企業と「ご意見番」とのネットワークの重要性

一般的に、市場というと、商品やサービスを売る企業と、製品を買う顧客との交換関係として理解されがちです。しかし、商品やサービスによっては、顧客にとって品質を見極めるのが難しい場合があります。その場合、企業と顧客の間に、鑑定人、ご意見番、批評家などの第三者が介在する市場構造となっている場合が多いと考えられます。


その場合、重要なのが、企業とこの第三者(ここではご意見番としておきます)とのネットワークのありかたです。このような第三者が介在する市場形態(介在市場形態)では、顧客はさまざまな商品の品質の違いを見極めるのが困難なため、ご意見番が商品・サービスをレビューし、それに基づいて顧客に推薦したり提案したりします。顧客は、ご意見番の意見に基づいて購買意思決定をするということになります。


Zuckerman (1999)は、商品カテゴリーが比較的明確な介在市場形態では、興味深い企業行動およびその帰結が観察されるようになることを示唆します。企業は他の企業と寄り添いあって同じカテゴリーに自社を位置づけようと動機づけられるという同質性が観察され、かつ、同質化された製品の中で差別化を競い合うという関係が成り立つというのです。つまり、企業競争力には「差別化」が大切だとはいっても、実は、同質化と差別化が同居するような市場構造になっているというのです。差別化を志向するといっても、企業が同質化に従わず、カテゴリーから大きく逸脱する場合には、それ相応のペナルティを受けうると指摘します。


Zuckermanは、上記のような現象が起きる理由を、以下のように説明します。まず、第三者としての「ご意見番」は、特定の商品カテゴリーに特化した専門家であることがほとんどです。彼らは、特定の商品カテゴリーの深い知識を活かした鑑識眼によって、各企業の商品を比較検討し、最終評価を下し、消費者に報告します。そこでもし、ある企業が提供する商品やサービスが、こういった商品カテゴリーから外れてしまうようであれば、その企業の商品やサービスは、特定のご意見番の守備範囲に入ってこず、よってレビュー対象から漏れてしまうということになります。なぜなら、その商品は他の企業の商品と同質的でないので、評価が難しくなったり、あるいはご意見番の守備範囲外となってしまうからです。


そうなると、いくら商品の客観的な品質が高いとしても、特定の商品カテゴリーにおさまりきらない商品は、ご意見番のレビューから漏れてしまうがゆえに、消費者にその品質情報が伝わりません。その結果、消費者の購買候補からも漏れてしまう可能性が高まってしまうのです。そうなれば、企業の売上は損なわれ、結果的に、商品カテゴリーに入るような同質化を拒否したがゆえのペナルティを市場から受けてしまうという論理なのです。これは、既存の商品カテゴリーに収まることによって得られる正統性を無視したがゆえの「非正統性に伴うペナルティ」であると解釈できます。


つまり、介在市場においては、企業が、特定のご意見番がレビューを行う商品・企業のネットワークに参加することが、市場での正統性の獲得と利益の維持にとって重大な問題であり、ご意見番とのネットワークが築けない場合には多いなリスクを背負うことになることを意味しています。そしてそれをさらに深掘りして考えるならば、ご意見番が持っている商品イメージに沿うような役割行動を企業がしなければ、企業はペナルティを受けてしまうということも意味していると言えましょう。企業は暗黙裡のうちに、既存の商品カテゴリー、もっといえば、ご意見番が持つ商品イメージからの制約を受け、そのイメージに沿うような同質的行動が期待され、そういった行動、役割が満たされて初めて、その同質的な商品の中でなんとか他社との差別化を図ることによって競争優位性を獲得しようとする、複雑な事情が内在していると考えられるのです。いくら品質や差別化が重要だと言っても、特定の商品カテゴリーを大きく逸脱した商品を投入してしまうと、いくら客観的な品質が高くても失敗する可能性が高いということを示唆しています。


Zuckermanは、上記のようなメカニズムを、株式市場において実証しました。株式市場のおいて、投資家が株式を「購入」するにさいし、各企業の真の品質を評価するのは困難です。そこで、投資家は、ご意見番としての「証券アナリスト」のレビューを参考にします。しかし、証券アナリストは、業界ごとに専門特化しているので、ある企業がどの業界にもおさまりきらないような特殊なビジネスを展開したりするならば、特定の証券アナリストがレビューする企業のネットワークに入ることができなくなります。それは証券アナリストによるレビュー対象から漏れることにつながり、その結果、投資家の購買意欲を低め、結果的に株式パフォーマンスを下げるという現象を確認したのです。株式市場における「非正統性に伴うディスカウント」を確認したわけです。

文献

Zuckerman, E. W. 1999. Categorical imperative: Securities analysts and the illegitimacy discount. American Journal of Sociology, 104, 1398-1438.