「人はなぜ働くのか」に迫る目的職務行動理論

働く人々にとって「なぜ働くのか」あるいは「働く目的」は重要なテーマです。なぜなら、それは、「どんな仕事にやりがいを感じるのか」や「働くことの意味」に関わるテーマであり、仕事へのモチベーションの根本的な要因になりうるからです。また「働きがい」は「生きがい」にも通じるわけですから、人生にとって重要なテーマです。「働く目的」は、本来的には哲学的な問いなのかもしれません。それもあってか、組織行動論の分野ではモチベーションに関する様々な理論がありますが、この「働く目的」「働く意味」に直接的に切り込んでいくような明快な理論はあまりありませんでした。


そこで、Barrick, Mount, & Li (2013)は、組織行動論における性格特性理論と職務特性理論を統合しつつ、「働く目的」を、人々のモチベーションや職務行動の根本的な部分であることを意識して鍵概念として組み込んだ新たな理論構築を行いました。Barrickらはそれを「Theory of Purposeful Work Behavior: TPWB, 目的職務行動理論」と名づけました。


Barrickらの目的職務行動理論の鍵となるコンセプトは、「働く目的(高次の目標)」と「仕事の有意味感」です。人々は、人生を通じて実現したい目的(高次の目標)を、意識的ないしは(多くの場合)無意識的に持っており、生きていく上で、その目的を実現しようと動機づけられる存在なのだと考えます。人は日々さまざまな目標を追求していますが、「高次の目標」は、その最上位に位置するものです。そして、仕事を通じてその目的の実現に向かっていることが実感できると、人々は「仕事の有意義感(やりがい、働きがい)」を感じます。この「やりがい」「働きがい」が、具体的に従事している職務へのモチベーション、とりわけ内発的なモチベーションにつながると考えるわけです。


目的職務行動理論によれば、働く目的(高次の目標)は人それぞれであり、個人によって異なりますが、いくつかのタイプがあり、人々の性格によって追求する目的(高次の目標)のタイプが異なります。そして、仕事の持つ特徴が、働く目的に沿っているかの判断材料となり、沿っていれば仕事の有意味感(働きがい)を感じるわけですが、働く目的のタイプが異なれば、仕事の有意味感につながる職務特性も異なるとされます。


人々が働く目的(高次の目標)は、大きく以下の4つに分類され、人々の性格特性によって、どの目的を追求するのかが異なってきます。これらの実現に向かっていることが本人の生きがいや幸福につながります。Barrickらは、性格次元として、組織行動論でも最も普及している5要因モデルを用います。

  1. 社会的交流の追求(人々との暖かな交流を目的とする)(情緒安定性・協調性の高い人)
  2. 地位・名誉の追求(高い地位を得て、人々に影響を与えることを目指す)(外向性の高い人)
  3. 自由・自律の追求(環境を理解・コントロールし、個人的に成長できる機会を求めていく)(経験への開放性・外向性の高い人)
  4. 達成の追求(物事を成し遂げ、有能感や達成感を得ることを目的とする)(誠実性・情緒安定性の高い人)


最初の2つの目的は社会的な要素が強く、後の2つの目的は個人の内部的な要素が強いといえます。上記に挙げたような働く目的の違いによって、どのような仕事に有意味感(やりがい)を感じるのかが変わってきます。Barrickらは、有意味感と仕事の特性との関係を、職務特性理論や社会的特性を用いて結び付けています。

  1. 社会的交流の追求(周りからのサポートが得られる仕事、相互依存的な仕事、外部との相互作用のある仕事、組織的な仕事)
  2. 地位・名誉の追求(権力や影響力が付随する仕事、仕事の社会的有意義性、他者からのフィードバックがある仕事)
  3. 自由・自立の追求(自由度・自律性の高い仕事、多様なスキルを必要とする仕事)
  4. 達成の追求(タスクの同一性・一貫性がある仕事、仕事や他者からのフィードバックがある仕事)


働く目的および個人の性格のどちらも、容易には変化しない属性だと考えられるため、これらを鍵概念とする目的職務行動理論は、仕事への内発的モチベーション、行動、満足感などについての根本的、長期的かつ安定的な基礎を理解するための理論枠組みといえましょう。また、目的職務行動理論は、どのような性格の人が、どのような特徴の仕事を行うことによって、もっとも仕事にやりがいを見出し、内発的に動機付けられるのかを理解するうえで有効な理論だといえましょう。

参考文献

Barrick, M. R., Mount, M. K., & Li, N. (2013). The theory of purposeful work behavior: The role of personality, higher-order goals, and job characteristics. Academy of Management Review, 38(1), 132-153.