戦略的提携ネットワークにどう埋め込まれるべきか

組織同士が自発的に戦略的な協力関係を築くことを戦略的提携と呼びます。これによって、組織間のネットワークが形成されてくるわけですが、組織の競争力を高めるためには、どのようなネットワークを構築していけばよいかは重要な問いとなってきます。これは言い方を変えると、組織はネットワークにどのように埋め込まれているのが望ましいかということになります。


この「ネットワークへの埋め込み」は、大きく2つの次元があると考えられてきました。1つ目は「関係的埋め込み」で、ネットワークのつながりが、どれくらい強いか(頻度や親密性、互酬性など)という次元です。2つ目は「構造的埋め込み」で、ネットワークが高密度か(お互いにつながりあっている)低密度か(つながっていない部分が多いもしくは構造的空隙が多い)という次元です。先行研究では、この2つの次元がそれぞれ独立に吟味されることが多かったのですが、Rowley, Behrens, & Krackhardt (2000)は、この2つの埋め込み次元は相互に関連しており、同時に考慮されるべきだと考えました。


ネットワークの関係的埋め込みが強い場合、組織間を流れる情報の質は高まり、暗黙知のような情報も交換可能になります。また、お互いが強い依存関係となり、関係的な信頼が醸成されます。こうして、長期的な視点から、信頼関係に裏付けられた協力関係が築かれると考えられます。一方、関係的埋め込みが弱い場合、グラノベッターの「弱い紐帯(つながり)の強さ」でも有名なように、異なる組織ネットワーク間の橋渡しとなりやすくなり、重要な情報が得やすくなると考えられます。ただし、Rowleyらも指摘する通り、この議論は、構造的埋め込みにおける「低密度の埋め込み」の効果の説明と重複していると考えられます。


ネットワークの構造的埋め込みが強い場合、組織間が高密度でつながっており、相互監視状態になるために、抜けがけや裏切りがしにくく、そういった意味でお互いを裏切らない信頼関係ができると考えられます。ただし、強い関係的埋め込みに起因する信頼関係とは若干性質が異なるとも考えられます。強い構造的埋め込みは、ネットワーク全体に、裏切りを行為を制裁するという前提に基づいた行動規範が生まれ、それをメンバー組織が守るような状態となります。一方、構造的埋め込みが弱い場合には、バートの「構造的空隙」の理論でも明らかなように、多様な情報獲得や取次の機会が増えることによるメリットが高まると考えられます。


このように、関係的埋め込みの強弱も、構造的埋め込みの強弱もそれぞれメリットがあると考えられるのですが、Rowleyらは、強い関係的埋め込みと高密度の構造的埋め込みは、それによって得られるメリットが重複しているので、両方を追求することはコストが増大する分、無駄であると考えました。そして実証研究によって、強い関係的埋め込みと高密度の構造的埋め込みの両方を実現することが、組織の業績にネガティブな影響を与えることを確認しました。


またRowleyらは、関係的埋め込みの強弱のメリットが、業界によって異なることを発見しました。彼らの実証研究によると、製鉄業界の場合、強い関係的埋め込みが組織の業績にプラスに働くのに対し、半導体業界の場合、弱い関係的埋め込みが組織の業績にプラスに働いていることがわかったのです。これは、製鉄業界の場合、既存の資源を活用するために開拓していく(exploitation)ことが重要であり、企業同士の信頼と協調行動が重要になってくるのに対し、半導体業界の場合、ビジネス機会を探すために外部環境を探索していくこと(exploration)が重要であり、その場合は、多様な情報を獲得して組み合わせるような活動が重要になってくると考えられるからだと思われます。

文献

Rowley, T., Behrens, D. and Krackhardt, D. (2000). Redundant governance structures: an analysis of structural and relational embeddedness in the steel and semiconductor industries. Strategic Management Journal, 21, 369-386.