新型コロナ危機にも屈しない「レジリエント」な企業とは

新型コロナ危機は2020年初頭より本格化し、世界中でワクチン接種が進んでいるにもかかわらず2021年現在、いまだ収束の見通しが立っていない状況です。そして、新型コロナ危機は、旅行業や飲食業などの特定の業種に対して非常に厳しい試練を与えているといえましょう。そこで今回は、新型コロナ危機でも頑張れる企業とはいったいどのような企業なのかについて、すなわち、新型コロナ危機による逆境に立たされても、そこから挽回することができる「レジリエント」な企業について、「投資」という視点から考えてみたいと思います。

 

まず、レジリエントな企業とはどのような企業なのかについて理解しておきましょう。レジリエントな企業とは、外面的に言えば、逆境によって業績悪化に陥ったとしても、それをバネにすることでⅤ字回復もしくは逆境以前よりもさらに飛躍することができるような企業を指します。つまり、逆境に対して粘り強くしなやかであるばかりでなく、逆境をも糧にしてさらなる飛躍を実現することができる企業、言い換えれば、ピンチをチャンスに変えることができる企業です。したがって、新型コロナ危機のような「大ピンチ」の状況下において、むしろそれを「大チャンス」だと捉え、実際にそのチャンスをものにしてしまうメンタリティや行動ができる企業だともいえましょう。

 

しかし、レジリエントな企業とは何かについて外面的な理解ができたとしても、なぜそうなるのかのメカニズムについても理解したいところです。今回は、そのようなメカニズムの理解に「投資」の概念を用いようというわけです。投資とは、将来お金を生み出すようなものにお金を投じることです。そして、ほとんどの企業にとって、持続的に業績を維持したり成長していくためには投資は必要不可欠です。なぜかといえば、商品やサービスにはライフサイクルがあり、いくら売れていてもそのままではいずれ衰退していく運命にあるからです。だから企業は、既存のビジネス、商品、サービスが衰退したときに、それらに代わって新たな収入源となるものを作りだすために投資し続ける必要があるわけです。

 

企業が将来収入を生み出すビジネス、商品、サービスに投資するということは、ヒト、モノ、カネといった経営資源を、いまはお金を生まないが将来お金を生むための活動(新規事業開発など)に投じることです。しかし、ビジネス経済が平時のときには、企業は既存のビジネスを回していくことに多くのヒト、モノ、カネを使ってしまっており、例えば多くの従業員は既存のビジネスを維持することに忙しく、なかなか将来のビジネスを生み出す活動のための投資に時間を費やすことができません。だから、一般的には、既存のビジネスの維持と、将来の収益源の探索の2つの活動を同時に行うことは難しいのです。

 

多くの企業にとって上記のような事情による投資の難しさを理解するならば、コロナ危機をチャンスに変えるということがどういうことか薄々わかってきたのではないでしょうか。そうなのです。平時にはなかなか投資に投入することができないヒト、モノ、カネといった経営資源を、新型コロナ危機においてはふんだんに利用することができるようになると考えられるのです。なぜならば、特定の業界においては、新型コロナ危機であっという間に顧客が「蒸発」してしまい、閑古鳥が鳴くような状態になってしまったため、既存のビジネスを回すことすらできなくなってしまったからです。これは確かに大ピンチです。放っておけば赤字が拡大するばかりです。

 

しかし、見方を変えると、先ほど述べたように、将来収益を生むビジネス、商品、サービスを作りあげるための投資を行うことの障害となっていた「既存のビジネス、商品、サービス」が新型コロナ危機で取り除かれたと解釈することも可能です。一瞬のうちに既存のビジネスから解放された経営資源が社内にいっぱい転がっている状態になったわけです。そのような経営資源をどうするか。一般的な発想だと、赤字が拡大しているのだから、リストラをして人員削減をするなどをしてとにかく出血を止めるための策を考えるでしょう。しかし、レジリエントな企業はおそらく、そのようなことはせず、チャンス到来とばかりにこれらの人々を投資活動に投入することでしょう。

 

つまり、新型コロナ危機によって既存の顧客が蒸発してしまい、ヒト、モノ、カネといった経営資源を動員して収益を生み出すことができなくなってしまった。当然大赤字なのですが、実は、レジリエントな企業は、そこで単に悲観的になってリストラをして凌ぐのではなく、既存事業から解放されて使用可能になった経営資源を「将来収益を生み出す」活動に投入している。ですから、ロジカルに考えれば、現在赤字でも、その投資が数年後に収益をもたらすので、しかもそのような投資に全経営資源を集中しているので、より多くの収入が将来生み出されるということになるわけです。これを外面的にみるならば、現在赤字でも、そのうちV字回復、そしてさらに飛躍する企業になるということなのです。

 

でも、よく考えてみると、将来の収益を生み出す活動に経営資源を投入しているので現在赤字だというのは、当たり前のことだと気づきますね。そしてそれは新型コロナ危機があろうとなかろうと関係のない話です。例えば、創業以来、平時でもずっと赤字でありつづけた企業の例に、Amazonがあります。投資家は、Amazonが未来の収益のために経営資源を投入して投資していることを知っているので、赤字であっても、将来はV字回復どころか雪だるま式に収益が増えていくことは明白だと判断していたわけです。だからこそ株価が高騰したのです。

 

レジリエントな企業の経営者は、この当たり前なことを知っている。平時だと、既存の事業の運営と将来の収益のための投資を二刀流で、あるいは「両利きの経営」によってやらなければならない非常に複雑な状況であるわけだが、新型コロナ危機が起こったことで、将来の収益を生むための投資に経営資源を集中できるという分かりやすい状況になった。いま投資で赤字を作っておいて、将来大きな収益を生み出すという、シンプルな経営になった。だからチャンス到来と考えるのでしょう。

 

もちろん、現実の世界はこれまで論じてきたほどには単純ではないですし、上記の論理にしても、投資が必ず将来の収益を生むわけではないという反論も考えられます。実際は、言うは易しであって実行するのは難しいでしょう。しかし、数年後あるいはもっと先の将来に、新型コロナ危機を乗り越えて見事に復活、躍進を果たした企業があったとした場合、その企業の過去の活動を振り返ってみるならば、ここで論じたような投資活動をやっていたから、当然のごとく復活できたのだということを確かめることができるのではないかと考えています。