一次選考では男性よりも女性が選ばれやすいのに最終選考で女性が落とされやすいのはなぜか

世界におけるジェンダー平等の実現はまだ道半ばです。ビジネスの世界で言えば、世界的に見ても女性リーダーの数は少なく、女性が主導するスタートアップの数も男性によるものには及びません。女性が男性のように活躍できない原因の多くは、女性が男性が得られるようなリソースと同等のものを獲得できないことにあります。そしてそれは、リソース配分を伴う意思決定において女性が不利な立場にあることを意味します。そういった女性の不利性は、男性と同等の能力やクオリティであっても、ステレオタイプやバイアスによって意思決定が歪むこともこれまで指摘されてきました。

 

実務の世界における意思決定の多くは、段階的に進みます。段階を踏みながら意思決定をする方が、複雑性を徐々に低減し、質の高い意思決定ができると考えられているからです。典型的なのが、採用選考プロセスで、一次選考で候補者を絞って、いくつかのステージを踏んで最終選考で採用者を決定するというものです。社内の予算の公募であったり、昇進者の決定であったり、賃金の決定であったり、さまざまな場面で段階的選考が行われます。しかし、過去の研究では、段階を踏んだ意思決定において、ジェンダーギャップがどのように関わっているのかについてはよくわかっていませんでした。

 

そのような問題意識に基づいて、Botelho & Poskanzer (2024)は、米国最大級の起業家アクセラレーターが実施した、多段階のピッチコンテストのデータを2013年から2021年までの9年間にわたって集め(参加スタートアップ数2,960社、評価者数: 1,274名、総評価数23,893件)、初期選考と最終選考の意思決定結果の違いやその理由について詳細で厳密な分析を行いました。分析の結果として明らかになったのは、初期選考では、女性が率いるスタートアップ企業の方が、男性が率いるスタートアップ企業よりも、通過する確率が18.7%高かったのに対し、最終選考の結果ではこれが逆転し、女性が率いるスタートアップ企業の方が、男性が率いるスタートアップ企業よりも、30.7%も落とされる確率が高かったということです。

 

この研究自体は、スタートアップ企業が資金提供を獲得するためのピッチコンテストという文脈に限定されますが、選考の初期段階では女性が有利であるが、選考が進むにつれ、男性有利に傾き、最終選考では男性の方が選ばれやすくなるという法則性を確認したことになります。そしてこれは、スタートアップという特殊な文脈にかかわらず、ビジネスや経営の他の場面でも観察されうる法則性である可能性が高いと考えられます。例えば、女性リーダーの登用について考えてみると、組織のエントリーレベルの採用や、ジュニア、ミドルマネジャーへの昇進についていうと、実力が同等であれば、女性の方が男性よりも選ばれやすいが、シニアマネジャーや経営幹部、役員レベルになってくるにつれて、実力が同等の場合でも男性のほうが選ばれやすくなるといった具合です。

 

このように今回のBotelho & Poskanzer による発見が他のビジネス・経営場面に対しても一般化できる可能性が高いと思われる理由は、今回の研究での予測に用いられた理論やロジックに一般的な性質があることにあります。以下、そのロジックを説明しましょう。Botelho & Poskanzerは、段階を踏んだ意思決定を行う際の、初期段階での意思決定と、最終段階での意思決定の特徴の違いに着目します。初期段階のスクリーニング的な意思決定の特徴は、通過させた候補者であっても後の段階でもう一度評価することができるので、間違って望ましくない候補者を通過させてしまうリスクが深刻ではなく(その場合は後で落とせば良い)、むしろ幅広く探索的な評価をすることで意思決定の質を高めようとすることが考えられます。

 

しかし、段階が進み、最終段階の意思決定になると、そこでの最終的な意思決定は後戻りすることができないという拘束性が高く、それゆえ、間違って望ましくない候補者を選んでしまうことの損失が大きいため、そのようなリスクは極力避けなければなりません。このように、初期段階から最終段階へと進むにつれて、意思決定の緊迫感、重大性、深刻性が高まっていくわけです。そうすると、意思決定者は、初期段階の意思決定と比べると保守的になりリスク回避的になります。このような特性が、以下のような形でジェンダー的要素と結びついているとBotelho & Poskanzerは考えました。

 

初期段階でのスクリーニングや一次選考では、平均的にみると女性の方がこれまでに困難を克服している度合いが高い分だけ、女性の候補者の方が優秀であること、ダイバーシティの観点から女性を優遇しようとする意思決定者の意図が働くこと、女性を含めることでより多くの選択肢を残しておこうという意図などが働きます。一方、意思決定の最終段階になると、最終候補者の将来の業績予測がより重要になってきますが、業績予想の際、ジェンダーステレオタイプやバイアスの影響を受ける(男性の方が有能で仕事ができる)ことで、女性の業績予想が男性と比べて低く見積もられうること、後戻りができず間違った意思決定をしたくないというリスク回避的な姿勢が優位になるので、典型的であって無難である男性を選ぼうとするとすること(男性優位の社会では女性は非典型的な位置付けとされる)などが挙げられます。

 

Botelho & Poskanzerがスタートアップピッチコンテストの注意深いデータ分析から確認したのは、上記のロジックのうち、一次選考段階では女性が率いるスタートアップの方が平均的にクオリティが高かったことが、女性のスタートアップの方が男性のスタートアップよりも選考を通過しやすい要因になっていたと結論づけました。一方、最終選考の際には、業績を予測する際にジェンダーステレオタイプやバイアスの影響を受けていたこと、リスク回避的になっていたがゆえに典型的なスタートアップを選別しようとしていたことが、女性のスタートアップが男性のスタートアップよリも落とされやすい原因であったと結論づけました。

 

Botelho & Poskanzerの発見は、ダイバーシティ推進やジェンダー平等において重要な示唆をもたらします。それは、女性の活躍にとって重要なのは、最終的な意思決定においてフェアに扱われて活躍するために重要なリソースを獲得することができることであるので、その途中段階でフェアに扱われたり優遇されたりしても、最終的にそれが逆転してしまったら意味がないということです。よって、企業やビジネスにおいて重要なリソースを配分する側から意思決定する人々は、途中段階で女性に対してフェアであるとか優遇したとかで満足してしまうのではなく、最終的な意思決定により注意を向けて、そこでバイアスがかかった意思決定をしてしまっていないか、女性が不利になる状況を作ってしまっていないかを気をつけることが重要なのです。

参考文献

Botelho, T. L., & Poskanzer, E. J. (2024). Getting in the Door vs. Winning It All: How Gendered Outcomes Change Across Evaluation Stages in Entrepreneurship. Administrative Science Quarterly, 00018392261442931.

 

インクルーシブな組織の実現を困難にするプロトタイプ排他性

組織にとって、ダイバーシティを真に生かすために重要なのが、インクルージョンです。近年では、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)とかDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)と呼ばれます。ダイバーシティを高めることは、様々な人々が組織で一緒に働くことを意味しますが、そこでは、社会的マジョリティ(支配的集団)と社会的マイノリティ(非支配的集団)に属する人々が共存します。ただダイバーシティが高いだけで、マイノリティの人々が組織に溶け込めず、周辺に追いやられるようではいけません。そこで生じてきたコンセプトが、インクルージョン(包摂)なのです。

 

そこで働くすべての人々が組織に包摂されることがインクルージョンであり、インクルーシブな組織であるわけですが、インクルージョンは、個人にとって2つのニーズが同時に満たされている状態であると定義されます。1つ目は、その組織のメンバーの一員であると感じる「所属感覚」、もう一つが、本当の自分の個性を発揮できていると感じる「自分らしさ」の発揮です。ここで、Danbold & Wiesenfeld  (2026)は重要な視点を投げかけます。それは、マジョリティの人々は、所属感覚と自分らしさの両方を経験しやすいのに対し、マイノリティの人々は、この2つがトレードオフになってしまい、所属感覚を高めようとすると自分らしさが犠牲になり、自分らしさを維持しようとすると所属感覚が得られないといった経験をしがちだというのです。

 

では、このような違いはなぜ生じるのでしょうか。そこでDanbold & Wiesenfeldが生み出した新たなコンセプトが、「プロトタイプ排他性」です。ここでいう「プロトタイプ(メンバープロトタイプ、典型性)」とは、組織のメンバーとして典型的な人物像を意味します。例えば、ある会社の名前を聞いた時に思い浮かぶそこで働く人物のイメージはどんなものか。インベストメントバンクG社で働く典型的な人材はどんな人か、メーカーT社で働く典型的な人材はどんな人か、という感じです。職業で言えば、消防士として働いている人はどんな人か。後者では、勇敢な男性のイメージが強く、優しい女性のイメージは湧きにくいですね。

 

組織にメンバー・プロトタイプがあるということは、そのプロトタイプに当てはまる人は、自分らしさを発揮しても所属感覚を犠牲にする必要がありませんが、プロトタイプに合わない人は、所属感覚を得るために自分の振る舞いをプロトタイプに合わせることが必要で、そうすると自分らしさが出せません。マジョリティ集団に属する人は組織のプロトタイプと合致しやすいのに対し、マイノリティ集団に属する人は合致しにくいと考えられます。アメリカの文脈でいえば、白人、男性、異性愛者、健常者などはプロトタイプと合致しやすく、有色人種、女性、同性愛者、障害者などはプロトタイプと合致しにくいです。プロトタイプと合わない人は、所属感覚と自分らしさの両立が困難になり、組織の周辺に追いやられたり排除されることから、「プロトタイプ排他性」というコンセプトが提唱されたのです。

 

Danbold & Wiesenfeld は、組織が有するプロトタイプ排他性には度合いがあり、プロトタイプ排他性が強い組織は、インクルージョンの実現が困難である一方、プロトタイプ排他性を弱めることができれば、多くの人々を包摂でき、インクルーシブな組織を実現しやすくなると論じます。プロトタイプ排他性の度合いは、社会階層や社会構造の影響を受けます。つまり、マジョリティの人々が有している特徴、とりわけ、複数の特徴の交差性(インターセクショナリティ)の影響を受けます。わかりやすいのが、アメリカにおいて白人+男性という交差性は、白人+女性や、黒人+男性よりもプロトタイプに近づくという具合です。とりわけ、社会を支配してきた人々が優先的に雇用され、従事してきた職業は、それが伝統や残像として残り、それがその産業・業界の組織におけるプロトタイプとなっているといます。

 

プロトタイプ排他性の度合いを規定する要因は4つあります。1つ目はアクセシビリティです。これは、プロトタイプと合致しない人々が、プロトタイプに合わせようとする際に必要なコストを示しており、コストが高いと無理をしなければプロトタイプに合わせることができないので、その組織のプロトタイプ排他性が強くなります。例えば、女性社員にとって、所属する会社の営業社員のプロトタイプである長時間残業、休日出勤、飲酒を伴う夜の接待、休日に接待ゴルフをする人物はアクセシビリティが低いので、プロトタイプ排他性を強めます。2つ目は交差性の元となる要素の多さで、例えば、白人+男性+理系+活力+押しの強さ、というように交差性の数が増えれば増えるほどそれに当てはまる人の数が減ってくるのでプロトタイプの範囲が狭くなり、プロトタイプ排他性が強まります。ただ、交差性の数が多すぎると、誰もそのプロトタイプにピッタリと合致しなくなるので排他性は低くなります。

 

3つ目がバランスで、例えば「社交性」と「勤勉性」がプロトタイプの構成要素となっている場合、アメリカ文脈で言えば、黒人は社交的なステレオタイプがあるので社交性と結びつきやすく、アジア系アメリカ人は勤勉であるというステレオタイプがあるので勤勉性と結びつきやすいです。社交性と勤勉性のバランスが取れていると、黒人もアジア系アメリカ人もプロトタイプに合致することが可能ですが、どちらかに大きなウエイトがかかっていると、どちらかの人種のみが合致し、もう一方が排除の対象となるので、プロトタイプ排他性が高まります。4つ目が明瞭性で、プロトタイプとそうでない人物像の境界線が明瞭であればあるほど、誰が合致しないかがクリアになるのでプロトタイプ排他性が高まります。

 

プロトタイプ排他性の高い組織は、人事施策がプロトタイプに合致した人材向きなので、先述の通り、プロトタイプの合致しない人は、所属感覚と自分らしさの両立が困難となり、また、新規採用においてもプロトタイプと合致しない人を惹きつけないので、インクルーシブな組織の実現が困難になります。それは多くの場合、社会における非支配的集団に属するマイノリティ人材を排除しがちになることを意味します。したがって、組織のインクルージョンの実現を目指すインクルーシブリーダーに必要なのは、まず持って組織のプロトタイプ排他性の特徴や強度を診断し、それに影響を与えている要因を操作することでプロトタイプ排他性を弱める施策を進めることです。具体的には、プロトタイプ排他性を強める低アクセシビリティ、交差性要素の数、バランスの偏り、明瞭性を減らし、組織で働く人物像としてインクルーシブなプロトタイプを再構築していくことだと言えましょう。

参考文献

Danbold, F., & Wiesenfeld, B. M. (2026). Understanding Inclusion: The Role of Organization Member Prototypes. Academy of Management Review, (ja), amr-2023.

 

パイプライン型とスプリンクラー型の職務構造の違いとは

一般的にいって大企業で働く場合は、経験やスキルの蓄積とともに企業内で現在の職務からさらに高い職位へとタテ方向に昇進していくのが自然です。特に、欧米のようなジョブ型雇用の場合には、現在担当している職務(ジョブ)に雇用されているわけで、昇進というのは、それよりも職階上の上位に属する別の職務に雇用され直すことを意味します。これに関してYiu, Bidwell & Keller (2026)は、公式的な職務構造に関わらず、実践場面において企業内で人材がある職務から上位の職務に昇進しているパターンは、同一企業であっても職務の特徴によってさまざまなパターンがあると指摘します。

 

これまで、企業内の人材移動を扱う内部労働市場論や一般的な欧米のテキストでは、大企業にはタテ方向に昇進していくキャリア・ラダー(職階のはしご)があるか、はしごがない行き止まりのキャリアかの違いくらいしか説明がなく、研究ギャップがあるとYiuらは主張するのです。では、Yiuらはどのように企業内の昇進のパターンをとらえようとしたのでしょうか。Yiuらが着目したのは、職務の特徴として「パイプライン志向」の度合いがあるということです。人事の分野では、例えば企業が特定の有力大学から定期的に人材の供給を受けるような現象を指してパイプラインという用語を用いることがありましたが、Yiuらは、企業の内部労働市場を理解するための概念としてこの用語を用いています。

 

Yiuらが命名するパイプライン志向とは、その職務から昇進していく次の上位の職務とが仕事内容や求められるスキルが関連しており、キャリア・パスがクリアで連続性があるような特徴をもっている度合いを指します。例えば、人事の採用スタッフから人事マネージャーというように同一方向に昇進していく場合、パイプライン志向の強い職務だと解釈します。一方、人事の採用スタッフから、製造部門の監督者へと昇進するケースがあるならば、パイプライン志向の弱い職務だと言えます。Yiuらは、前者のような職務を「パイプライン型職務」と呼び、後者のような職務を、昇進の方向が広がっていることから「スプリンクラー型職務」と呼びました。ただ、世の中の職務がこの2つのどちらかに分類されるということではなく、実際には、中間的なものも含め、幅があることを補足しておきます。

 

では、この2つの大まかな昇進パターンを持つ職務構造の違いはどのようなものでしょうか。まず、職務を遂行するのに必要なスキルセットの特殊性が強く狭い場合には、類似する上位の職務を遂行するのに役立つため、パイプライン型になりやすいと言えます。逆に、必要とするスキルセットが幅広い場合には、さまざまな異なる職務にも適用できる可能性があるため、スプリンクラー型になりやすいです。次に、職務が属する機能が小規模であったり、R&Dや製造など職務が企業内の狭い範囲に集中しているために他の機能や部門との交流が少ない場合は、パイプライン型にやりやすいです。逆に、大規模な機能で企業内に分散しているために他機能や他部門との交流が多いような職務はスプリンクラー型になりやすいです。

 

次に昇進スピードについて見てみましょう。パイプライン型の職務の場合には、その上位の職務とスキルセットが類似しているので、採用担当者から見ると採用候補者を見つけやすく、遂行能力についての評価や判断がしやすく、即戦力として活躍してもらう目処が立ちやすいといえます。よって、昇進スピードが速いと考えられます。一方、スプリンクラー型の職務の場合には、上位職務についてはさまざまな可能性があり、それぞれの職務の採用担当者にとっては、即戦力として活躍できるかどうかの不確定要素が高いと考えます。また、昇進をしようとする本人にとっても、自分がその職務に適していることを採用担当者に説得する手間やコストがかかります。よって、パイプライン型に比べると、昇進スピードが遅いと考えられます。

 

Yiuらは、上記のようなパイプライン型職務とスプリンクラー型職務の特製の違いを、大企業の人事データを用いて検証し、理論や仮説を支持する結果を得ました。Yiuらによる理論モデルが示唆するのは、パイプライン型とスプリンクラー型を比較すると、パイプライン型よりもスプリンクラー型の方が、その後のキャリアパスに柔軟性があると言えますが、スプリンクラー型よりもパイプライン型の方が昇進スピードが速い。別の言い方をすれば、パイプライン型の仕事に就けばは融通が効かないが早く出世しやすい。スプリンクラー型の仕事に就けばつぶしが効くが出世はゆっくりである。キャリアの柔軟性と昇進スピードとの間にはトレードオフがあるということです。

 

この研究は、ジョブ型雇用の組織が前提となっており、ジョブ型雇用を採用している米国の大企業で行われました。では、この研究をジョブ型への移行を目指している日本の大企業に当てはめるならば、どんなことが言えるでしょうか。いまだに日本の大企業の多くは総合職といった職種に代表されるメンバーシップ型雇用であるため、特殊な技術職や法律職などの専門職を除けば、この研究でいうところのスプリンクラー型の特徴が色濃く反映されているといえるでしょう。日本の人事の特徴として挙げられる「ジョブローテーション」と「遅い昇進」は、スプリンクラー型の特徴を表しています。今後、日本企業がジョブ型雇用に移行するならば、パイプライン型の職務構造も増加していくのでしょうか。

参考文献

Yiu, S., Bidwell, M., & Keller, J. R. (2026). Pipelines and Sprinkler Systems: Documenting the Speed–Flexibility Tradeoff in How Jobs Shape Promotion. Academy of Management Journal. https://doi.org/10.5465/amj.2024.0582

 

起業家から企業雇用者へのキャリア転換は採用選考で有利なのか不利なのか

起業を経験した起業家(アントレプレナー)であっても、生涯にわたって起業家であり続けるとは限りません。なかには企業に就職するというかたちでキャリア転換を図る人もいるでしょう。そこで生じるのが、起業経験を持つ人材が企業の採用選考に応募した場合、そのバックグラウンドは選考において有利に働くのか、それとも不利に働くのかという問いです。Williamson, Munyon, Mchiri & Kozusznik (2026)は、この問いに答えるための興味深い理論構築と実証データによる検証を行いました。

 

先行研究では、起業家が企業の採用選考に応募する際に「設立者ペナルティ」と呼ばれる不利性を被ることが示されています。採用担当者が起業家に対して抱くイメージにはポジティブな面とネガティブな面があります。前者としては、自律性・主体性・リーダーシップ・高い達成動機が、後者としては、管理しにくさ・組織へのコミットメントの低さ・チームワークへの不適性が挙げられます。

 

しかし一般に、人はポジティブな側面よりもネガティブな側面を重視する傾向があるため、起業家のネガティブなイメージのみがクローズアップされ、選考において不利に働きやすいとされます。すなわち、同一ポジションに起業家と一般の企業雇用者が応募してきた場合、起業家のポジティブな面はネガティブな面によって隠されてしまい、ネガティブな面のみが懸念材料となってしまうため、採用担当者は起業家よりも企業雇用者を選好しがちであるというわけです。

 

これに対してWilliamsonらは、「ロール・レクティフィケーション(役割の修正)理論」を提唱し、先行研究の知見を修正しようとしました。先行研究の問題点は、専業起業家が採用選考に応募するケースのみを想定していた点にあります。では、企業に勤めながら起業家としても活動する「ハイブリッド起業家」の場合はどうなるでしょうか。Williamsonらは、複数の役割を経験することの利点を説く役割蓄積理論を援用し、次のように論じています。

 

採用担当者がハイブリッド起業家の適性を評価する際、その人物が企業雇用者でもあるという事実が、「管理しにくい・組織へのコミットメントが低い・チームワークが苦手」といったネガティブな要素を相殺します。その結果、その人物が企業から雇用されていることに伴うポジティブな側面に加え、「自律性・主体性・リーダーシップ・高い達成動機」といった起業家が有するポジティブな面が前面に出るようになり、一般の企業雇用者と比べても選考上有利に働くと予測されるのです。つまり、起業家は企業雇用者としての経験も併せ持つハイブリッド性を身につけることで、専業起業家であれば不利に働いていた採用選考の状況を、逆転して有利な状況へと転換できるというわけです。

 

ただし、Williamsonらはこの「ロール・レクティフィケーション理論」の適用範囲にも目を向け、その境界条件を同時に理論化しています。ハイブリッド起業家が役割の修正によって採用選考で得られる優位性は、本人が採用後に応募するポジションが必要とする要求に従わないリスクも考慮され、そのリスクが大きくなる場合には、優位性が弱まると考えたのです。具体的には、応募するポジションの自律性が高い場合、および採用後もハイブリッド起業家としての活動を継続する場合には、役割修正による優位性が弱まるとされます。

 


自律性の高いポジションへの応募に際しては、自律的な環境で仕事をしてきたハイブリッド起業家が企業内でも身勝手な行動をとるリスクがあると採用担当者に懸念される可能性があると考えました。また、採用後もハイブリッド起業家としての活動を継続する場合には、就業後も本人が起業家としての活動を優先してしまって対象のポジションでの仕事に身が入らなくなると危惧される傾向があると予想しました。

 

Williamsonらは、3つの研究(実験的研究、質的調査、アーカイブによる数量的研究)によって、専業起業家と比べてハイブリッド起業家が、企業雇用者よりも企業への採用可能性や採用された時の賃金の高まりが得られるかどうか、そしてその効果が応募ポジションの自律性やハイブリッド起業家の継続によって弱まるかどうかを検証し、その結果、彼らの理論が妥当であることを確認しました。

 

参考文献

Williamson, G., Munyon, T. P., Mchiri, A., & Kozusznik, M. W. (2026). Role rectification: How hybrid entrepreneurship turns entrepreneur roles from liability to advantage in hiring. Academy of Management Journal. 

https://doi.org/10.5465/amj.2023.1071

キャリアのジェンダー平等を実現する鍵は「ワークライフ・インクルージョン風土」にある

世界にとって、そしてとりわけ日本にとって、ワークキャリアのジェンダー平等を実現することは喫緊の社会課題だと言えます。そのため、歴史的に続いてきた組織や職場での職務環境や賃金、昇進機会といった様々な男女格差を解消すべく、いろんな施策が推奨され、推進されてきました。そのような施策には、ファミリーフレンドリー施策やワークライフバランス施策などがあり、日本でも男性育休の推進などが企業で進められてきています。しかし一方で、このような施策が普及しつつあるにも関わらず、例えば管理職の男女比率を見れば明らかなように、キャリアの男女格差は遅々として進まないという批判もあります。

 

なぜ、男女格差が劇的に改善しないのでしょうか。その理由にはいくつかありますが、1つには、いわゆるワークライフバランス施策が形だけ存在しており、実質的には機能していないために女性にとって働きやすい職場になっていないというケースがあります。例えば、企業としては、表向きはジェンダー平等を推進していることを示したいがゆえに、外から見えやすい役員構成に女性社外取締役を増やすなどをしても、社内としては依然として働きやすさや昇進機会の男女格差が存在していたりします。女性の方が男性よりも家事などの負担が大きいために、その負担の格差を解消する努力がなされていない場合には女性が男性と平等な立場で働いたり昇進機会を得たりすることができないわけです。

 

上記のような視点から、Li, Liu, Huang, Kossek, Wang, Ji & Liu (2026)は、働き方やキャリアの男女格差を解消し、ジェンダー平等を実質的に推進していくためには、ワークライフバランス施策のみでは不十分であり、もっと重要なのは、仕事以外の私生活における負担の男女格差を埋めることを可能にするような職場風土の醸成であると主張します。このような風土を、Liらは「ワークライフ・インクルージョン風土」と命名しました。この風土とはどのようなものかを考える上で役立つのは、以下のように「ワークライフ・インクルージョン風土」が醸成されていない典型的な職場を考えることです。

 

まず、仕事が私生活よりも優先されることが当たり前となっている職場です。利益を出す必要がある企業からすれば、社員には少なくとも業務時間中は仕事に集中して欲しいことはわかります。男性であれば、仕事を第一、家庭を第二としたとしても過去であれば正当化されたでしょうが、女性の多くはそうはいきません。ですので、仕事が優先される職場では女性の居心地は悪く、かつ仕事を優先する人物の方が好まれ、出世しやすく、収入もアップするということであれば、一部の女性のみしかそれに値しないので、男女格差は埋まらないでしょう。次に、関連しますが、私生活のことに関する偏見です。職場で私生活の話をしたり、私生活を持ち込んでほしくないという発想です。職場は仕事をする場であることが徹底されているので、私生活については組織も同僚もドライで冷たいわけです。

 

上記を踏まえ、Liらは、ワークライフ・インクルージョン風土を、従業員のワークライフ関係の課題や状況に対して寛容であり、従業員のワークとライフの関連性については様々な価値観や優先順位があることを尊重し、そういった多様性を包摂する(インクルーシブ)であるという知覚が職場の従業員によって共有されている状態であると定義しました。Liらは、ワークライフ・インクルージョン風土を醸成できれば、とりわけ社員のワークライフのうちライフ(私生活)の部分についてより寛容になり、仕事優先ということではなくなるため、とりわけ私生活での負担が相対的に大きい女性にとっては、仕事のしやすさ、昇進機会などにおいて男性との差が埋まりやすく、その結果、ジェンダー平等が進みやすくなると考えました。

 

そしてLiらは、ワークライフ・インクルージョン風土はそれが独立で醸成されて機能するというよりも、組織によるワークライフバランス施策を含む、様々な人事施策が推進されることによってその風土が醸成されるし、具体的な施策と補完的に働くことによってジェンダー平等に寄与すると主張します。具体的には、3つの人事施策が、ワークライフ・インクルージョン風土すると論じます。1つ目は、個人の私生活を尊重する施策です。例えば、職場において、結婚した、子供が生まれた、入学したなど、個人の私生活での出来事のお祝いごとをするような施策です。もちろんお祝いばかりでなく、私生活で困難が生じた社員を助けたりするような施策も含まれます。

 

2つ目は、男女差のない実力主義の施策です。これは、ジェンダーバイアスにとらわれない、機会が平等で公正な評価や報酬を含んだ人事施策です。評価の公正さに加え、機会の平等ということは、私生活の負担が大きいなどの状況下にあるような従業員であっても無理なく仕事ができるような環境が含まれます。私生活よりも仕事が優先されるがゆえに、仕事人間のみが高く評価されるという施策ではいけないわけです。3つ目は、2つ目と対立するように見えますが、ジェンダーに関する自分らしさを尊重する施策です。男性も女性も、それ以外も全て同じような価値観で、態度で、行動で働きなさいということではなく、自分らしさを出してもそれが包摂される施策ということです。例えば、女性特有の問題を表明することが許され、組織としてもそのような問題に対してサポートするような施策も含まれます。

 

Liらは、ワークライフバランス施策に加え、上記の3つの施策、私生活を尊重する施策、ジェンダーフリーな機会平等かつ公正な実力主義、ジェンダー的自分らしさを尊重する施策を加えた4つの施策が、組織におけるワークライフ・インクルージョン風土の醸成を促すか、そして、ワークライフ・インクルージョン風土は、個々の施策を超えた形でとりわけ女性において私生活における偏見を受ける度合いが減少するか、その結果、離職が減ってリテンションが高まるかどうかを、2つの調査(質的調査による各施策の掘り下げと数量的調査による仮説モデルの分析)によって検証しました。分析の結果、Liらが構築した理論モデルが支持される結果を得ることができました。

 

Liらの研究結果から言えることは、真のジェンダー平等を実現するためには、ワークライフ・インクルージョン風土を高めることが求められるということです。ワークライフバランス施策だけを導入し、整備してそれで終わり、あるいは、役員や管理職などについて見た目だけ女性の数を増やし、働きやすさについては何も変わっていないというような表面的な取り繕いに終始しないことが大切だと言えましょう。

参考文献

Li, Y., Liu, H., Huang, Z., Kossek, E. E., Wang, M., Ji, Y., & Liu, S. (2026). Cultivating a climate for work–life inclusion by implementing human resource practices: Reducing personal life stigma to enhance gender career equality. Academy of Management Journal.

 

上層部と親密な社員が同僚からの嫉妬と妨害を招くのはどんなときか

企業で働く際の処世術として、社内人脈を築くことが重要であることがしばしば指摘されますが、とりわけ、社内の上層部とのコネクションを持っていることは、様々な面で有利に働きます。上層部の人物を個人的に知っていたり友人関係にあったりすることで、上層部から引っ張られて出世する可能性も高まりますし、それが仕事をするうえで上層部から重要なリソースを獲得したり上層部から有益な意思決定を引き出したりすることもできるでしょう。そのため、上層部の人々と個人的な知り合いになる(友人関係になる)ことは社内政治的にも仕事を成功させるうえでも奨励されることだと考えられます。

 

しかし、Fang, McAllister, Zhang, Duffy & Wang (2026)は、企業内で上層部と友人関係にあることは良いことばかりでなく、場合によっては同僚から嫉妬され妨害される危険性があることを指摘します。有力な社内人脈を築くことに思わぬ落し穴があるかもしれないということなのです。同僚の立場からすると、特定の社員が上層部と友人関係にあると「けしからん」ということになり、「懲らしめてやろう」「妨害してやろう」という気持ちになるというのです。Fangらは、どのような場合に、同僚が上層部と親密な社員に嫉妬し、妨害するのかについての理論モデルを導出しました。

 

一緒に働いている社員が上層部と親密であると、同僚としては、自分よりもその人物が社内で重用される可能性が高いことから、自分の社内地位や出世の面で脅威に感じることでしょう。しかし、それが自動的に「嫉妬」や「妨害」につながるわけではありません。また、嫉妬といっても、それをバネに自分も頑張ろうと奮発するきっかけとなる「良性の嫉妬」と、相手を攻撃したり妨害したりしようとする「悪性の嫉妬」とがあり、良性の嫉妬の場合には嫉妬の対象となった社員に実害が及ぶ可能性は低くなります。問題なのは、相手を邪魔しようとする行動につながる悪性の嫉妬であるわけですが、どんなときに悪性の嫉妬につながるのでしょうか。

 

上記に関して、Fangらは、2つの条件を提示します。1つ目の条件は、その人物が、上層部と親密になるような人物に値しないと考えることです。「なぜあんな奴が」という思いです。このような発想につながるのは、その人物に対する評価が低いときです。Fangらは、これを中核的評価と表現し、有能な感じがする、自信があり堂々としているといった頼もしさを表しています。もし同僚がその人物を、有能で頼もしいと感じるのであれば、その人物が上層部と親密であることはもっともなことだと思いますので、嫉妬にはつながらないのです。嫉妬につながるのは、その人物が有能でもなく、頼もしくもない場合です。自分よりもレベルの低い人間がなぜ上層部とつながり、自分よりも社内地位を高め、早く出世する可能性が高いのかと思うと胸糞悪くなるというこです。

 

2つ目の条件は、その人物の社内での人的ネットワークが密でないことです。社内ネットワークが密で、いろんな人とつながっている場合、同僚としてはその人物が気に入らなくても攻撃したり妨害したりしにくいものです。社内に知り合いが多くいて、かつその知り合い同士も親密であるならば、その人物は人脈の要塞に守られているようなものです。だから難攻不落なわけです。逆にいうと、その人物がまわりの人脈によって防御されておらず、孤立しやすい存在であればあるほど、攻撃したり妨害しやすくなります。それは、その人物の社内ネットワークの密度が低く、その人物とつながっている社員同士がそれほど親密ではないようなケースです。自分がその人物よりも有利に立って物事を進めることができそうだからです。

 

これまでの議論に基づき、Fangらは、社内の上層部と友人関係にある社員について、同僚がその社員に対する中核的評価が低い場合、すなわち有力な人脈を有するに値しない人物だと感じる場合、そして、その人物の社内での人的ネットワークが密でない場合、すなわち自分が有利に立って物事を進めそうだと思える場合に、その人物に悪性の嫉妬を抱き、その人物を妨害するのだと予想しました。そして、3つの実証調査によって丹念かつ厳密にその理論モデルと仮説を検証し、分析結果はFangらのモデルの妥当性を支持するものでした。

 

Fangらの研究から導かれるアドバイスは、社内で上層部とコネクションができることは基本的には喜ぶべきことかもしれませんが、手放しに喜ぶと同僚からの妬みを買い、痛いしっぺ返しをくらう可能性があることを肝に銘じることです。同僚からの嫉妬や妨害の可能性から身を守るためにできることは2つあります。1つ目は、自分が上層部と知り合いであるに値するような人物であることをアピールすることです。同僚が嫉妬するのは、自分に対する評価が低い場合。ですから、「なんでお前が」「どうしてあなたが」と思われないようにする工夫が必要です。2つ目は、社内の同僚たちと密なネットワークを形勢することです。密なネットワークは自分の身を守ってくれる要塞になりうるのです。

参考文献

Fang, R., McAllister, D. J., Zhang, Z., Duffy, M. K., & Wang, L. (2026). Understanding Why and When Coworkers Undermine Employees Who Have Friends in High Places. Academy of Management Journal. 

 

キャリアや人生において運を味方につける技術はあるのか

私たちの多くは、仕事、キャリア、人生において、才能、努力、粘り強さといった個人の資質が成功のカギになると信じていますが、成功は常に、個人の資質では説明できない要素も関係しているとトレントン (2025)は指摘します。それが何かといえば「運」です。トレントンによれば、世の中は偶然性に溢れており、ラッキーな出来事に遭遇した人は、本来の才能を基準にすると、その2倍の成功を収め、そしてどんな集団であっても、常に幸運な少数が成功を独占しています。スキルは凡庸だが運に恵まれた人のほうが、高度なスキルをもちながら運に恵まれなかった人よりも成功確率が高いというのです。才能の違いは正規分布であっても、成功はごく少数に集中するというわけです。そうなると、「運のいい人になるにはどうすればよいのか」という問いが非常に重要となります。

 

科学的エビデンスに基づいたトレントンの主張を一言でいえば、「運=準備+チャンス」です。私たちは偶然のチャンスをコントロールすることはできません。しかし、自分自身をコントロールすることはできます。私たちは行動することができます。行動することで準備をするわけです。「チャンスはコントロールできないので、チャンスに恵まれたときにそれを最大限に活かせるように準備をしておくこと」が、運を良くする唯一の方法だというのです。そうすることで、運を引き寄せる状況を創造することができます。今あるチャンスを最大限に活かし、さらにこれから出会うかもしれないチャンスを逃さないようにするための行動をするのが大切だというわけです。では、どのような特徴を身につけ、どのような態度で、どのような行動を心がければ、運を味方につけ、成功する確率を高めることができるのでしょうか。

 

トレントンは、運が良い人の特徴として「外向的」「オープン」「情緒が安定していること」を挙げます。運に恵まれる条件は、周りの世界と積極的に関わっていくことです。外向的な人は、誰とでも気軽に話ができるので、興味深い人と出会うチャンスに恵まれます。幸運はたいていの場合、他の人からもたらされるのです。とりわけ、相手の話に興味を持ち、聞き上手になれば、運に恵まれるための貴重な情報を手に入れることができるとトレントンはいいます。オープンな人は、考え方が柔軟で、全般的にリラックスしていて、新しい状況を積極的に経験しようとするといいます。チャンスがドアをノックすると、ドアを開けて新しい挑戦がどんなものか調べようとします。そうすると運に恵まれる確率が上がります。

 

情緒が安定している人は、不安、緊張、嫉妬、警戒心などが低く、リラックスしているため、周りの状況をよく理解できるとトレントンはいいます。ニュートラルな出来事であれば好意的に解釈し、楽観的で何事も好奇心を持って受け入れるといいます。そうすると幸運の確率も上がるわけです。これらの要素は、「偶然の出来事」を「幸運な出来事」に変えることができる、幸運は自分では作り出せないが、招き入れることはできるとトレントンは指摘します。さらに、自分は運がいいと思っている人は、自分からチャンスを探しにいくように積極的に働きかける行動をとりがちで、チャンスが巡ってくるのではないかと考えているため、人生に対して受け身な人よりも幸運につながるチャンスを見つけやすいといいます。また、物事を諦めない態度、すなわちレジリエンスが強いと、失敗しても挑戦をし続けるのでチャンスに出会う回数も多くなり、成功の確率が上がるというのです。さらに、自分の経験から学ぶことも大切だといいます。運のいい人は、うまくいった方法を見つけ、その方法を意図的に繰り返すことでチャンスと出会う確率を高めるわけです。

 

さらに、チャンスをものにする「準備」を行う行動として、トレントンはまず「努力」を挙げます。努力は、同じような運に恵まれた人の成功確率に差をつける要因になると言います。運のよい人は「準備」の値が大きいわけですが、運を引き寄せるため、そして運を手放さないようにするために、できることは何でもする、そして一度幸運に恵まれると、その幸運を徹底的に活用できるよう、努力をするということです。賢く努力することで、準備の値を高めるのです。さらに、「運の表面積」を広げる行動の重要性とをトレントンは指摘します。偶然のチャンスが訪れるのは、賢い努力、あきらめない心、教育、人脈などさまざまな力が組み合わさり、何か特別な力が生み出されたときです。それを可能にする「運の表面積」とは、自分の情熱に関わる行動の量と、自分の情熱を共有する人の数を意味しており、「運の表面積=行動する×人に話す」で表現できるといいます。「運は行動であり、それと同時に運は人間関係でもある」ということなのです。

 

そして、幸運と切ってもきれないコンセプトが「セレンディピティ」です。トレントンは、クリスチャン・ブッシュの解説を参照し、セレンディピティを高めるためには、さまざまな物事をつなげている細い糸や、驚きの要素が生まれる瞬間に気づき、それら未知のものと積極的に関わっていくことの重要性を指摘します。セレンディピティにつながるトリガーを嗅ぎ分ける能力は、一般的な会話術と大きな違いはないとトレントンは主張します。自分から積極的に他者とつながり、自分について話し、あとは会話が予期せぬ方向に発展していくのにまかせればよいといいます。そのときに大切なのは、相手の話をきちんと聞き、思い込みや偏見にとらわれず、柔軟に思考すること。それに加え、ユーモアのセンス、優しさ、問題解決志向があれば、眼の前にチャンスが現れたときに、たとえそのチャンスがどんなに予想外の姿をしていたとしても、きちんとつかまえることができるだろうといいます。

 

最後に、トレントンはワイズマンによる「運のいい人の性格」について紹介しています。ワイズマンの発見は、運のいい人は偶然のチャンスに対してオープンな態度なので、身の周りにある予想外のものに気づきやすいこと。また、自分の直感に耳を傾けるため、何か強い直感が働いたら、時間をかけてその直感について考え、今、この瞬間に起こっていることに対してリラックスに臨み、たとえリスクを取ってでも、直感に従おうとすること。楽観的で、自分の未来はいいことが起こると確信しているため、逆境から立ち直るレジリエンスや、辛抱強くやり抜く力が身についていること。そして、いつも物事の良い面を見ているので、不運を幸運に変えることができることです。そして、「チャンスに出会える場を創造する」「チャンスに出会ったとき、それに気づく」「チャンスを生かすように行動する」というのが運のよい人の特徴だというわけです。

参考文献

ニック・トレントン 2025「「運のいい人」の科学 強運をつかむ最高の習慣」SBクリエイティブ