イノベーションにつながる「最高の発想」を意図的に生みだす方法

歴史を変えるような画期的ななビジネスや商品、あるいは革新的なマネジメントの改善などにつながるようなイノベーティブなアイデアはどのように生み出されるのでしょうか。これに関しては、ニュートンのリンゴのように、何かの拍子に突然ひらめく(アイデアが降臨する)ものだという理解が多いのではないでしょうか。これに対して、アイエンガー(2023)は、イノベーションにつながる「最高の発想」を意図的に生みだす方法を提唱しています。この方法を用いると、天才のみならず、あるいは運に100%頼ることなく、多くの人が素晴らしいアイデアにたどり着くことが可能だといいます。アイエンガーが提唱するこの画期的な方法の根底にある考え方は、「新しいものごとは、それらをつくる要素が新しいのではなく、要素を組み合わせる方法が新しいのだ」ということで、言い換えるならば、「イノベーションとは、複雑な課題を解決するための、古いアイデアの新規かつ有用な組み合わせである」というものです。

 

アイエンガーによれば、画期的なイノベーションを起こすのに、あるいは複雑な問題に対して画期的な問題解決を図るためには、新しいアイデアが必要であるわけではありません。既存のアイデア、古いアイデアであってもよいのです。ただ、既存のアイデア、古いアイデアを「新規的かつ有用なかたちで」組み合わせることがポイントなので、それを可能にする方法を「システム化」して「手順」として示すことで、多くの人がその手法を用いてイノベーションを起こすことが可能になります。これを、アイエンガーは大きなアイデアを生むエビデンスベースの手法という意味を込めて「Think Bigger の6つのステップ」と命名しました。Think biggerアプローチの要諦は、大きなアイデアを得ることで解決したい複雑かつ重要な問題を小さな要素に分解し、それぞれの要素ごとに既存のあるいは古いアイデアを収集、整理し、それらのいろいろな組み合わせ方を検討することで、「新規かつ有用な」組み合わせを発見するということです。

 

アイエンガーの「Think Bigger の6つのステップ」は、イノベーションの事例を分解して、それらを生み出した思考プロセスを明らかにした結果として生まれたエビデンスベース(証拠に裏付けられた)手法です。ただ、6つステップといっても、イノベーションは一直線には進まないことを肝に命じるべきであることをアイエンガーは強調します。6つのステップからなるロードマップは示すものの、ステップ間を行ったり来たりするプロセスも含まれますし、急いで取り組むものではなく、じっくりと時間をかける必要もあります。それを踏まえたうえで、各ステップについて説明していきます。ステップ1は、「解決すべき課題を正しく選び、それをしっかり理解する」ことです。これは必ずしも簡単なことではないとアイエンガーは指摘します。つまり、時間と的確な判断が必要となります。例えば、選ぶ課題は、これまで誰も解決していないほどに困難だが、夢物語のままで終わらないものである必要があります。取り組む価値があって、有用な解決策につながるような定義を選ぶことも大切だといいます。

 

ステップ2は、ステップ1で設定した大きな課題を、小さなサブ課題に分解することです。どんな重要な課題も、複数の小さな課題でできているとアイエンガーは説明します。サブ課題をたくさんリストアップし、5〜7個に絞りこんでいきます。そしてステップ3で、課題を大局的な見地から捉え、3つの重要な当事者(あなた、ターゲット、第三者)を特定し、それぞれが解決策に何を望んでいるかを洗い出します。これが「全体像スコア」につながり、複数の解決策の中から最終的に1つ選択する際の判断基準になるといいます。ステップ4では、サブ課題ごとに、すでにある解決策を探してリストアップしていきます。新しいアイデアである必要はないので、自分の領域内、領域外いろいろと探し回って、成功した解決策の「戦略的模倣」を行います。ステップ5では、収集した解決策を選択マップに整理し、それらをいろいろな方法で組み合わせ、ぴったりあてはまる「新規かつ有用な」組み合わせが見つかるまで繰り返します。最後のステップ6では、自分が作り出したアイデアを第三者がどう見るのかを吟味します。「第三の眼」でものごとを捉えるということです。

 

もちろん、「Think Bigger の6つのステップ」を使ったからといって必ずしも問題がうまく解決するいうわけではないし、これで世界中の困難な課題を解決できるというわけでもないアイエンガーはいいます。しかし、この方法は、イノベーションのプロセスを分解し、偉大なイノベーターたちが新しいアイデアを生み出した方法を体系化したものなので、この方法の真髄を理解すれば、「自分にもできる」と自信をもてるはずだとアイエンガーは主張するのです。

参考文献

シーナ・アイエンガー 2023「THINK BIGGER 「最高の発想」を生む方法:コロンビア大学ビジネススクール特別講義」NewsPicksパブリッシング