ネットワーク組織の優位性

現代は、ネットワークの時代といってもいいかもしれません。それと呼応するように、ネットワーク組織(あるいは、ネットワーク型組織形態、組織間ネットワーク)という言葉もあります。直観的には、官僚制組織や純粋な市場経済とは一線を画す組織構造のように見えます。具体的に見ると、ネットワーク型の組織に当てはまるものが、ジョイントベンチャー、戦略的提携、企業集団や財閥、フランチャイズチェーン、研究開発コンソーシアム、長期的取引契約、アウトソーシング関係などです。では、概念的には、ネットワーク組織はどう定義されるのでしょうか。


Podolny & Page (1998)は、ネットワーク組織を「2つ以上の活動主体が、繰り返し的で継続的な交換関係を志向するとともに、それらの交換関係で生じうる葛藤を解決するための組織的権限を持たないような組織形態」であると定義します。この定義からすると、官僚制のような組織は、組織が権限に基づく階層構造になっており、通常はトップによる中央集権によって組織内交換関係の葛藤解決が行われるのに対して、ネットワーク組織ではそういった機制がないことを示しています。また、純粋な市場取引は、一回きりの取引を前提としており、同じ相手と繰り返し的、継続的に取引することを志向していません。そこがネットワーク組織と異なる特徴であると理解できます。


ネットワーク組織は、他の組織形態に比べて、どこが優れているのでしょうか。Podolny & Pageは、ネットワーク組織の優位性を、(1)新たなスキルや知識の獲得といった学習効果、(2)正当性やステイタスの獲得、(3)経済的メリット、(4)資源依存性の克服、に分類して説明しています。


学習効果については、権限による階層構造の場合よりも、権限のないネットワーク形態のほうが、情報が自由に流れ、交換されやすいことを指摘しています。また、多様なつながりによって、お互いの持つスキルや知識を吸収しあうことも可能になるでしょう。多様なつながりは、イノベーションを生む源泉ともなりえます。そもそも、戦略的提携が、お互いの学習効果を企図してなされる場合が多いと考えられます。


正当性やステイタス効果については、ネットワークのメンバーの中に、正当性やステイタスの高い企業が存在する場合、その企業とつながっている他のメンバー企業はその恩恵を受けることができます。名もなき新興企業は、高名な企業からなるネットワークの一員となることによって、投資家や顧客からの信用を獲得することもできるでしょう。ネットワーク全体の正当性やステイタスが高まることで、さまざまな経済的利益を享受できるようになると考えられます。


ネットワーク組織はさまざまな経済的メリットも得られると考えられます。取引コスト理論の考え方によれば、ネットワーク組織によって繰り返し的・継続的取引が増えるほど、取引コストは下がり、経済的利益が得られます。それにもまして、ネットワークでつながることは、そこに良質なコミュニケーションチャネルが生まれ、信頼関係も醸成されることにつながります。それが、高品質な製品やサービスの開発、環境変化に対する柔軟な対応や調整などをもたらし、経済的利益の拡大に貢献すると考えられます。


ネットワーク組織のそのほかの優位性としては、資源依存関係の統制が挙げられます。組織は自らの資源のみでは活動できず、必ず外部資源を必要とするわけですが、その外部資源を握っている組織と長期的かつ信頼関係のあるつながりを維持できれば、資源獲得の不確実性を低減することができます。また、ネットワーク組織は無意識的に社会福祉にも貢献しているという考え方もあります。例えば、階層型の官僚制組織では、しばしば組織の上部と下部で働く人々の報酬格差を生み出し、それが格差社会を助長する可能性があります。それに対してネットワーク組織では、比較的フラットで自由度が高く、かつ官僚制組織ほど報酬格差が生まれにくいとも考えられています。

文献

Podolny, J. M., & Page, K. L. 1998. Network forms of organization. Annual Review of Sociology, 24, 57-76.