シェアード・リーダーシップの本質

リーダーシップと聞けば真っ先にイメージされるのが、組織やチームのメンバーよりも一段上にたった1人のリーダーが組織やチームをリードする(引っ張っていく)様子ではないでしょうか。これを伝統的なリーダーシップだとするならば、それに加えて今後ますます重要度が高まってくると思われるのが、1人のリーダーが引っ張るのではなく、チームのメンバー全員がなんらかの形でリーダーシップをシェアするような「シェアード・リーダーシップ」だと思われます。その理由は、環境変化が激しく、複雑性の増すこれからの時代、組織やチームのメンバー全員が自律性をもって柔軟に動いていくことが求められるからです。その際に、1人のリーダーに頼ることなく、臨機応変にメンバー全員がリーダーシップをとっていくことが重要だと考えられるのです。Zhu, Liao, Yam, & Johnson (2018)は、このようなシェアード・リーダーシップの近年の研究動向をレビューしたうえで、現時点での概念定義の明確化および組織やチームにおいてどのようにしてシェアード・リーダーシップが機能するのかを整理しています。


まず、シェアード・リーダーシップとはどのようなリーダーシップを指すのかの定義から入りましょう。Zhuらによれば、シェアード・リーダーシップの特徴として3つが挙げられます。1つ目の特徴は、シェアード・リーダーシップは、メンバー間で水平的に影響力を与え合うプロセスだということです。これは、伝統的なリーダーシップが上から下へといった垂直的な影響力を行使するプロセスとは対照的です。2つ目の特徴は、シェアード・リーダーシップは、チームのメンバー間で自然的に発生するようなプロセスを示しているということです。よって、シェアード・リーダーシップは、特定の公式なリーダーによる活動を示しているのではなく、組織やチーム全体の現象として捉えるほうが適切だということになります。そして3つ目の特徴は、チームメンバー間で権力や影響力が分散されているということです。伝統的なリーダーシップであれば、権力や影響力が1人のリーダーに集中すると思われるのとは対照的な特徴だといえましょう。


つぎに、シェアード・リーダーシップでは、どのようなリーダーシップがどのようなプロセスによってメンバー間でシェアされるのかについてですが、Zhuらは、これまでの研究では、変革型リーダーシップ、カリスマ的リーダーシップ、交流型リーダーシップ、権限移譲型リーダーシップ、オーセンティックリーダーシップなどの特徴がシェアされていることが示されていると論じています。別の研究では、包括的な意味でのリーダーシップがチーム全体によってなされているという視点もあるという議論もあります。さらに、リーダーシップがシェアされるプロセスについては、チームメンバー全員が時間と空間を共有しながら協働するなかでリーダーシップについても共同で行うようになるという視点や、メンバー内で特定のメンバーが非公式にリーダーシップをとるという状況が交替で行われていく、すなわちリーダーシップのローテーションがチーム内で起こるという視点もあります。


最後に、現在の時点で明らかになっているシェアード・リーダーシップの知見について、Zhuらによって整理されたポイントを説明します。まず、シェアード・リーダーシップの先行要因についてですが、より公式なリーダーによる権限移譲型リーダーシップ、サーバントリーダーシップ、変革型リーダーシップ、謙虚型リーダーシップ、外部リーダーからの支援的なコーチングなどが行われると、チーム内でシェアード・リーダーシップが自然発生しやすいことが示されています。また、より公式なリーダーとメンバーとの良好な関係や、チーム内でのビジョンの共有も重要な役割を果たすと考えられます。チームの特徴としては、目的の共有、支援的な環境、発言機会の多さなどが、またチームタスクの凝集性や、メンバー間の機能的多様性が高い際に協働的なコンフリクトマネジメントがとられる場合にシェアード・リーダーシップが自然発生しやすいことが示されています。


シェアード・リーダーシップがチームに与える効果としては、より短期的あるいは中間的な効果として、チーム内の自信の醸成、メンバー間の凝集性、信頼関係、集団主義的特徴、チーム目標へのコミットメント、コンフリクトの減少、コンセンサスの向上、心理的安全性の向上、チームのポジティブな感情特性などが挙げられます。そして、これらが媒介となって、最終的にはチームタスクのパフォーマンス、プロジェクトの完遂、顧客満足度の向上、メンバーの市民行動の向上によるチームアイデンティティの向上、チームメンバーの職務態度の向上、創造性やイノベーションの促進といった効果が現れることが示唆されています。シェアード・リーダーシップによるこれらの効果については、伝統的なリーダーシップスタイルがシェアされるときよりも、変革型リーダーシップやサーバントリーダーシップのように「新たなジャンルのリーダーシップ」がシェアされるほうが効果が高く、タスクの複雑性や相互依存性が高いほど効果があり、また、意思決定タスクよりも創造性タスク、多様な職務からなるチームタスクのパフォーマンスにより効果があるということが示されています。

参考文献

Zhu, J., Liao, Z., Yam, K. C., & Johnson, R. E. (2018). Shared leadership: A state‐of‐the‐art review and future research agenda. Journal of Organizational Behavior, 39(7), 834-852.