ニューサイエンスに学ぶ組織論3:創造エネルギーとしての情報

ニューサイエンスに学ぶ組織論2で議論したとおり、あらゆる生命体は、開放系としての散逸構造を持ち、自己組織化することで生命を維持しています。開放系としての生命体は、環境との相互交流を通して常に自分自身を作りかえながら、すなわち自己を創造し続けながら生き続けています。では、そのような自己を創造し続けることで生命を維持するプロセスを維持するためのエネルギー源はなんでしょうか。そして、その理解をどう組織マネジメントに活かすことができるでしょうか。今回は、ウィートリー(2009)を参考にしながら、そのような創造のエネルギー源としての「情報」について考えてみましょう。

 

あらゆる生命体は、自己を形にまとめるのに情報を利用しています。生物は、安定した構造ではなく、情報を統合していく連続的なプロセスだと言えます。具体的には、生物は毎日、古い細胞を捨て、他の有機体の要素を取り込んで、新しい細胞を作っています。したがって、医師で哲学者のチョプラによれば、私たち生命体は時間的、空間的に不動の存在なのではなく、流れる川にずっと近い存在なのだと考えられるそうです。では、肉体的・物質的には絶え間なく変化し続けているにもかかわらず、私たちが不変でいられるのはなぜでしょうか。それは、生物の体に含まれている情報の統合機能のおかげだと考えられます。

 

つまり生命体では物質は常に入れ替わっているのですが、物質を自分の周りに組み立て、一定のパターンを描いているのは情報(記憶)なのです。自己組織化システムは、物理的な形として現れるエネルギーのプロセスだと考えられます。自己組織化システムは、エネルギーをまとめる物質的な構造として、あるいは物質の流れをまとめる情報のプロセスとして理解するのが、いちばん説得力があるのではないかとウィートリーはいうわけです。生命体は情報を利用して物質を形にまとめあげるわけで、システムが生成し続けるためには、宇宙が成長し続けるためのは、情報が絶えず生成されなければなりません。そのような意味において、情報はすばらしい生命の源泉であるといえましょう。

 

ウィートリーによれば、生命の源泉は、新しい構造に整理される新しい情報すなわち目新しさにあります。生命体は、自己を保存するためにだけでなく、成長し、新しい能力をつくりだすために集めた情報を利用しているのです。そして、情報を処理し、情報に気づき、情報に反応する能力があるなら、システムに知性があるといえるといいます。例えば、人類学者のベイトソンは、フィードバックのために、自己制御のために、情報を生成し、吸収する能力のある存在は何であれ、精神があるといっているそうです。ただしそれは、情報を処理するコンピュータのようなイメージではありません。そもそもコンピュータは自らは開放系でもなく自己組織化もしない機械であるからです。

 

ウィートリーは、生命体と情報との関係を、フラクタルを例に挙げながら説明します。フラクタルでは、初めに単純な方程式があり、それを基準に自己準拠を繰り返しながら、複雑な形が生成されていきます。つまり、単純な反復が隠されている複雑さを実際に開放し、創造的な可能性にアクセスするのです。このように、フラクタルの方程式は、還元主義的アプローチの一種ではあっても、次々と新しい姿を現していくという意味において、進化フィードバックの出発点であると考えられます。複雑さを単純な形の積み重ねとして考える昔の還元主義とは異なります。

 

フラクタルの例でも出てくる概念で重要なのが、自己準拠です。自己に準拠して変化を展開していくためには、自己が確立している必要があります。生命体や組織でいうならば、自分(たち)は何者なのか=自己が確立されているということです。そのような自己が、情報の「意味」を理解するということも大切です。意味を理解するということは、新たに獲得した情報を、自己の生命維持のためにどう使うべきかが分かるということでもあります。そのうえで、常に自己を作り変え、新しいものを生み出し、変化しつつも、自分自身は維持しつづけているという逆説的なプロセスが実現し、短期的には非平衡であって不安定だが長期的には秩序が保たれているという逆説的なプロセスも実現するのです。

 

では、情報こそが生命の源泉だと捉える場合、組織マネジメントにその思想をどう活かすことができるでしょうか。まず、ウィートリーは、私たちがするべきこととして、システム全体に脈々と情報が流れ、あえて安定や平静を妨げ、情報が触れるものすべてに新しい可能性が吹き込まれるようにしなければならないといいます。つまり、情報を管理するのではなく促進するのであって、コントロールするのではなく発生させるということです。組織という自己組織化するシステムに、エネルギー源もしくは栄養としての情報が自由に流れ込んでこんだり生成されたりするということで、情報をエネルギー源と捉えるならば、情報に自由にアクセスすることで自己組織化を促すことの重要性を理解することが大切だということです。

 

そして、自分たちは何者なのかという組織アイデンティティ、あるいは組織の存在意義としてのパーパスを明確に確立しているということも重要だといえます。なぜならば、自由に情報にアクセスし、自由に情報が組織を流れるようにするということは、情報を遮断したり、情報を管理することを止めることだからです。そうなると、より不確実で、カオスといってよい状況が生まれることでしょう。しかし、そのような状態から新しい情報も常に生成されます。そのような中で、組織の生存、進化、発展にとって意味のある情報がくみ取られ、それによって組織の自己組織化プロセスが促されていくためには、自分は何者なのかという自己が確立されている必要があるからです。

参考文献

マーガレット・J・ウィートリー 2009「リーダーシップとニューサイエンス」英治出版