世界におけるジェンダー平等の実現はまだ道半ばです。ビジネスの世界で言えば、世界的に見ても女性リーダーの数は少なく、女性が主導するスタートアップの数も男性によるものには及びません。女性が男性のように活躍できない原因の多くは、女性が男性が得られるようなリソースと同等のものを獲得できないことにあります。そしてそれは、リソース配分を伴う意思決定において女性が不利な立場にあることを意味します。そういった女性の不利性は、男性と同等の能力やクオリティであっても、ステレオタイプやバイアスによって意思決定が歪むこともこれまで指摘されてきました。
実務の世界における意思決定の多くは、段階的に進みます。段階を踏みながら意思決定をする方が、複雑性を徐々に低減し、質の高い意思決定ができると考えられているからです。典型的なのが、採用選考プロセスで、一次選考で候補者を絞って、いくつかのステージを踏んで最終選考で採用者を決定するというものです。社内の予算の公募であったり、昇進者の決定であったり、賃金の決定であったり、さまざまな場面で段階的選考が行われます。しかし、過去の研究では、段階を踏んだ意思決定において、ジェンダーギャップがどのように関わっているのかについてはよくわかっていませんでした。
そのような問題意識に基づいて、Botelho & Poskanzer (2024)は、米国最大級の起業家アクセラレーターが実施した、多段階のピッチコンテストのデータを2013年から2021年までの9年間にわたって集め(参加スタートアップ数2,960社、評価者数: 1,274名、総評価数23,893件)、初期選考と最終選考の意思決定結果の違いやその理由について詳細で厳密な分析を行いました。分析の結果として明らかになったのは、初期選考では、女性が率いるスタートアップ企業の方が、男性が率いるスタートアップ企業よりも、通過する確率が18.7%高かったのに対し、最終選考の結果ではこれが逆転し、女性が率いるスタートアップ企業の方が、男性が率いるスタートアップ企業よりも、30.7%も落とされる確率が高かったということです。
この研究自体は、スタートアップ企業が資金提供を獲得するためのピッチコンテストという文脈に限定されますが、選考の初期段階では女性が有利であるが、選考が進むにつれ、男性有利に傾き、最終選考では男性の方が選ばれやすくなるという法則性を確認したことになります。そしてこれは、スタートアップという特殊な文脈にかかわらず、ビジネスや経営の他の場面でも観察されうる法則性である可能性が高いと考えられます。例えば、女性リーダーの登用について考えてみると、組織のエントリーレベルの採用や、ジュニア、ミドルマネジャーへの昇進についていうと、実力が同等であれば、女性の方が男性よりも選ばれやすいが、シニアマネジャーや経営幹部、役員レベルになってくるにつれて、実力が同等の場合でも男性のほうが選ばれやすくなるといった具合です。
このように今回のBotelho & Poskanzer による発見が他のビジネス・経営場面に対しても一般化できる可能性が高いと思われる理由は、今回の研究での予測に用いられた理論やロジックに一般的な性質があることにあります。以下、そのロジックを説明しましょう。Botelho & Poskanzerは、段階を踏んだ意思決定を行う際の、初期段階での意思決定と、最終段階での意思決定の特徴の違いに着目します。初期段階のスクリーニング的な意思決定の特徴は、通過させた候補者であっても後の段階でもう一度評価することができるので、間違って望ましくない候補者を通過させてしまうリスクが深刻ではなく(その場合は後で落とせば良い)、むしろ幅広く探索的な評価をすることで意思決定の質を高めようとすることが考えられます。
しかし、段階が進み、最終段階の意思決定になると、そこでの最終的な意思決定は後戻りすることができないという拘束性が高く、それゆえ、間違って望ましくない候補者を選んでしまうことの損失が大きいため、そのようなリスクは極力避けなければなりません。このように、初期段階から最終段階へと進むにつれて、意思決定の緊迫感、重大性、深刻性が高まっていくわけです。そうすると、意思決定者は、初期段階の意思決定と比べると保守的になりリスク回避的になります。このような特性が、以下のような形でジェンダー的要素と結びついているとBotelho & Poskanzerは考えました。
初期段階でのスクリーニングや一次選考では、平均的にみると女性の方がこれまでに困難を克服している度合いが高い分だけ、女性の候補者の方が優秀であること、ダイバーシティの観点から女性を優遇しようとする意思決定者の意図が働くこと、女性を含めることでより多くの選択肢を残しておこうという意図などが働きます。一方、意思決定の最終段階になると、最終候補者の将来の業績予測がより重要になってきますが、業績予想の際、ジェンダーステレオタイプやバイアスの影響を受ける(男性の方が有能で仕事ができる)ことで、女性の業績予想が男性と比べて低く見積もられうること、後戻りができず間違った意思決定をしたくないというリスク回避的な姿勢が優位になるので、典型的であって無難である男性を選ぼうとするとすること(男性優位の社会では女性は非典型的な位置付けとされる)などが挙げられます。
Botelho & Poskanzerがスタートアップピッチコンテストの注意深いデータ分析から確認したのは、上記のロジックのうち、一次選考段階では女性が率いるスタートアップの方が平均的にクオリティが高かったことが、女性のスタートアップの方が男性のスタートアップよりも選考を通過しやすい要因になっていたと結論づけました。一方、最終選考の際には、業績を予測する際にジェンダーステレオタイプやバイアスの影響を受けていたこと、リスク回避的になっていたがゆえに典型的なスタートアップを選別しようとしていたことが、女性のスタートアップが男性のスタートアップよリも落とされやすい原因であったと結論づけました。
Botelho & Poskanzerの発見は、ダイバーシティ推進やジェンダー平等において重要な示唆をもたらします。それは、女性の活躍にとって重要なのは、最終的な意思決定においてフェアに扱われて活躍するために重要なリソースを獲得することができることであるので、その途中段階でフェアに扱われたり優遇されたりしても、最終的にそれが逆転してしまったら意味がないということです。よって、企業やビジネスにおいて重要なリソースを配分する側から意思決定する人々は、途中段階で女性に対してフェアであるとか優遇したとかで満足してしまうのではなく、最終的な意思決定により注意を向けて、そこでバイアスがかかった意思決定をしてしまっていないか、女性が不利になる状況を作ってしまっていないかを気をつけることが重要なのです。
参考文献
Botelho, T. L., & Poskanzer, E. J. (2024). Getting in the Door vs. Winning It All: How Gendered Outcomes Change Across Evaluation Stages in Entrepreneurship. Administrative Science Quarterly, 00018392261442931.