「直観」が優れた意思決定につながる条件は何か

ビジネスや経営の実践において、直観的な意思決定が重要な役割を担うと考えられる一方で、直観は間違うことが多く、合理的な意思決定に劣るとする研究もあります。おそらく、どんな場合にも直観が優れた結果をもたらすわけではなく、直観が優れた意思決定につながるためには、なんらかの条件があると考えられます。Dane & Pratt (2007)は、このような観点から、いくつかの境界条件についての理論と命題を導いています。


まず、直観に基づく優れた意思決定につながる要素として、対象領域についての複雑かつ深い知識体系が重要になってくるとDane & Prattは論じています。対象領域に関する複雑な知識を保有していなければ、直観は単なる思考の省略(認知の近道)に過ぎず、それが合理的な意思決定に劣りがちであることは多くの研究が明らかにしているところです。つまり、すでに本人が持っている対象領域に関する複雑な知識体系が直観プロセスによって活用されることによってはじめて、優れた意思決定につながると考えらるわけです。


そのような対象領域に関連する複雑な知識体系は、意図的な学習を長期間かつ繰り返し行うことによって身に着くとDane & Prattは論じます。かつ、そういった学習は、結果が迅速にフィードバックされるものである必要があるといいます。意図的な学習とともに、無意識的な学習も有効だと言います。その場合は、対象に対して深く集中する機会をどれだけ持てるかが大切となります。問題状況に集中することによって、そこから無意識的に学習し、知識が蓄えられていくのだと考えられるわけです。


また、直観が優れた意思決定につながる別の次元の条件として、問題構造もしくはタスクの特徴があげられます。Dane & Prattは、問題構造やタスクの不確実性が高いほど、それは状況判断を多く伴うタスクにつながり、判断を伴うタスクほど、直観が優れた意思決定につながると論じます。逆に、複雑であっても状況判断を必要とせず、特定のプロセスで明確に正解にたどり着くような問題やタスクは、直観よりも論理的、合理的な意思決定のほうがすぐれた結果をもたらすでしょう。前出のポイントと絡めていうならば、人々が、すでに蓄積している対象領域にかかわる複雑な知識体系を、不確実性が高いがゆえに状況判断を多く伴うようなタスクに用いる場合に、直観が優れた意思決定につながると考えられるわけです。

文献

Dane, E., & Pratt, M. G. 2007. Exploring intuition and its role in managerial decision making. Academy of Management Review, 32, 33-54.