役員兼任ネットワークの本質:企業はエリート階級の道具か

企業統治のシステムとして、社外取締役を多用するアメリカなどでは、企業のCEOなどの主要な役員が、他の企業の外部取締役を兼任することが多く見られます。これによって産業界で、役員兼任ネットワークが形成されていきます。役員兼任ネットワークは、組織間関係の1つの要素であるとも解釈できます。そこで問題となるのは、組織間関係を主眼として役員兼任ネットワークを見るならば、組織は合理的な意図や計画に基づいて組織間関係を締結しようとするのかということです。もしそうならば、役員は組織の意図や計画に基づいて、そのエージェントとして他の組織の社外取締役に派遣されるにすぎません。しかし、本当にそうでしょうか。


組織間関係といっても、組織が関係を結ぶのではなく、実際に関係を形成するのは個人であるという視点に立ち、どのようにして役員兼任がなされるのかに目を向けてみると、いくつかの動機が考えられます。1つは、企業同士が手を結びたいという動機、あるいは特定の企業が、有名な企業からCEOなどの役員を招へいすることによって後光を得ようとする動機です。逆に、有名な企業に役員を派遣することによる評判効果も動機として考えられます。それらに加え、企業経営に関して有用なアドバイスができる人物、誰もが納得するような人物というような属人的要素もあるでしょう。これといってよい人がいないので消去法でという場合もあるでしょう。これらの人々は、すでに企業のCEOの知人・友人だったりすることが多く、あるいは権力を持っているCEOが自分の人脈から候補者を探したりすることから、結局のところ、企業のエリート階級による閉じられた人間関係によって、役員兼任ネットワークが占められる可能性を示しています。


役員兼任ネットワークが、組織間、企業間の意図を反映しているのか、あくまで個人間のネットワークとして機能しているのかを考える場合、Stearns & Mizruchi (1986)の研究が参考になります。彼らは、役員兼任ネットワークの解消(当事者の死去などによる)の半数以上が、復活しないことを発見しました。つまり、企業間の資源依存関係のような関係であっても、なんらかの理由で個人間の関係が解消されたときに、必ずしも企業が別の人材を送るなどして関係を維持しようとするわけではないことがわかったのです。これは何を意味しているかというと、役員兼任ネットワークは、企業間のネットワークを示しているというよりは、あくまで属人的な個人間の人間関係ネットワークを反映している度合いが強いということです。


上記のような考えが示唆するのは、役員兼任ネットワークが重要な役割を担う組織間関係というのは、組織による合理的な動機や計画に基づくのではなく、産業界に存在する企業エリート階級の人間関係ネットワークによって決まってくる可能性が高いこと、そして、役員兼任ネットワークを形成する個人は、閉じられたエリート階級の様相を示しており、組織ないし組織ネットワークは、権力を有する彼らにとっての権力基盤の維持や政治的行為の道具となりうるということです。つまり、企業エリートの階級が、自らの権力や地位を保全し、利益を得るために、企業の主要なポジションを仲間内で独占するという可能性もあるということなのです。実際、役員兼任ネットワーク上、お互いに結び付きの強い個人は、お互いに類似した政治行動をとることも研究で明らかになってきました。

参考文献

Stearns, L-B, & Mizruchi, M.S. (1986). Broken-tie reconstitution and the functions of interorganizational interlocks: a reexamination. Administrative Science Quarterly, 31, 522 - 38.
Mizruchi, M.S. (1996). What do interlocks do? An analysis, critique, and assessment of research on interlocking directorates. Annual Review of Sociology. Vol. 22: 271-298