フェア・マネジメントの方法

日本の会社が戦略や人事改革、組織改革などで思い切った手を打てないのは、フェアネスに関する危惧からだと思います。思い切った手を打つ場合、従業員すべてにとってポジティブな結果を生む保障はありません。場合によっては、特定の従業員にとって残念な結果に陥る場合もあります。その際に、フェアであることを担保できなければ、職場内において大きな不満を生み、それが会社に多大な影響を及ぼしかねないことを恐れるわけです。


実際、フェアネスを担保できないまま実行する施策は失敗に終わることが多いでしょう。その例が、10年ほど前に流行した「成果主義」の導入です。会社経営や人事処遇の成果志向を徹底し、成果に応じた処遇を行うと言う成果主義の理念に賛成する人は多かったものの、実際には、それをフェアに運用する仕組みの構築ができなかったがためにうまくいかなかった会社が多いと言われています。


このようなことを恐れるならば、会社としてこれから生き延びるためには大胆な変革が必要であると考えていたとしても、フェアネスを担保できないがために従業員のモラルの大幅な低下などのリスクが大きすぎて大胆な策を講じることはできないでしょう。しかしそれによって経営の根本的な変革が遅れれば、それだけ企業経営も苦境に立たされることになるでしょう。したがって、日本企業が、今後、戦略や組織面で思い切った策を着手するためにも、日頃からフェア・マネジメントを徹底して社員からの信頼を獲得しておく必要があります。


個人的に見聞きする海外の事例などから、トップマネジメントがまず経営においてフェアであることを根本的な哲学として重視し、それをきちんと実践している会社が成長しているように思えます。決して社員に対して優しいだけの「ぬるま湯」な経営ではなく、むしろ業績を高めるために高い成果を従業員に要求する厳しいマネジメントを行っています。しかし、一方で、マネジメントにおいてはフェア・プレーに徹しています。そうすることによって、社員からの信頼を勝ち得ているように思えます。優秀な社員が辞めていくということも少ないでしょう。そう考えると、従業員に対する期待や処遇に関しては従業員に厳しく、信賞必罰も辞さず、しかし何事にもフェアである会社が伸びていくように思えます。


しかし、フェアネスの概念には、人間尊重の精神が基本にあることも忘れてはなりません。つまり、ルールや結果においてフェアでありさえすればよいということではないのです。もっと大事なのは、会社として社員ひとり一人を尊重し、大切に扱うという基本姿勢です。厳しいからこそ、従業員に対する気配り、心のケアもかかせないでしょう。例えば、残念な結果に陥ってしまった従業員に対しての精神面でのフォローも欠かせないということです。つまり、厳しくとも思いやりのある会社、そして何事においてもフェアであることが大切なのだといえましょう。