経営意思決定における「直観」とは何か

昔から、「直観」はミステリアスなものとしてしばしば捉えられます。ビジネスや経営でいれば、経営の「勘」のようなものが重視されたりします。一方で、こういった「勘」は頼りにならず、合理的判断が必要だという説もあります。では、そもそも直観とは何なのでしょうか。また、直観は経営意思決定にどれほど重要なのでしょうか。Dane & Pratt (2007)は、理解に混乱が生じがちな「直観」について、先行文献を丁寧に踏まえたうえで、整理して解説しています。


直観とは何かを考える上で、Dane & Prattはまず、人間の情報処理プロセスには2種類の並行するプロセスがあると説明します。1つ目は、自動的で努力を要しない情報処理プロセスや学習です。これは、半ば無意識的に経験から何かを得て、それを活用することにつながります。これは様々な呼び方がされますが、「システム1」とも呼ばれ、私たちが日常の生活の多くの部分で利用しているプロセスです。2つ目は、意識的に、注意を集中しながら物事を学習したり分析したり考えをめぐらすプロセスです。これもさまざまな呼び方がされますが「システム2」とも呼ばれます。直観的意思決定はシステム1に近く、合理的な意思決定はシステム2に近いと考えられます。


上記のように、Dane & Prattは、「直観」を、無意識的な情報処理であると考えますが、すべての無意識的な情報処理が直観であるわけではないと主張します。たとえば、無意識的な学習は、むしろ直観のインプットであり、直観そのものではないとします。直観とは、どのように学習された情報が頭の中で結びついたり活用されたりするに関するプロセスだと考えます。また、直観の定義としては、プロセスのみならず、その結果も考慮します。これらをふまえ、Dane & Prattは、直観の特徴として、(1)無意識的なプロセスである、(2)全体的な把握を伴う、(3)意思決定や判断が迅速である、(4)直観の結果、感情的要素を伴う判断が生じる、の4つに整理しています。


まず、直観は無意識的なプロセスです。私たちは直観によって、ふと考えが浮かんだりしますが、なぜそのような考えが生まれてきたのかよく分からなかったりします。それは意識的に情報を組み合わせたり活用したりしているわけではないからです。次に、直観は、全体的な把握を伴います。人々はすでに経験により蓄積された、さまざまなパターン、カテゴリー、特徴と、眼前にある状況や環境とのマッチングを無意識的に行っていると考えられます。直観的なプロセスでは、経験により得られた深層的な知識とのパターンマッチングを行っていることになります。それがゆえに、直観はスピーディーで迅速です。これは、進化心理学的にいっても人類が生存していくうえで重要な機能であったと考えられると同時に、ビジネスや経営の場面でも求められる要素です。そして、直観的な判断はしばしば感情を伴います。なんとなく気持ち悪いとか、良さそうだとかいうフィーリングだったり感覚的なものだったりするわけです。人間の感情機能が、直観的プロセスおよびその結果に関与していることがうかがわれます。


よって、Dane & Prattが定義する直観とは、「迅速で、無意識的で、全体的把握を伴うプロセスによって行われる感情が伴う判断」となるわけです。よって、直観は、熟考によって行われる、分析的で論理的な思考を伴う合理的思考とはかけはなれたプロセスであるといえます。また、直観は、「本能」や「洞察」とも違います。「本能」とは、生物として生得的に組み込まれている情報処理プロセスを指します。よって、経験から得られた知識や情報を用いる直観とは異なります。「洞察」は「問題解決に資するような、予期せず突然訪れる考え」だと言われますが、これは、熟考を伴うような長い思考や知識獲得の結果、異なる要素が突然結びついていわゆる「ひらめく」ものです。この場合、突然浮かんだ考えやアイデアは、何と何が結びついてできあがったのか本人にも分かります。けれども、直観の場合、どうしてそういう考えが浮かんだのかさえ分からないわけです。

文献

Dane, E., & Pratt, M. G. 2007. Exploring intuition and its role in managerial decision making. Academy of Management Review, 32, 33-54.