ネットワーク組織が普及しない条件

組織がアライアンスを組むなどネットワークでつながることのメリットはさまざまなものがあります。日本では、過去には財閥があり、現在でも系列や企業集団は一般的に存在し、組織間ネットワークを形成していることのメリットを享受しているといえましょう。しかし、国によって、地域によって、あるいは産業によって、ネットワーク組織が一般的でない場合もあります。それはどうしてでしょうか。つまり、組織が、アライアンスなどで他の組織とつながることによってネットワークをつくっていこうとしない理由があればそれは何か、あるいはネットワークを形成したくてもできない場合があるとすればそれは何か、ということです。


Podolny & Page (1998)は、それらのいくつかの理由を挙げています。まず、ネットワークによるメリットを追求する必要がない組織も存在すると指摘します。個々の組織が弱く、単体として市場取引のみで活動していくことが不利な場合には、ネットワークを組むことのメリットが大きいですが、逆に、組織が単体でも強力な場合は、アライアンスなどを組むことのメリットは相対的に小さく、あえてネットワークを志向しないかもしれません。次に、組織生態学の、構造慣性という考え方を借りれば、組織は誕生時に刷り込まれた組織形態や経営特性を将来もずっと引きずるために、ネットワーク志向にならない組織もあると指摘します。例えば、歴史の浅いハイテク業界では、業界の隆盛時から組織間ネットワークは当然のように存在していますが、もっと歴史の長い業界や企業の場合、誕生当時にはネットワーク形態は普及していなかったがために、その当時の刷り込みを引きずっており、ネットワーク志向とならない可能性もあるでしょう。


また、国や地域による文化的、あるいは法的な相違も、ネットワーク形態が普及したりしなかったりする要因となりうるとPodolnyとPageは指摘します。例えば、財閥や企業集団が発達してきた日本や東アジア諸国は、文化的には集団主義の傾向があるため、そもそもネットワークを組んで集団で行動することに抵抗があまりないといえましょう。あるいは、イタリアのように、税制上、小規模企業が有利になるような国では、多くの小企業がネットワークを組むことによって単体の弱さを補い合おうとする動機につながるでしょう。逆に言うと、そういった特徴の少ない国や地域、業界であれば、組織間ネットワークはあまり発達しないといえるのかもしれません。


そもそも、各組織は、何らかのメリットを求めてネットワークを組もうとするわけですから、どの企業とネットワークを組んでいこうとするかは、それによって得られるメリットの度合いに左右されると考えられます。具体的には、(1)新たなスキルや知識の獲得といった学習効果、(2)正当性やステイタスの獲得、(3)経済的メリット、(4)資源依存性の克服、といってメリットが得られる企業とつながろうと考え、これらのメリットが得られなさそうな企業とはつながろうとしないでしょう。よって、同じ地域によってもネットワークに参加する企業もあればしない企業もあり、複数のネットワークが混在することになるのでしょう。

文献

Podolny, J. M., & Page, K. L. 1998. Network forms of organization. Annual Review of Sociology, 24, 57-76.