呉越同舟型提携ネットワークの競争力学

現代の組織にとって、他の組織との戦略的提携はなくてはならないオプションになりつつあります。しかも、競合他社同士が提携することも起こります。コーペティション(コーポレーション[協同」とコンペティション[競争]を組み合わせた造語)まで出てくる次第です。競合企業同士の提携では、パイ全体を広げるためには協同し、そのパイを分配する際には競争するという関係になるでしょう。では、競合組織同士によってなされる提携ネットワークは、個々の組織の競争行動にどのような影響を及ぼすのでしょうか。Gnyawali & Madhavan (2001)は、ネットワークの構造的埋め込みの理論を中心に用いて、この力学的メカニズムを理解しようとしました。


Gnyawali & Madhavanは、ネットワーク構造と競争力学との関係を、個別組織がネットワーク上に占めるポジション特性としての「中心性」と「自律性」、2つの組織間の関係としての「構造的同値」、そしてネットワーク全体の特徴としての「密度」の概念を用いました。まず、個別組織が、ネットワーク上の中心性もしくは自律性を有しているときは、戦いを仕掛けやすく、かつこちらから戦いを仕掛けても相手から応酬される可能性が低いことを論じました。


個別組織がネットワーク上の中心を占める場合とは、他の多くの組織とのつながりを保持している状態で、この場合は、他の組織よりも相対的に質の高い資源や情報を獲得することが可能で、かつ高いステイタスを示しています。このような相対的優位性により、競合同士の提携ネットワークでは、中心的ポジションにいる組織が戦いを仕掛ける可能性が高まります。一方、競争的アクションを仕掛けられた企業は、相対的に資源、情報、ステイタスなどが劣るために、迅速かつ十分に戦に対応する能力に欠きます。よって、戦いを仕掛けられてもそれに対する応酬が起こる可能性が低いと考えられます。


次に、個別組織がネットワーク上で自律性が高い場合とは、その組織が多くの構造的空隙を有していることを示しています。よって、多様な資源や情報を獲得できると同時に、それを操作したり、まわりをコントロールする裁量も高まっています。この場合も、ネットワーク上の他の組織よりも相対的に有利なポジションにいるために、戦いを仕掛けやすく、それに対して他の組織は、資源面、情報面、コントロール面などにおいて相対的劣位にあるために、応酬とりにくくなるのです。


構造的同値とは、2つの組織が、他の組織とのつながり方などにおいて、ネットワーク上で同じようなポジションにいることを示しています。必ずしも2つの組織が直接つながっている必要はありません。このように、構造的同値にある2つの組織は、お互いに利用可能な資源や情報、ステイタスなどが類似している可能性が高く、それゆえに戦いを避けようと行動すると考えられます。よって、どちらかが相手に対して戦いを仕掛ける可能性は低いといえます。しかし、もし戦いを仕掛けられたならば、相手は自分と類似した特徴を持っていることもあって、対応しやすいため、迅速な応酬が可能です。よって、戦いを仕掛けた場合に即座に応酬される可能性が高いと考えられます。


最後に、ネットワーク全体の構造の密度が競争力学に与える影響ですが、ネットワーク密度が濃いほど、組織がお互いを知り尽くしている度合いが高まるため、個別の組織が戦いを仕掛けにくく、仕掛けたとしても即座に応酬がなされる可能性が高いといえます。また、先ほど述べた、中心性、自律性、構造同値が競争力学に与える影響を調整する効果があると考えられます。つまり、ネットワーク全体の密度が濃いほど、中心的、自律的なポジションにいる組織の相対的優位性は低下し、かつ、2つの組織間の構造同値の重要性も低下すると考えられます。よって、上記に述べたような予測が弱まることが考えられるのです。

文献

Gnyawali, D. R., & Madhavan, R. (2001). Cooperative networks and competitive dynamics: a structural embeddedness perspective. Academy of Management Review, 26, 431-445.