多文化チームの創造性を促進する多文化インサイダーと多文化アウトサイダー

多国籍チームや多文化チームと聞くと、様々な国籍の人々が集まったチームであると単純に考えてしまわないでしょうか。しかし、忘れてはいけないのが、多文化人材です。例えば、確かに、多文化チームと言えば、日本人、アメリカ人、ドイツ人、中国人、アルゼンチン人といったように、単一国、単一文化出身の人が集まっているでしょうが、同時に、中国系アメリカ人とか、フランス人とマレーシア人のハーフとか、日本人でも帰国子女とか、中には複数の文化的背景を合わせもつ人もいることでしょう。Jang (2017)は、多文化チームのパフォーマンス、とりわけ新しい知識を生み出すという創造性の発揮に重要な役割を果たすのが、こういった多文化人材であることを主張します。しかし、話はそう単純ではありません。


Jangは、多文化チームにおける多文化人材の役割を「文化的仲介機能」と捉えており、異なる文化的背景に基づく異なる視点や情報がチーム内で交差し結びつくことを多文化人材が促進することでチーム全体の創造性を発揮させるという視点に着目します。つまり、創造性というのは、異なる知識や情報が組み合わさって生じるものなので、異なる文化の人々がもっている視点や情報をうまくつなぎ合わせることに貢献できる人がいれば創造性を高めることができるというわけです。しかしJingは、多文化人材には2種類の異なる人材がおり、1つ目は多文化インサイダー、2つ目は多文化アウトサイダーだといいます。そして、この2つの種類の多文化人材は、異なる方法で文化的仲介機能を果たすことで創造性発揮に貢献するというのです。


多文化インサイダーと多文化アウトサイダーは現実には簡単に2分されるわけではないのですが、分かりやすい例を出すと、中国人やアメリカ人がいる多文化チームの中に、中国系アメリカ人がいると、その人は多文化インサイダーです。これは、中国系アメリカ人という多文化人材は、グループ内の中国人ともアメリカ人とも文化的背景を共有しているからです。それに対して、同じように中国人やアメリカ人がいる多文化チームの中に、ドイツ人とインド人のハーフの人がいるならば、その人は多文化アウトサイダーです。ドイツ人とインド人のハーフは、中国人やアメリカ人とどちらとも文化的背景を共有していないからです。まず、単純にインサイダーとアウトサイダーとの区分で考えるならば、インサイダーのほうがチームメンバーから受け入れられやすく、溶け込めやすいと言えるので、より多文化チームの創造性に貢献することができると考えられます。しかし、Jangは、もし、多文化人材が公式なリーダーであったりファシリテーターであるなど文化的仲介機能としての明確な役割が与えられている場合には、インサイダーやアウトサイダーの違いは重要でなくなると論じます。


もっと重要なことは、多文化インサイダーと多文化アウトサイダーの文化的仲介機能の中身が違うことです。多文化インサイダーは、統合(integrating)という多文化仲介機能を用います。それに対して、多文化アウトサイダーは、導出(eliciting)という多文化仲介機能を用います。多文化インサイダーが多用する統合は、多文化人材が、自分の頭の中で異なる文化的視点を結びつけるような機能です。多文化インサイダーの場合、それぞれのチームメンバーがもつ異なる文化に精通しているので、異なる文化的背景の人たちの意見や考え方をどちらも理解することができます。例えば、中国人はアメリカ人の思考や発想がよくわからない。アメリカ人は中国人の思考や発想がよくわらない。しかし、中国系アメリカ人は両方ともわかるので、お互いの視点を咀嚼したうえで組み合わせて考えることができる。お互いの文化からくる視点を組み合わせて新しいアイデアを生成し、それをチームメンバーに投げかければ、異なる文化を仲介して新しい知識を生み出すことに貢献できるのです。


一方、多文化アウトサイダーが多用する導出は、多文化人材が、異なる文化的背景を持つ人々に対していろいろと質問をしたり確認を求め、それぞれの思考や言いたいことをクリアにしていくことで、お互いの理解を促進し、知識の交差と結合に貢献する仲介方法です。つまり、多文化人材の頭の中で複数の知識や情報を結びつけるのではなく、多文化人材の外で、異なる文化的背景を持つ人同士が複数の知識や情報を結びつけるのを助けるわけです。その理由は、多文化アウトサイダーはチームメンバーの文化のどれとも共有できていないので、他のメンバーの思考や発想がよくわかりません。しかし、多文化人材ですから、異なる文化に対応する能力、異なる文化の人々とつきあるスキルを持っています。よって、そういった多文化スキルを発揮して、「第三者」としてお互いの言いたいこと、思考様式、発想の内容などを聞き出して、クリアにし、お互いが対話することが可能になるまでに知識や情報を昇華させることで創造性に貢献するわけです。


Jangは、上記のような理論および仮説を、2つの実証研究(アーカイブおよび実験)によって検証しました。アーカイブ研究では、数年間にわたって開催が続いた40か国の学部生や大学院生が参加したコラボレーションプロジェクトによる多文化チームのアーカイブデータを用いて、多文化人材の有無と、多文化インサイダー、多文化アウトサイダーの区別を行い、それぞれのチームの創造性に関する評価得点がそれらの変数からの影響を受けているかの統計分析を行いました。実験研究では、実験的環境の中で多文化インサイダーもしくは多文化アウトサイダーがいる多文化チームを人為的に作り出してタスクを実行してもらい、多文化人材の行動や創造性を評価するという方法をとりました。2つの実証研究により、Jangの提唱する理論や仮説はおおむね支持されました。Jangの研究は、多文化チームにおける多文化人材の異なる文化的仲介機能に焦点をあてて創造性を高めるメカニズムを明らかにした点で学術的貢献度や実践的含意が高いものといえるでしょう。

参考文献

Jang, S. (2017). Cultural brokerage and creative performance in multicultural teams. Organization Science, 28(6), 993-1009.