プロフェッショナル・ファームの組織論

組織には、一般事業会社や金融会社などがありますが、中でも近年において、優秀な人材が入社を希望することが多いのが、プロフェッショナル・ファームです。プロフェッショナル・ファームの例を挙げれば、伝統的なものとしては会計事務所や法律事務所があり、近年就職希望先として人気のある戦略コンサルティング会社やシステムコンサルティング会社もそうです。投資銀行、デザイン事務所、病院などもその範疇に入るでしょう。では、こういったプロフェッショナル・ファームは、いわゆる事業会社のような組織とは性質が異なるのでしょうか。それとも、同じ組織論の枠組みで語れるのでしょうか。Von Nordenflycht(2010)は、プロフェッショナル・ファームは伝統的な組織とは異なるとして、その特徴を捉えた理論を構築しようとしました。


まず、世の中にさまざまな組織があるなかで、どのような組織をもってプロフェッショナル・ファームと定義づけるかなのですが、Von Nordenflychtは、3つの次元で捉えようとしています。1つ目は、知識集約的な企業だということです。プロフェッショナル・ファームでは、顧客に提供する商品が、従業員が保有しているもしくは生み出す知識や技術そのものという場合が多いわけです。2つ目は、資本集約度が低い企業だという点です。1番目の特徴と関連するのですが、知識や技術が商品となるため、工場などの大規模な設備が必要ないわけです。3つ目の特徴は、自己規律性とイデオロギーです。プロフェッショナル・ファームは、特定の教育を受けた者や設定した資格を有する者しか採用しなかったり、業界独自の倫理基準を設けていたりすることにより、高い独立性や自律性を保っているといえるのです。


上記のような特徴を持つ組織をプロフェッショナル・ファームとするならば、プロフェッショナル・ファームは他の組織と比較してどこが異なるのでしょうか。Von Nordenflychtは以下に述べるような性質を指摘します。まず、知識集約型・低資本集約型であるがゆえに、企業利益の源泉が高度専門家人材であることから、会社に対する従業員の地位や交渉力が強いことがあげられます。同時に、各従業員は、高度な専門知識を持ち、それが業界内で利用可能であるために、ファーム間を移動しやすい環境にあるといえます。したがって、プロフェッショナル・ファームは、上層部から従業員に命令したり、従業員をつなぎとめたりすることが困難であるといえます。自由と独立を好む専門人材を、一般企業のようなピラミッド型の権限階層構造で管理するのは難しいわけです。


次に、業界全体やファームが独自の倫理基準を持っていたり自己規律的であったりするがゆえに、業界内で過度な競争が起こらないことです。たとえばファームが顧客の奪い合うというよりは、うまい具合にすみわけを好んだりするといえましょう。業界内を人材が頻繁に移動するような状態では、特定のファームが他のファームと比べて圧倒的に強くなり、相手を滅ぼすようなこともあまりないように思えます。プロフェッショナル・ファームの属する業界が、他の業界では提供できないような高度な知識や技術を提供できるがゆえに高い利益率を維持している場合には、過度に競争する必要性が薄いのかもしれません。


では、こういったプロフェッショナル・ファームの性質にフィットした組織管理とはどのようなものなのでしょうか。Von Nordenflychtは、3つの特徴を挙げています。1つ目は、組織内に規則が少ないこと。規則で従業員を管理するよりも、インフォーマルなマネジメントによってメンバーを束ねていこうとします。2つめはアップ・オア・アウトという仕組みです。これは、昇進か、さもなければ退社かという選択を迫る雇用方針です。これは、人材流動性の激しい環境において、昇進した場合のインセンティブを高めることによって、優秀な人材をひきとめると同時に、そうでない人材を自動的に排出していくような工夫です。3つ目は、パートナー制のように、企業外株主などの外部オーナーを持たないことです。これによって、独立性、自律性を維持しようとするわけです。

文献

Von Nordenflycht, A. 2010. What is a professional service firm: Toward a theory and taxonomy of knowledge-intensive firms? Academy of Management Review, 35 (1): 155-
174.