企業の非多角化(選択と集中)行動と証券アナリストとの関係

アメリカではかつて、企業の事業多角化がもてはやされた時代があります。それに伴い、M&Aによって事業を切り売りしたり買収することがブームとなりました。それに対し、1980年代から90年代にかけては、多角化の解消による選択と集中、本業回帰の動きが増加しました。


多角化の解消の理由としては、そもそも非関連事業にどんどん多角化していくことは経営として適切ではなく、企業の業績を悪化させるからだというのが考えられます。株主は単純に株式利益率を高め、株主価値を高めてほしいわけですから、企業は株主価値を高めるために、多角化を解消し、本業への選択と集中を図ったと考えられます。それに対してZuckerman (2000)は、自らのカテゴリーミスマッチの理論(企業と「ご意見番」とのネットワークの重要性を参照)を応用し、企業の非多角化行動における証券アナリストの役割の重要性を論じました。

企業と「ご意見番」とのネットワークの重要性


Zuckermanのカテゴリーミスマッチの理論は、株式市場に関していえば、投資家が企業評価を適切に行うことは困難であり、企業評価は証券アナリストに頼るわけですが、証券アナリストというのは特定の業界カテゴリーに専門特化して企業分析を行うので、このカテゴリーに収まりきらない企業があると、証券アナリストのレビュー対象となりません。そうなると、投資家はその企業の評価に自信をもてなくなるため、投資家から敬遠されてしまうと論じます。投資家から敬遠されれば、実際の株価は不当に低くなることが予想されます。


株価の推定基準となる企業評価にしても、企業が生み出す将来キャッシュフローの割引価値によって算出する方法が定着していました。その際には、特定の事業からどれだけのキャッシュフローが生み出されるかの評価が必要となりますが、特定の業界に専門特化している証券アナリストにとっては、企業が非関連事業に多角化しているということは、企業評価を困難にせしめているともいえます。なぜなら、あらゆる事業に精通している証券アナリストがあまりいないからです。このような理由もあって、非関連多角化企業が、証券アナリストの評価対象としてカバーされなくなることの代償は大きくなると考えられるのです。そもそも、自社の本業とは関連のない事業にどんどん多角化していくならば、その企業はいったい何の企業なのか、どんなビジネスをやっているのかを一言でいえなくなり、アイデンティティとしても危機に陥る可能性がありましょう。


Zuckermanは、アメリカの株式企業を分析することによって、このカテゴリーミスマッチに陥った企業ほど、そして、株価が不当に低く評価されている企業ほど、事業の非多角化を実践して、本業回帰や選択と集中にいそしむ傾向があることを確認しました。

文献

Zuckerman, E. W. 2000. Focusing the corporate product: Securities analysts and de-diversification. Administrative Science Quarterly, 45, 591-619.