学校社会の特徴を色濃く反映する日本企業

日本的な人事や労務慣行は、世界的に見ても特殊な特徴を有しています。例えば、長期安定雇用を前提とする新卒一括採用や、企業内でのジョブ・ローテーション、年功序列的な賃金・昇進、企業内労働組合などが挙げられます。そして、これら日本企業の特徴は、少なくとも高度成長期やバブル崩壊前までは、日本の学校社会の特徴をそのまま引き継いだものとしても理解できたのではないかと思われます。


やや補足的にいうならば、日本企業に色濃く反映されているのは、小中高の学校社会です。日本においては大学はやや特殊な存在で、多くの大卒会社員にとってみれば、大学の4年間(あるいはさらに大学院時代)のみが自由を謳歌できるモラトリアム期間。あとは、小中高および会社への入社後定年までの会社員時代はすべて、学校社会を基本的な設計思想として持つ管理社会で暮らすというイメージだと考えられます。定年を迎えて引退するならば、働かなくても年金を得て、再び自由で悠々自適な生活が待っているというわけです(現在はそうでもなくなってきていますが)。つまり、日本企業で働く会社員としての人生を歩む人にとっては、小学校から始まり、大学時代と定年後を除く人生のほとんどは、いわゆる学校社会をプロトタイプとして規則正しく行動することが求められる管理社会の中で生活するということなのです。


具体的に、どのように学校社会が日本企業の特徴に対応しているかを見ていきましょう。まずは、学年別の教育・管理です。同期入社組は学校社会でいうところの同級生であり、学校社会と同じく、先輩、同期、後輩といった序列は明確に維持されます。これは、○○年入社組とか、○期生といったかたちで会社員生活をずっと引きずります。小中高は6年生とか3年生までですが、会社の場合はこれが10年生とか20年生、30年生まであるということです。


そして、職場の構造や役職関係は、学校の教室、クラス、職員構造に対応します。少し違うのは、教室は同級生だけではなく、先輩も後輩もまざっていることですが、共通しているのは、職場には必ず担任の先生に相当する人がいるということです。多くの会社ではそれは課長です。先生(課長)の言うことをよく聞く生徒(社員)で、成績もよい生徒(社員)は、学級委員(係長やチームリーダー)の役割を与えられます。部長は、いってみれば、学年主任とか教科主任の先生です。社長は校長先生であり、副社長や専務は教頭先生といったところでしょうか。学校社会でもそうであるように、会社の中でも課長や部長に「チクる」社員もいることでしょう。校長先生(社長)に直訴する勇気ある生徒(社員)もいるかもしれません。


そして、生徒数の多い学校になると、毎年、クラス替えがあります。これは会社でいえば定期の人事異動です。いわゆる終身雇用の中、教室(職場)のメンバーの顔ぶれがずっと同じだと息苦しくなるでしょう。とりわけ相性のわるいクラスメートとかがいたり、担任の先生(課長)と馬が合わないとと苦痛です。したがって、きまった間隔で生徒(社員)をシャッフルすることで、リフレッシュを図ります。小中高がそうであるように、多くの生徒は入学から卒業まで同じ学校に留まります。日本の会社もそうで、多くの社員が新卒で入社してから定年近くになるまでずっと一緒に過ごします。ただし、例外もあります。それは、会社でいえば中途入社の社員であり、それは学校社会でいうところの転校生に相当します。


日本企業では、ずっと同じメンバーが同じ釜の飯を食うという職業生活を続けておりお互いの結束力が高いため、学校社会で転校生がクラスに馴染むのに苦労するのと同じで、中途入社の社員は職場に馴染むのに苦労することでしょう。最初は、職場の同僚(同級生)はどこかよそよそしかったりするものです。しかし、いったん、職場の同僚(同級生)から、自分たちの職場の一員だと認めてもらえれば、普通に接することができるようになるでしょう。


学校社会と同じで職場内でも社員同士の結束・団結力が強いので、そこから外れるような行動をしたり批判的な態度をとったりすると問題が生じます。つまりそれは、いわゆる「いじめ」につながる可能性があるということです。学校社会ほどあからさまな「いじめ」は、企業社会ではないかもしれませんが、会社や職場では、もっと陰湿で巧妙な「いじめ」に姿を変えているかもしれませんので注意が必要です。


ただ、学校社会と少し違う特徴としては、企業社会のほうがずっと男性社会だということが挙げられます。学校では、男女はどちらかというと平等だし、女性教師もかなりいます。それに比べ、日本の企業社会では、伝統的に男性社員が優位であり、女性の管理職が少ないのが現状です。したがってこれは、学校の正課の活動よりは、放課後の野球部やサッカー部のような部活動の様子に近いかもしれません。これらの部活ではあくまで主役は男子生徒で、何名かの女子生徒がマネージャーとして参加します。とはいっても、ここでいうマネジャーは管理職というよりは一般職・事務職に近いですが。