主体性と適応性が共存するジョブ・クラフティング

ジョブ・クラフティングとは、仕事に従事する従業員が、主体的に担当する仕事を再設計するような行動を指します。もう少し具体的に定義すれば「自分の行う仕事の中身(タスク)や範囲について物理的・認知的な変化を加えること」となります。そうすることによって、ボトムアップ的に仕事のやり方、仕事の守備範囲、仕事上関わる人間関係の範囲を変えていくプロセスです。


ジョブ・クラフティングは、たしかに「主体的に仕事を変えていく」プロセスと理解できるのですが、それと同時に、仕事を取り囲むさまざまな困難に対応(適応)していくというプロセスも共存していると、Berg, Wrzesniewski, & Dutton (2010)は指摘します。主体的に動くためには、その制約条件にたいする対応力、適応力も必要だということでもあります。こういった考えに基づき、Bergらは、働く人々が、ジョブ・クラフティングを行おうとするさいにどのような困難や制約を感じ、それに対してどのように適応していくのかを研究しました。


Bergらが発見したのは、ジョブ・クラフティングに伴う困難や制約条件の知覚や適応行動は、組織の上位階層の職務(管理職など)と階階層の職務(一般社員)とでは異なることです。まず、管理職などの上位階層で働く人々は、仕事の自由度や権限も高く、ジョブ・クラフティングを行うさいの困難や制約条件は少ないように思えますが、実はそうではないことがわかりました。上位階層の場合、なによりも仕事や部署全体の結果を出すことが重要であることが多く、かつ多忙で時間的な制約も多いため、目先の結果を出すためにしなければならないことを最優先するならば、自分の仕事の再設計に用いる時間と労力を使うことを躊躇してしまうというのです。


一方、階階層の仕事に就く人々にとっては、ジョブ・クラフティングを行うための権限やお墨付きが不足していることが困難や制約条件になっていることがわかりました。つまり、自分を取り囲む他者(上司や同僚など)が、自分に対して仕事のやり方を変えて改善することに期待しているかどうかが重要であり、その期待が得られなければ主体的に仕事のやり方を変えたりすることが困難だと感じるわけです。このように、上位階層で働く人々と階階層で働く人々とで、困難さや制約条件の特徴が異なるため、彼らが実際にそういった困難や制約条件に適応していくプロセスも異なることが分かりました。


上位階層の仕事に就いている人の場合、自分自身の認識や考え方を変えるというのが主な適応行動になります。なぜならば、ジョブ・クラフティングを躊躇する困難さや制約条件の原因となっているのは自分自身の職務成果に対するプレッシャーなどによるからです。したがって、ジョブ・クラフティングの機会やその重要性を再考したり、どの程度ジョブ・クラフティングを行うことが現実的なのか考えたり、勤務時間外にジョブ・クラフティングのための時間を使うことを検討するなどして、困難さや制約条件を克服していることがわかりました。


階階層の仕事に就いている人の場合、他者に働きかけることが主な適応行動になります。なぜならば、ジョブ・クラフティングの困難さや制約条件の原因となっているのは、他者が自分にどれだけジョブ・クラフティングを期待しているかという点にあるからです。したがって、他者に対して自分の長所をアピールし、存在価値を認めてもらうことでジョブ・クラフティングへの期待を獲得したり、ジョブ・クラフティングの機会をつくってくれそうな特定の人物に働きかけたり、ジョブ・クラフティングを許容してもらうための信頼関係を獲得したりして、ジョブ・クラフティングを行う機会を獲得しようとすることがわかりました。

参考文献

Berg, J., Wrzesniewski, A. & Dutton, J. (2010) 'Perceiving and responding to challenges in job crafting at different ranks: when proactivity requires adaptivity'. Journal of Organiza- tional Behavior, 31, 158-186.