組織内コーディネーションの統合モデル

組織活動のもっとも本質的な機能の1つが「コーディネーション(調整活動)」です。組織内では様々なタスクが遂行されており、これらを上手にコーディネートして初めて組織として意味のあるアウトプットが出せるからです。別の言い方をすれば、組織内コーディネーションの巧拙が組織のパフォーマンスや成功を左右すると言ってもよいでしょう。そして、時代の変化とともに経済環境や産業構造が変われば、組織内コーディネーションのあり方も変わってくるでしょう。では、これからの時代に求められる組織内コーディネーションを、どのような切り口で考えていけばよいのでしょうか。Okhuysen & Bechky (2009)は、これまでの組織内コーディネーションに関する文献を整理するとともに、組織内コーディネーションの統合モデルを導き出しました。


Okhuysen & Bechkyは、組織内コーディネーションが必要となった起源から話を始めます。アメリカを例に挙げると、産業が勃興する契機となった鉄道の敷設です。鉄道網で乗客の乗降、貨物の運搬、列車の衝突回避、運行管理などにおいてコーディネーションが必要になり、その結果として、合衆国のタイムゾーンが標準化されたり、時刻表が生まれたりしました。標準化された時刻表がコーディネーションの起源の1つだと言えます。その後の大規模工業化の進展により、効率的なモノづくりのためのコーディネーションが重要となりました。そこから出てきた考えが、仕事やタスクの設計を通じたコーディネーションで、代表的なのがテーラーの科学的管理法です。もう1つが、組織構造における責任権限等や管理過程の設計を通じたコーディネーションで、代表的なのがファイヨルの管理論です。ただし、これらのコーディネーション理論は、材料や製品といった目に見えるものの動きが把握可能なモノづくり的コーディネーションでした。モノづくりを効率的に行うためにタスクの専門家・配分やスケジュールや責任権限体系をいかに設計するかという問題に終始しており、対象となるモノが目に見えるため、問題点の把握や解決もしやすいものでした。


しかし、時代が変わり、工業化の時代からサービス経済化が進むと、コーディネーションの対象となるものが無形のものになり、把握が難しくなってきます。また、製造の仕事と異なり、創造性やデザイン性が求められる仕事も増え、組織の境界も曖昧になってきます。モノづくりののように、決まった時間にきまったタスクを予定通り遂行するための公式なルールや手続きを設計することでコーディネーションが可能となるわけではないのです。より不確実性が高く、流動的な環境の中で、働いている人々がリアルタイムで状況を判断しながら公式ルールのみならずインフォーマルな対応を通じて仕事をコーディネートしあうようなプロセスが必要になってきます。よって、上記に挙げたようなモノづくり的なコーディネーション理論では不十分ということになります。Okhuysen & Bechkyは、このような新たな時代の状況を考慮し、組織内コーディネーションを「集合的なパフォーマンスを生み出すためにインプットをコントロールするための、その都度その都度展開される文脈依存的なプロセスおよび相互作用のあり方」と定義します。


Okhuysen & Bechkyは、先行文献から、上記の定義で理解される組織内コーディネーションの5つの異なるメカニズムを整理しています。それは、「計画とルール」「オブジェクトと表象」「役割」「ルーチン」「(物理的)近接性」です。計画とルールは、コーディネーションを実現するためにタスクの責任範囲を規定し、資源を割り当て、調整のための合意を得ることを可能にします。オブジェクトと表象は、情報共有を促進し、タスクの足場を作り、お互いに進捗度合いを把握しあい、共通視点を生み出すことを可能にします。役割は、組織内で相互に監視し合い、タスクそのものに代わってそれを行う人材の責任を規定し、共通視点を生み出すことを可能にします。ルーチンは、タスクの遂行を安定させ、タスクの引継ぎを円滑にし、集団の凝集性を高め、共通視点を生み出すことを可能にします。近接性は、見える化を促進し、監視やタスクの更新を可能にし、異常事態などの予想・対応をやりやすくし、知識を蓄積し、信頼を形成することを可能にします。


Okhuysen & Bechkyは、上記の5つのメカニズムをさらに統合的に整理し、組織内コーディネーションを「アカウンタビリティ(説明責任)」「予測可能性」「共通理解」の3軸で捉える統合モデルを提唱しました。アカウンタビリティは、誰がどのタスクの責任を持っているかということです。アカウンタビリティが明確になることで、相互に依存しあって仕事をしている人々が、自分が何を責任をもって行うべきかがクリアに理解できるようになります。予測可能性は、組織として生み出すアウトプットにおいて、いつどんなタスクが発生し、どんな順序で何が起こるのかが分かるということです。予測可能性が高ければ、その予測を参照しながら各自が仕事を進めることができます。共通理解は、組織が生み出す業務全体の共通視点を共有し、その全体像の中で各自の担当がどのような位置づけにあるかを理解することです。共通理解が高ければ、各自が全体像を把握しながら仕事を行うことが可能になります。


上記に挙げた「アカウンタビリティ」「予測可能性」「共通理解」の3軸は、先に挙げた「計画とルール」「オブジェクトと表象」「役割」「ルーチン」「(物理的)近接性」によって高めることができます。この3軸を高めることによって、効果的な組織内コーディネーションが実現するというわけです。Okhuysen & Bechkyの統合モデルは、時代の変化を見据え、どのような方法で組織内コーディネーションを図っていくのがよいのかを考えるうえでも役立つフレームワークだと言えましょう。

参考文献

Okhuysen, G. A., & Bechky, B. A. (2009). 10 coordination in organizations: An integrative perspective. The Academy of Management Annals, 3(1), 463-502.