同僚への嫉妬が誹謗中傷行動につながるメカニズム

私たちは常に、自分と他者を比較します。そして、例えば職場の同僚が自分よりも優れていたり、成功したり、幸福であったりするさいに「嫉妬」を抱くことがあります。嫉妬は、他者の幸福にともなる痛みを伴う感情であり、われわれは嫉妬を感じると、その痛みや不快を取り除こうとします。嫉妬が良性であるならば、それはさらなる努力や自己研鑽につながるなどの良い結果をもたらすでしょう。しかし、嫉妬は自分自身の価値やアイデンティティを脅かすものでもあるため、嫉妬を感じる相手を中傷したり、陥れたりすることによって相手の優越性を消し去ろうとする行動にもつながります。そうすることにより嫉妬対象と自分自身との差をなくそうとするのです。


Duffy, Scott, Shaw, Tepper & Aquino (forthcoming)は、いかなるプロセスにおいて、いかなる条件のときに、職場の同僚に抱く嫉妬が望ましくない誹謗中傷行動(social undermining)につながるのかを研究しました。Duffyらは、嫉妬感情の生起が、それに伴う不快な感情を低減させようとするあまり、道徳性に関する自己規律を弱めると論じました。つまり、普段は、非道徳的な行動は自己規律(self-regulation)機能によって抑制されているのですが、嫉妬が生じると、その抑制をゆるめて「相手はそんなに価値がないからそれを是正する必要がある」といったような判断や「それくらいなら許されるだろう」といったような正当化など、道徳性の欠如につながる思考を活性化すると論じました。そして、こういった道徳性欠落減少が、実際の誹謗中傷行動や相手を貶める行動につながると論じました。


ただし、嫉妬が起きれば必ずしもこのようなプロセスにより同僚への誹謗中傷行動につながるとは限りません。Duffyらは、まず嫉妬した本人がどれほど所属する組織やグループに一体感を感じているか、あるいは職場全体としてどれほど一体感が強いかに左右されると論じました。組織やグループへの一体感、あるいは組織やグループ全体の一体感が強い場合、より同僚や仲間に対する道徳心が高まると考えられるので、嫉妬に起因する道徳性の欠落が起こりにくいと考えられるわけです。嫉妬を起こしたとしても、対象を誹謗中傷したり貶めたりすることは望ましくないといった抑止力が働くわけです。また、組織やグループ内で、他者を中傷したり貶めたりすることが許容される雰囲気化どうかというのも影響してくると論じました。そういった行動を許容しない組織やグループならば、本人に道徳的欠落が起こったとしても、行動レベルでの誹謗中傷行動は抑制されると考えたのです。


Duffyらは、2つの調査を通じて、上記の予測が妥当であることを確認しました。

文献

Duffy, M. K., Scott, K. L., Shaw, J. D., Tepper, E. J., & Aquino, K. (forthcoming). A Social context model of envy and social undermining. Academy of Management Journal.