組織の日々の活動を支えているのが、ルーチン(繰り返し)活動であり、ルーチンとは、組織がタスクやサブユニット間の調整に用いる定型的で予測可能な行動パターンとして定義されます。従来は、このルーチンに機械やITによる自動化を導入することで、より効率的、効果的に業務ができるように組織が発展してきました。従来の実務や経営学で前提となっていたのは、このルーチンを担うもっとも重要な主体は人間だということでした。しかし今起こっていることは、AIやロボットといった技術が、人間に匹敵する、あるいは一部は人間を凌駕するような学習能力や判断・意思決定能力を身に着けるようになったことによって、ルーチンにおいてもより重要な役割を担うようになっているということです。
もはや、人間にとって技術とは、人間が物事を成し遂げるために受動的に用いられるものという既成概念を超えつつあります。自律性や認知能力を獲得したAIやロボットが、人間と協働しながら組織のルーチンを支えていくという現象が起こっているのです。このような現実を考えるならば、人間のみをルーチンを担う主体としてとらえてきた従来の経営学を更新しなければなりません。この点を踏まえ、Murray, Rhymer & Sirmon (2021)は、AIやロボットのような技術と人間がどのような形で組織ルーチンを担う自律性を分担しあうか(結合自律性)によって、ルーチンが変化する度合い、その変化の予測可能性、そしてルーチンの環境変化への反応の感応度が異なってくること、それらの特徴についての理論化を行いました。
Murrayらは、まず、ルーチンを、そのプロトコル作成と行為選択の2要素に分けます。店舗経営を例として考えてみましょう。店舗業務には、店のレイアウトから陳列、発注・在庫管理、顧客対応、支払いなど様々なルーチン業務があります。プロトコル作成は、特定のルーチン業務において状況に応じて異なる行為を行うためのルールづくりです。例えば、商品の売れ行きによって陳列を変えるといったルールです。行為選択は、状況とプロトコルを照らし合わせながら実際の行為を選択することです。ルーチンのプロトコル作成と行為選択を技術と人間のどちらが担うかによって、結合自律性の4つのパターンが考えられます。
議論のベースとなるのが、技術が人間のルーチン活動を支援するという従来型の役割分担です。技術が人間の支援をするという意味での支援技術(assisting technologies)による結合自律性ですが、この自律性では、プロトコル作成も行為選択も人間が行います。技術は効率化や一部自動化を通してそれを支援します。2つ目は、人間がプロトコル作成を行い、技術が行為選択をするという捕捉技術(arresting technologies)による結合自律性です。店舗経営の例でいえば、無自店舗となってロボットやAIが顧客対応や陳列、発注管理を自律的に判断して行いますが、そのルール作りは裏で人間が行っているパターンです。
3つ目のパターンは、技術が機械学習などを通してプロトコル作成を行い、人間がそれに従って行為選択をするという、増強技術(augumenting technologies)による結合自律性です。店舗経営でいえば、顧客対応や陳列、発注管理などは人間が行いますが、そのルールは裏でAIが作成するというものです。店舗にいる人間は、AIが作成したプロトコル(レコメンデーション)にしたがって行為選択をします。そして4つ目は、プロトコル作成も行為選択も技術が担って人間を介さない自動型技術(automating technologies)による結合自律性です。店舗経営でいえば、例えば顧客対応は完全に無人化され、AIやロボットが学習をして、人間の力を介することなく効果的な顧客対応を行います。
では、支援技術による結合自律性との比較において、その他3つのパターンが組織ルーチンの変化度合い、その予測性、環境変化への反応の感応度がどう異なるかについてのMurrayらの理論を説明しましょう。まず、捕捉的技術による結合自律性の場合、人間が定めたルールに忠実に従ってロボットなどが行為選択するので、杓子定規で融通が利きません。それではまずいということでより柔軟性を持たせたり融通が利くようにルールの更新や改変を行うのは人間ですが、人間が直接行為選択をしていないので、どのようにルールを変える必要があるのかについての情報を得るのが難しかったり遅延したりします。そのため、支援技術による結合自律性と比べるとルーチン変化の度合いが小さくなるとMurrayらは論じます。
また、ロボットなどの技術は、人間が作成したプロトコルに沿って決められたとおりに行為選択するだけなので、支援技術による結合自律性と比べるとルーチン変化の予測性は高いと論じます。さらに、ロボットのような技術は杓子定規であって、行為選択の結果起こったことを理解したりそこから学習したりフィードバックしたりすることが困難です。つまり環境変化によってルーチンを変える必要性を認識してフィードバックを人間に返すことが困難なため、支援技術による結合自律性と比べると、ルーチンの環境変化への反応の感応度が非常に小さくなると論じます。
次に、増強的技術による結合自律性の場合、行為選択をする人間が、ルーチンの更新ニーズを察知した場合には、それを人間が受けてルールの更新や改変を行う場合と、それを学習機能をもったAIが行う場合とを比べると、後者のほうが人間が持つ現状維持バイアスなどの囚われないで更新や改変を行うため、支援技術による結合自律性と比べると、ルーチンの変化度合いは若干高まると論じます。また、同様の理由により、AIが行うプロトコルの更新や改変がブラックボックス化したり人間にとって分かりにくくなったりするのでルーチン変化の予測可能性は若干低くなり、人間は必ずしも杓子定規にプロトコルに従うわけでなく、ルーチンのプロトコルを変えなくても臨機応変に融通を聞かせたり柔軟に対応して行為選択をすることができるので、ルーチンの環境変化への反応の感応度が若干小さくなると論じます。
最後に、自動型技術による結合自律性ですが、行為選択をするAIやロボットも判断能力や学習能力があるので、人間が気づかないような微妙な変化についても察知し、それをプロトコルの更新や改変に利用します。よって、支援技術による結合自律性と比べるとルーチンの変化の度合いは非常に大きいと予測されます。また、人間が気づきにくい変化もルーチンの変化に取り入れますし、更新や改変もビッグデータや機械学習に基づいて人間が理解できないような方向にもっていったりブラックボックス化したりするので、ルーチンの変化の予測可能性も非常に小さくなります。そして、同様の理由、そして技術による情報処理や計算能力が高速でもあるので、ルーチンの環境変化への反応の感応度が大きくなると予想されます。
ルーチンを自律的に扱う担い手が、人間のみの時代から、技術と人間の結合自律性の時代に移行するようになれば、数多くのルーチンを回しながら活動を行う組織としては、ルーチンごとに結合自律性の種類について選択肢が増えることになります。異なる結合自律性はルーチンの変化、予測可能性、感応度などにおいて異なる影響をルーチンに与えるため、それが組織の生産性や競争力に影響するでしょう。よって組織としては、異なるタイプの結合自律性の特徴をよく理解したうえで選択することが重要となります。また、ルーチンを担う結合自律性の選択肢が増えることは、組織構造や業務の設計、事業戦略など様々な面と関わってくるでしょう。今回のMurrayらの理論化は、技術と人間の結合自律性の時代に組織ルーチンがどう変容していくのかを理解するうえでの第一ステップにしかすぎないともいえますが、このステップを皮切りに、後続する将来研究が、技術と人間との協働た結合自律性という新しい全体に基づいた新しい組織論の発展に寄与していくことが期待されます。
参考文献
Murray, A., Rhymer, J. E. N., & Sirmon, D. G. (2021). Humans and technology: Forms of conjoined agency in organizations. Academy of Management Review, 46(3), 552-571.