朝一番の気分はその後の仕事ぶりにどう影響するか

組織行動論において近年急速に研究が進んでいるのが、感情や気分(ムード)が果たす役割です。仕事での成果を高める要因として、従来は個人の能力や性格および仕事環境の影響を重視してきましたが、日々の行動に直接的に影響するのが、「そのときの気分(機嫌)」なのです。そのときに上機嫌なのか不機嫌なのかが、例えば顧客や部下に接する態度だとか、仕事の丁寧さなどに直接影響するというわけです。また、とりわけサービス業に重視している場合、顧客が上機嫌なのか不機嫌なのかがもろに自分の気分に影響を与えることが多々あります。不機嫌な顧客に対応したことによる影響がその後のサービスの質に尾を引くことになると問題です。


このような気分の重要性に関連して、Rothbard & Wilk (2011)は、出勤時の気分の役割に注目しました。気分は毎日変化しますし、日中も変化します。朝一番の気分が重要な理由は、たとえ前日なんらかの気分であっても、仕事を終えてから次の日の出勤時までに、家庭でいろんなことが起こったり、睡眠を十分にとったかどうかで、気分が大きく変わりうるからです。前日気分が悪くても十分睡眠をとって次の日はすっきり爽快な気分で出社することもあるでしょうし、逆に、家でごたごたが起って最悪の気分で出社ということもあるでしょう。


Rothbard & Wilkは、コールセンターの従業員を対象に、1週間のあいだ毎日、出勤時の気分を質問し、さらに接した顧客の機嫌がどうだったか、その後どのような気分になったかを質問する調査(Experience sampling survey)を行いました。さらに、コールセンター業務において記録された顧客対応に基づく生産性についても分析をしました。その結果、以下のことがわかりました。


まず、出勤時の気分は毎日変化すること、そして、出勤時の気分が間接的にコールセンター業務における生産性に間接的な影響を与えることがわかりました。具体的には、出勤時に気分が良いか悪いかが、電話応対時に顧客がどのような気分状態にあるのかを推測するさいに影響を与えることが確認されました。つまり、出勤時の気分が良ければ、顧客も良い気分で電話をかけてくれていると思う度合いが高まり、逆に、出勤時の気分が悪ければ、電話をかけてきた顧客が不機嫌であると認識する度合いが高まるということです。


次に、対応した顧客の気分の知覚が、その後の従業員本人の気分に影響を与えることもわかりました。つまり、顧客が不機嫌であると感じた従業員はその後の気分がネガティブになりがちで、顧客が上機嫌であると感じた従業員はその後の気分もポジティブになりがちであるということです。さらに、そういった気分が、顧客対応における生産性にも影響を与えることがわかりました。ポジティブな気分になれれば生産性が高まり、ネガティブな気分になると生産性が低下するということです。これらをまとめると、出勤時の気分が、対応顧客がどのような機嫌であるかの推測に影響し、さらに対応顧客の機嫌の推測がその後の本人の気分に影響し、それが職務上のパフォーマンスに影響するということが分かったわけです。


このことから、出勤時にいかにポジティブな気分で仕事をスタートできるかが、本人や職場の生産性の向上にとって重要であることが分かります。たしかに出勤時の気分は、前日夜や出勤前の家庭生活などの影響を大きく受けるかもしれませんが、ややネガティブなムードの従業員に対する上司の接し方が、そのネガティブな気分に追い打ちをかけるようなようであると、生産性に大きく響くでしょう。逆に、朝一番の上司の接し方が、従業員のムードをポジティブに変換させることも十分可能でしょうし、従業員一人一人がいかに毎日の出勤時にポジティブな気分で仕事を始めることができるか工夫することも大切だと考えられます。また、職場全体でみんなが明るく爽快な気分で仕事をスタートできるような雰囲気作りや仕掛けづくりをしていくことも重要だと思われます。つまり、朝一番の「感情マネジメント」が重要だということです。

文献

Rothbard, N. P., & Wilk, S. L. (2011). Waking up on the right or wrong side of the bed: Start-of-workday mood, work events, employee affect and performance. Academy of Management Journal, 54, 5, 959-980.