較すると、労働者目線での考え方が多いということです。


コミットメントやモチベーションが高ければ、従業員の心身にも良い影響を及ぼすと考えられますが、従業員の心身の健康といった意味合いはそのコンセプト自体には含まれていません。一方、エンゲージメントというコンセプトには、従業員の心身の健康といった意味が直接的に含まれています。なぜならば、エンゲージメントは、ストレスや疲労感やバーンアウトと対立する概念としてとらえられているからです。エンゲージメントは、仕事につぎ込むエネルギーやリソースに満ち溢れている状態であって、そのようなエネルギーやリソースが失われる状態が、ストレスや疲労感やバーンアウトだからです。


また、アメリカ的な発想でコミットメントやモチベーションを高め、格段に生産性があがったとしても、その結果、従業員のエネルギーがすり減って、疲労がたまったり健康を害するようなことがあれば、ヨーロッパ的な発想では受け入れがたいととらえられるのではないでしょうか。このような視点で見るならば、コミットメントやモチベーションといった概念と比べると、エンゲージメントのほうが、長期的には従業員の幸福につながることが想定されている概念だということもできるでしょう。


もし、コミットメントやモチベーションよりもエンゲージメントへの注目が高まる状態が続くようであれば、それは、日本の社会が成熟化に向かっている中で、昔のようなモーレツ社員を推奨するような考え方が衰退し、競争主義のもとで生産性や成長を追い求めるばかりではなく、従業員の心身の健康や幸福の実現にも十分に気を配っていかなければならないという考えが普及し始めている兆候なのかもしれません。

参考文献

Bakker, A. B. (2017). Strategic and proactive approaches to work engagement. Organizational Dynamics, 46(2), 67-75.

科学的証拠に裏付けられた「心理資本」に投資して組織や個人の成功を勝ち取ろう

組織ではたらく個人が自分の持っている能力を最大限に発揮することで、組織としても競争力が最大化します。このもっとも基本的な原理原則を実現するために、できるだけ科学的証拠に裏付けられた、すなわちエビデンスベースの知識を活用していきたいものです。今回は、それを可能にする鍵となる、Fred Luthansらによる学術的研究によって生み出された「心理資本」(心理的資本あるいはポジティブ心理資本)という概念を紹介します。英語では、Psycholgoical Capital、略してPsyCapと呼ばれています。個人や組織が心理資本に投資することで、それがポジティブな結果をもたらすことが理論的にも実証的にも確認されているのですから、これを実践しない手はありません。では、そのような心理資本とはどのような概念なのでしょうか。Luthans, Youssef-Morgan & Avolio (2015)は、心理資本を以下のように定義しています。

以下の4つの特徴を持つ個人のポジティブな心理的状態の開発。その特徴とは、(1)挑戦的なタスクを成功させるために必要な努力を注ぐことを可能にする自信(効力感)、(2)現在そして未来の成功に対する肯定的な状況判断の視点(楽観性)、(3)成功するために、必要であれば道筋を変えてでも目標を実現させようとする辛抱強さ(希望)、(4)問題や逆境に直面しても態勢を維持し、立ち直り、さらにそれらをバネにして成功を勝ち取ろうとする粘り強さ(レジリエンス


つまり、心理資本は、効力感(Efficacy)、楽観性(Optimism)、希望(Hope)、レジリエンス(Resilience)からなる開発可能な心理状態(資源・リソース)です。心理資本や個人の固定されたパーソナリティではなく、トレーニングなどによって開発可能なので、資本として投資の対象となり得るわけです。また、4つの頭文字を並び替えると(HERO)となります。まさに物語の英雄(ヒーロー)です。さまざまな物語の英雄(ヒーロー)が、なぜ英雄たるのか考えてみましょう。おそらく、英雄は、高い心理資本(自信、希望、楽観、粘り強さ)を獲得したからこそ、成功を勝ち取る英雄としての資格を得たのだといえるのでしょう。ですので、心理資本に投資することは、英雄が持っている心理的強さを獲得すること、あるいは、自分自身を物語の英雄に仕立て、そのために必要なこころの力(自信、希望、楽観、粘り強さ)を具備していくことで成功のためのリソースを獲得することだと言ってもいいかもしれません。


では、心理資本が実際に個人や組織を成功に導くポテンシャルを持っていることを示す理論的・実証的根拠について説明しましょう。まず、心理資本の概念は、マーティン・セリグマンらによる「ポジティブ心理学」の流れを汲んで開発された概念です。ポジティブ心理学とは、人間心理における問題や不適応に注意を向けてそれを直すこと(問題解決)に注力するばかりではなく、幸福や成功につながるポジティブな側面を伸ばすことに焦点を当てる学術的視点です。Luthansらがこれを経営学の組織行動論に適用したのが、ポジティブ組織行動論であり、その中の中核的概念が心理資本というわけです。心理資本には4つの特徴があるわけですが、すべてに共通しており、よって心理資本として集約する特性が、(1)自分の内面にある、主体的、コントロール可能的、志向性の感覚、(2)努力への意欲や持続性に基づき、環境や成功可能性を肯定的に捉える傾向です。


では、心理資本が(自信、希望、楽観、粘り強さ)の4つの特徴(リソース)からなる根拠は何かというと、これら4つの要素は、エビデンスベースなポジティブ組織行動論の基準を満たしていることです。その基準とは、まず1つ目に、これらの特徴は、直すべき問題、克服すべき課題といったネガティブな側面ではなく、それらを伸ばすことが成功につながるというポジティブな側面を持った特徴だということです。2つ目は、それが質問紙などによって測定可能であるということです。測定可能だということは、現状を把握し、さらに伸ばしていくなどのマネジメントが可能だということでもあり、その要素が本当に業績を高めるのかの科学的実証研究が可能だということです。3つ目は、それが人の性格のように固定され変化しないものではなく、開発可能な可塑的なものであるということです。投資をして開発可能であるからこそ、それが成功のための重要なリソースとなるわけですから実践的な意義もあります。そして4つ目が、これらの特徴が実際に業績に結び付く科学的エビデンスがあるということです。


Luthansらは、心理的資本をあくまでエビデンスベースの科学的証拠に裏付けされた概念として扱っています。そして、心理資本を構成する4つの特徴について詳しい学術的研究の知見を解説し、その有用性を力説しています。また、どのようにして心理資本を高めていけばよいのかについても解説しています。さらに、この4つの心理的資本の構成要素以外にも、今後、学術的研究が進展すれば心理的資本の他の構成要素として含めることができる可能性のある概念も紹介しています。それらは、創造性、フロー、マインドフルネス、感謝の気持ち、寛容さ、感情知性(EQ)、スピリチュアリティ、オーセンティシティ、勇気です。これらの概念はまだ組織行動論における研究としては新しく、研究も発展途上なため、心理的資本の構成要素として組み込むにはまだ時期尚早だとLuthansらは考えているようです。