組織の一体感を高めるリーダーシップが常に有効とは限らない:連合型リーダーシップの可能性

リーダーシップといえば、組織やチームのメンバーを、組織やチームの目的を実現する方向に動かしていく(動機づける)プロセスとして理解できます。そして、多くの場合、組織であればメンバーの組織との一体感を高めることの重要性がしばしば指摘されます。これは、学術的に言えば。メンバーの「組織アイデンティフィケーション(組織との同一化)を高めることだと言えます。リーダーシップ理論の中でも、カリスマ型リーダーシップ、変革型リーダーシップ、ビジョナリーリーダーシップは、トップであるリーダーが勇気のあるストーリーやビジョンを語ったりそれに沿った行動をすることによってメンバーからの強い求心力を獲得するリーダーシップですが、そこでは、メンバーが組織との一体感を覚え、組織のために献身的に活動したいと思わせる力を喚起するというプロセスが介在しています。

 

しかし、現実の組織には階層や部門やグループがあり、異なるタイプの機能を担う人材や異なる職業が同居していたりしますので、必ずしもメンバー全員が、自分たちは組織の同じメンバーだというように、組織が一枚岩になる場合ばかりではありません。例えば、異なる部署やグループ感で競合、競争関係になりやすい構造になっていたり、異なる職業間で競合、対立関係になっていたりする構図が典型的な場合もあります。その場合は、「私達は同じ組織で働いており、グループが違えどもすべて同じ仲間だ」だと考えるというよりは「同じ組織で働いていても、私達とあの人たちは違う」というアイデンティティを持つことが自然と発生することが多いことでしょう。そもそも、人間の特性として、自分の属するグループを優遇し、自分が属さない外のグループには冷たくなったり敵対的になる(内集団びいき)という人間として本源的な特徴を持っています。よって、組織内の集団間で対立やぎすぎすが起こったりするものです。

 

これに関して、Hogg, Van Knippenberg, & Rast III (2012)は、組織の一体感を重視する従来型のリーダーシップ理論に意を唱え、とりわけ集団間で対立や葛藤が生じやすいような組織で、これら集団間の協力関係が組織の成功に必要不可欠である場合は、新しい別のタイプのリーダーシップが必要だと唱えました。つまり、このような組織においては、組織の一体感を高めようとするようなリーダーシップは効果を発揮しないばかりか、「私たちとは本質的に異なるあちらのグループと一体化したくない」といったようにメンバーからの反発を買ってうまくいかないケースもあることを示唆するのです。例えば、EUを考えた場合、国の違いを無視して「私達はヨーロッパ人として皆同じだから1つの共同体だ」と主張することはさすがに無理があるでしょう。それぞれの国民はEUとしてである前に参加国の国民として同一化するはずですから。組織のレベルでHoggらが想定するのは、例えば、病院組織や出版社です。

 

病院では、医師は医師としての独自のアイデンティティを持っており、医師グループとしての同一化しやすいのに対し、看護師は看護師としての独自のアイデンティティを持っており、看護師グループとして同一化しやすく、どちらのグループも、自分たちは病院にはなくてはならない存在だと自負しているはずですが、病院のメンバーが、「医師も看護師も区別なくわれわれは病院として一体だ」という意識を持つことは困難です。出版社には、書籍部門と学術雑誌の部門があり、それぞれ出版社内での目的や役割が異なり、異なる建物や職場で社員が働いており、相互交流があまりありません。交流が少なければ、それぞれの部門が、自分たちこそが組織を支えているのだという自負心を持ち、相手側に対してライバル意識をもつかもしれません。そのため、部門間で分離して場合によっては対立関係に発展しかねないわけです。

 

では、Hoggらが提唱する新しいリーダーシップとはどのようなものなのでしょうか。これを考えるうえでカギになるのが、メンバーの自己概念、アイデンティティです。従来型のリーダーシップは、メンバーのアイデンティティを組織と同一化させることでメンバーを組織の共通目的の実現に駆り立てることを主眼としてきましたが、Hoggらが提唱する「連合型リーダーシップ(英語では、intergroup leadership)」では、無理にメンバーのアイデンティティを組織と一体化させるのではなく、メンバーのアイデンティティは彼らが属するグループと一体化させることを許容しつつ(例、医師は医師グループ、看護師は看護師グループ)、それぞれのグループが対立ではなく協力することを促すことで組織の目標を実現させることに主眼を置きます。

 

連合型リーダーシップの構成要素は主に3つです。1つ目は、メンバーが、組織内グループが連合した形としてのアイデンティティを形成させることを促すこと、2つ目は、組織内でグループ間を橋渡しする役割を担うこと、3つ目は、異なるグループから出自するリーダー達による連合政権のようなリーダーシップを発揮することです。まず、1つ目ですが、これは、リーダーが「私達は一体だ、皆で力を合わせて組織目標を実現しよう」と呼びかけるのではなく「私達は、異なるグループの連合体だ。異なるグループが協力しあい、力を合わせることで組織目標を実現しよう」と呼びかけることを意味します。リーダーのストーリー構築やビジョンが従来型のリーダーシップとは異なり、メンバーのアイデンティティには彼らが属する組織内グループが存在することをしっかりと意識したものになっています。そのことで、メンバーの頭の中に、自分が属するグループを含めた複数のグループが協力しあう組織の姿を植え付けるわけです。

 

組織内のグループ間の競合や対立は起こりやすく、これを防ぎつつ、グループ間の協力を促すためには、1つ目のリーダーによる連合体としてのストーリーやビジョン形成だけでは不十分です。リーダーは、それを実現するために自らの行動をもってグループ間の協力関係の構築に貢献しなければなりません。これを可能にするのが、2つ目の、グループ間の橋渡し行動で、組織の壁を超えるバウンダリースパニング行動とよく呼ばれます。リーダー自らが橋渡し役となってグループ間の協力関係を促進するのです。しかし、自分とは異なるグループ出身のリーダーに組織を牛耳られているという感覚をメンバーが持つと、そのグループの人々は、自分たちの立場が脅かされるかもしれないという不安感やリーダーに対する不信感にさいなまれ、組織がまとまりにくくなります。そこで、3つ目の要素が重要になります。

 

つまり、それぞれのグループからリーダーを出してもらい、それらのリーダーが連合政権を組むような形でリーダーシップを発揮してもらう方法です。そうするならば、どのグループも不当に扱われないという安心をメンバー間で生み出すことが可能で、それがさらにグループ間の協力関係を促進すると考えられるのです。異なるグループが協力することで組織目標を実現していくという姿を、それぞれのグループを代表するリーダーたちが見本として身を持って示すわけです。

 

今回紹介した、Hoggらが提唱する連合型リーダーシップは、従来型のリーダーシップが組織内の集団間関係の調整というリーダーの役割に十分な焦点を当ててこなかったことを批判しつつ、集団間関係において、とりわけ異なるグループが対立しやすいような構造になっており、グループ間の協力関係が組織の目的を実現する際に必要不可欠な組織の場合には、連合型リーダーシップのほうが威力を発揮することを主張するのです。

参考文献

Hogg, M. A., Van Knippenberg, D., & Rast III, D. E. (2012). Intergroup leadership in organizations: Leading across group and organizational boundaries. Academy of Management Review37(2), 232-255.