戦略コンサルタントの仕事術

今回は、戦略系コンサルティングファームに在籍する知人との私的な会話などからヒントを得て、戦略コンサルティングの仕事の本質についての私見を紹介してみようと思います。近年になって、戦略系コンサルティングファームは就職希望先としても人気を博しています。一般的なイメージとしては、クライアントから支払われるフィーが高額、給与も高額、戦略コンサルタントは頭が切れる、一流企業のトップマネジメントがあっというような戦略を編み出す、といったものでしょうか。その一方で、戦略コンサルタントは、高給取りだが仕事が非常にハードで、終電はあたりまえでタクシー帰りも常態化しており、知力のみならず、短時間睡眠もいとわない体力、気力も求められるという話もあります。では、実際にはどのような仕組みで、戦略系コンサルティングのビジネスが成り立っているのでしょうか。また、戦略コンサルタントとはどういった人材なのでしょうか。


まず、クライアント企業から戦略コンサルティング・ファームに依頼される案件にそもそも無理があると考えられます。問題自体が困難を極める、どこから手をつければよいかわからない、結果を出すのに時間が足りなさすぎるというように、大企業であっても、自社の社員を使ってできないようなことを戦略コンサルティング会社に頼むからです。むしろ、そうでなければわざわざコンサルティングを依頼せず、自社の社員を使って行うでしょう。そして当然、そういった類の依頼を受けた戦略コンサルタントは、それに応えなければなりません。そして、実際にそういった無理のある仕事をこなしてしまうのです。クライアント企業も、自社の要求に応えてもらえれば満足し、またリピートで依頼を検討するでしょう。だから高額のフィーを伴うコンサルティング・ビジネスが成り立ってしまうのです。しかし、それゆえ必然的に、戦略コンサルタントには高い能力と24時間フル稼働の体制が求められるのです。もちろん、その見返りとして、給料も高額になるのです。


また、依頼される案件は、戦略的な視点からみた、一回限りの案件が多いともいえます。例えば、M&Aに踏み込むか否か、特定の業界に参入するか否かといった企業の命運を左右する意思決定やとか、大掛かりなリストラクチャリングや組織の大変革などです。いくら一流企業であっても、その業務の多くは、日常のオペレーションの維持にあります。日常のオペレーションの多くは繰り返しが多く、そのオペレーションの維持ために多くの社員が雇用されています。よって、いかに優秀な社員を社内から集めても、彼らは一回きりの戦略的案件を常に経験しているわけではないし、それゆえ、実際に案件をこなせるとしても時間がかかってしまうことでしょう。しかし、企業の命運を左右する戦略決定や組織の大変革などは、スピードが求められます。悠長に検討したり、もたついたりしている暇などありません。したがって、自社の優秀社員を集めても1年はかかるようなプロジェクトを、2〜3ヶ月でやってくれというオーダーを戦略コンサルティング会社に依頼するわけです。確かにそのこと自体、無理があるといえましょう。


しかし、戦略コンサルタントは、そういった、実にさまざまな業界、分野、種類の、一回性の性質の高い案件を、頭と体をフル回転させてこなしていきます。そういう意味では、戦略コンサルタントは、スーパーホワイトカラー、スーパージェネラリストであるともいえましょう。事業会社の優秀社員でも1年かかる仕事を数ヶ月でやってしまう。いや、やらなければビジネスが成り立たない。そんな業務体質であるがゆえに、必然的に業務スピードはものすごく早く、かつ長時間労働になります。戦略コンサルタントは、同じような案件を経験しているために、そういった仕事の効率性、生産性については、ルーチンワークが主体の一般企業社員よりはアドバンテージがあります。なおかつ、テンポが速く長時間労働なので、戦略コンサルタントから見れば、一般企業の社員はなんでこんなにゆっくりと(のろのろと)仕事をしているのだろう、と感じてしまうこともしばしばだといいます。そもそも、戦略コンサルティング会社と一般企業とでは、時間の流れ方、時間間隔がまったく異なり、時間の密度も労働時間も長く、能率も高いために、一般事業会社の何倍ものスピードで仕事ができると考えられるのです。


加えて、戦略コンサルタントは少数精鋭で粒ぞろいであり、基本的にホワイトカラーとしても優秀であってチームワーカーなので、プロジェクトを推進しやすいといえます。さらに、外資系の企業であればなおさら、業績の悪いコンサルタントを会社から排除することは簡単なので、間違えてできの悪いコンサルタントを雇ってしまったとしても、どんどん入れ替えることができます。よって、コンサルタントのマネジメントもやりやすいといえます。また仕事柄、パフォーマンスが明確にわかるし、評価が透明である。誰が仕事ができ、誰ができないかについては社内でも評価がぶれることは少ないといえましょう。よって、在籍するコンサルタントは、自分の実力の社内評価や報酬水準については慨して公平感・納得感をいだいており、そうでない人はそこを去るにすぎないということになるのでしょう。