組織デザインの根本原理

現在の経済環境は大きな変化を遂げており、組織のあり方も変わりつつあると言われます。新たな時代に適合する組織デザイン(組織構造の設計)はどのようなものなのでしょうか。ここで経営学的に考える上で重要なのが、「新しい組織デザイン」とは、「旧来の組織デザイン」と比べてどこが新しいのかを理論的に説明することです。そのためには、組織デザインについて、根本的に考える必要があるでしょう。根本的に考えるとは、そもそもなぜ組織が存在するのかの理由にまで遡って考えることです。組織が存在する理由は、組織以外では実現不可能な問題を解決することと同値だといえます。そのような問題の存在が、組織の存在にとっての必要十分条件だというわけです。組織はいったい何で、どんな問題を解決するために存在しているのでしょうか。


上記に照らし合わせて、新しい組織とは何かの理解を助けるために組織デザインの根本原理を考えたのが、Puranam, Alexy & Reitzig (2014)です。まず、彼らが採用する組織の定義は、マーチとサイモンによる「嗜好、保有情報、関心、知識などが異なる個人や集団同士の調整的な活動のシステム」です。また、組織は複数のエージェントからなり、認識可能な境界線があり、システムレベルの目的や目標があり、その目的や目標に対してエージェントが貢献することが期待されているといえます。簡単にいえば、境界線があることと目標を持っていることが、組織をユニークたらしめているとPuranamらはいうのです。


このような組織が、組織デザインによって解決するべき問題、すなわち組織の存在に関わる根本的問題は、2つの大きく分けると「分業」と「努力の統合」になります。さらに分業は「タスク分割」と「タスク配分」に分けられ、努力の統合は「報酬の提供」と「情報の提供」に分かれます。よって、「タスク分割」「タスク配分」「報酬の提供」「情報の提供」の4つの問題が組織をデザインするうえでの根本原理を構成しているといえます。言い換えるならば、組織デザインとは、これらの4つの問題をどのように解決しようとしているのかと言い換えることが可能であり、同じ問題群を解決するための方法が今までなかった新しいものである場合、それは「旧来の組織デザイン」に対する「新たな組織デザイン」として捉えることができるわけです。


分業は、組織目標をそれに貢献するタスクに分割し、それらのタスクを個々の組織メンバーに割り当てることを意味します。組織デザインにおけるタスク分割では、具体的にはワークフローダイアグラムやビジネスプロセスマッピングなどがツールとして使われます。組織デザインにおけるタスク配分では、分割されたタスクを組織内の個人や集団に配分することですが、伝統的には、タスクから役割を定義して、そこに人材を採用してあてがうというようなプロセスになります。


努力の統合は、組織内における協働と活動の調整を促すことです。協働のほうは、組織内の人々が協力して働くようなモチベーションを生み出す必要があり、それを解決するために組織デザインにおける報酬の提供方法が考案されます。他者の協力を促進する内発的動機付けもしくは外発的動機付けが例として挙げられます。調整を行うためには、組織内の人々の情報を提供する必要があり、組織内でタスクの調整がしやすくなるように組織デザインにおける情報の提供方法が考案されます。例えば、タスク同士の相互依存性をなくし、調整の必要性を減らして情報提供の必要を軽減するようにタスク分割やタスク配分を行う方法や、有用な情報が発信され流れるようなコミュニケーションチャネルを提供する方法などがあります。


Puranamらは、例えば旧来のソフトウェア制作組織と、LinuxWikipediaのようなオープンソースの組織との比較を通じて、旧来の組織デザインと新しい組織デザインを比較しています。そこからもう少し一般化して言えることとして、まず、4つの問題のうち「タスク配分」について、旧来のタスク配分は、組織から個人へタスクを配分するという考え方であったのに対し、新しいタスク配分の方法は、個人にタスクを選ばせるものであると論じています。このような変化が、他の3つの問題への解決方法にも波及していると述べます。例えば協働を促進するための報酬の提供に関しては、個人にタスクを選ばせるということは個人が好きなタスクを遂行することを意味するので、旧来の給料や昇進といった外発的報酬ではなく、新し方法では「好きな仕事ができる」という内発的報酬が重視されることになるでしょう。また、協働に伴うフリーライディングを防ぐために、新しい方法では、規則と罰則によるものではなく、仲間と働くことを良しとする行動規範に沿うことで組織から認められるという報酬提供や、メンバーシップステイタスを高めるこで仲間同士で働くことのモチベーションを高めるという報酬提供も考えられます。


活動の調整を効果的に行うための情報提供については、旧来の方法では対面的な情報提供が重視されていたのに対し、新しい組織デザインでは、組織からタスクを配分するのではなく自分でタスクを選ぶので、人々の働き方や場所の自由度も高まり対面的な情報提供が難しくなります。そこで、新たな情報提供手段としてはITなどを活用した共通基盤の形成が考えられます。自由な働き方をしているメンバーがそれを参照しながら活動を調整するようにするわけです。また、調整の必要が削減されるように、モジュール方のタスク構造を採用するという方法も考えられます。モジュールはそれぞれが独立・完結しているので、他のモジュールとの複雑な調整がなくなります。タスク分割については、旧来の方法では、専門化、個人のスキルや嗜好とのマッチングなどを基準としてタスク分割されてきたのに対して、新しい方法としては「見える化」を重視したタスク分割という考え方があります。これは、各メンバーが、見える化された分割タスクの中から、自分が貢献できそうなものを選択して遂行するという行動につながるわけです。


そもそも組織とは単体ではなく、人々が集まって協働するシステムです。組織内で個々の人々や集団が活動し、それが組織全体としてのアウトプットになっていきます。そこでは、どのようにタスクを分割し配分したうえで組織メンバーに活動してもらうか、ただしタスクを分割し配分しただけでは個々の活動がばらばらになってしまうので、それらの活動をどのように統合して組織全体の目標の実現に向けたアウトプットにしていくかという、分割(分化)と統合の問題が、組織にとってはもっとも本質的な問題であることを、Puramanらは示しているのだといえましょう。

参考文献

Puranam, P., Alexy, O., & Reitzig, M. (2014). What's “new” about new forms of organizing?. Academy of Management Review, 39(2), 162-180.