睡眠不足はチームワークや組織規律を乱す

わが国においても長時間労働は昔から問題になっており、十分な解決には至っていないといえます。そして、長時間労働に付随するのは、睡眠不足です。今回は、睡眠不足に陥ることが、組織における逸脱行動すなわちチームワークや組織規律を乱すような行動につながるメカニズムについて理論化し実証したChristian & Ellis (2011)による研究を紹介します。


そもそも、従業員がチームワークを乱したり組織規律を乱すような逸脱行動に出るのはどんな要因によるのかについては、さまざまな見方があります。例えば、特定の性格特性を持った人物が逸脱行動を起こしやすいとか、職場環境が逸脱行動に影響を及ぼすといった考え方があります。それに対し、Christian & Ellisは、自己規律プロセス(self-regulatory process)の視点から説明しようとします。一般的に人々は、望ましい行動を行い、望ましくない行動を抑制するように自分自身の行動を自制し規律するメカニズムを有していると考えられます。これを自己規律(self-regulation)といいます。ただし、人々が自己規律を維持するためには、それなりの資源を必要とすると考えられます。これを、自己規律資源理論(self-regulatory resource theory)といいます。


Christian & Ellisは、睡眠不足は、自己規律に必要なリソースを奪うことになるため、組織で働く人々が望ましくない行動を抑制する自己規律を維持できなくなり、望ましくない行動に出てしまう可能性を指摘します。このプロセスを仲介すると考えるのが、自己管理(セルフ・コントロール)と敵対的感情の生起です。


まず、睡眠は、心身ともに健全な状態を保つために必要なわけですが、睡眠不足になると、脳の正常な働きを鈍らせることにつながります。実際、睡眠不足が、人間関係において望ましくない行動を引き起こすことを示す研究もありますが、これも脳が正常に機能していないことに起因すると思われます。どうように、睡眠不足によって、脳が自己規律を行うための資源が奪われてしまうことが考えられます。そのうち、行動面での自己規律を支えるのが、自己管理(セルフ・コントロール)なのですが、自己規律が働かなくなることによって、行動のセルフ・コントロールも働かなくなってしまいます。そのために、逸脱行動などの望ましくない行動が発現してしまうことにつながります。


自己規律は、望ましい感情を生起させ、望ましくない感情を抑制しようとする感情の制御にもかかわっています。したがって、自己規律機能が正常に働かなくなると、ネガティブな感情を生起しやすくなると考えられます。その代表例が、いらいら、むかつき、怒りといった、敵対的な感情です。感情面で敵対的になれば、それは、チームメンバーや組織に対しても敵対的な行動につながってしまう可能性が高まると考えられるのです。


CHristian & Ellisは、質問紙法や実験を用いた研究を行うことにより、上記のメカニズムが妥当であることを実証しました。このことから、組織の規律を乱すような逸脱行動は、個人の性格特性や職場環境のみならず、睡眠不足のような生理的な要因によっても引き起こされることが示唆されます。睡眠不足により望ましい行動を維持するための感情や行動の制御ができなくなるということです。そのため、適切な勤務時間を維持するとともに、適切な睡眠をとるためのさまざまな工夫や施策が必要であることが重要だと考えられます。

文献

Christian, M. S.,& Ellis, A. P. (2011). Examining the effects of sleep deprivation on workplace deviance: A self-regulatory approach. Academy of Management Journal, 54, 913-934.