企業における英語公用語化とシンガポール型マネジメントモデル

近年、日本企業においても経営のグローバル化やグローバル人材といったテーマが最優先事項となりつつある中、社内の公用語を日本語ではなく英語にする企業もいくつか出てきています。これについては賛否両論があるようですが、批判的な意見のほうが多いように見受けられます。確かに、日本自体がまだ大きなマーケットとして機能しており、日本語のみでも特に支障のでない業務が多い中、経営のすべてにおいて英語を標準語として扱うことに対する疑問の余地はあると考えられます。しかし、あえて英語公用語化に踏み切ろうとしている企業は、ある理想形を求めてそうしているのだと考えられます。その理想形を理解するうえで役立つのが、シンガポールのようなモデルなのではないかと考えます。


シンガポールは、住民が実に多様で、中華系、マレー系、インド系、アラブ系を中心に、欧米からの海外赴任組など、さまざまな人々が共存して、国として機能しているグローバル化がさらに進んだ近未来のモデル的な都市国家ではないかと考えています。そのシンガポールの強みの一つは、英語を公用語としていることだと思います。異なる民族、文化的背景の人々が共存する中で、お互いが意思疎通するために用いられる言語が英語です。シンガポール人は幼少のことから複数の言語を使い分けることをしているため、同じ民族同士ではその地域の言葉(中国語やマレー語など)で話していても、他の文化、民族の人が交われば、即座に英語にスイッチして難なく会話ができます。だから当然、海外からやっている英語を母国語としたり英語が流暢な欧米系の人々とも普通にコミュニケーションできます。


ですから、シンガポールという国のシステム自体が、多様な民族や文化、言語をバックグラウンドとした持った人々が一緒に生活したり仕事をしたりすることができるような世界標準のシステムを念頭に作られているため、世界中から優秀な人が集まってきてそこで仕事ができる環境が整っていると言えるわけです。シンガポールは、海外から優秀な人材を集めて、そのパワーで国力をあげようとしていると考えられるわけです。なにしろ、国土が極端に狭く、自然的資源がないわけですから、人的資源でしか勝負できないわけです。


実際、シンガポールは、国際的に見ても非常に競争力の高い国です。世界中から優秀な人が集まってきて、そこで切磋琢磨することにより、常に活気のある状態を維持出来ているわけです。では、日本はシンガポールを見習うべきなのでしょうか。おそらく、それは現実的には不可能だと言えましょう。そもそも、シンガポールのように歴史の浅い国家ではなく、長い歴史によって築かれた独自の文化を持っており、同質的な国民から成り立っている国では、そう簡単に、移民を大量に受け入れたり、国の公用語を英語にするというような施策は打てるはずがありません。国土も人口もシンガポールよりも圧倒的に大きいのです。


しかし、国全体としてはシンガポールのような競争力のある都市国家を目指すことができなくても、まだ手段があるのです。それは、企業単位でシンガポールのようになることです。つまり、英語を社内公用語化するほど経営のグローバル化を真剣になって勧めようとする企業というのは、企業全体をシンガポールのようにして、民族、文化、母国語が異なっていても、標準化された共通のシステムを用いて仕事をすることができるようにしようとしているのでしょう。そうすることによって、世界中から優秀な人材を集め、その力によって世界での競争力を高めようとしているのだと解釈できましょう。