フェア・マネジメントの失敗は、マネジャーの侮辱的管理を通じて組織内に蔓延する

組織の従業員を尊重し、公正にに扱うことを理念とするのがフェア・マネジメントです。組織がこの「フェア・マネジメント」を怠ると、どのような問題が組織内の生じるでしょうか。その1つが、組織のマネジャーによる部下への「侮辱的管理(abusive supervision)」です。物理的な暴力にこそ訴えることはないものの、上司の部下に対する罵倒、辱め、嫌がらせといった行為を指す概念です。これは、部下がそう知覚していることが条件になるので、上司がそのような意図を明確にもっていなくても、侮辱的管理が存在している可能性があります。


Aryee, Chen, Sun, & Debrah (2007)は、侮辱的管理に絡むトリクルダウンモデル(trickle-down model:浸透モデル)の考え方に基づき、組織内でマネジャーに対してなされる、相互作用不公正(interactional injustice)(アンフェアな行為)が、組織内における専制的なマネジメントの横行と相まって、当該マネジャーの部下に対する侮辱的管理につながることを論じます。さらに、そのような侮辱的管理が、部下によ相互作用不公正の知覚につながり、最終的には、組織コミットメントの低下や、仲間への援助、組織規律の遵守といった市民行動の低下につながるというモデルを提案しました。


相互作用公正とは、組織内における従業員とのやり取りのなかで、情報を適切に開示しているか、本人を人間として尊重し、威厳をもって扱っているかに関するフェアネス概念です。相互作用公正が低い、つまり相互作用的にアンフェアだとういうことは、自分が相手から軽々しく扱われていることを意味するため、自尊心は傷つき、やる気が喪失し、相手や組織に対する怒りや葛藤の念を抱きます。そのような不満は、上層部ではなく、自分よりも地位の低い部下に「八つ当たり」のようなかたちでぶつけられる可能性が高まります。


不適切なフェア・マネジメントが、マネジャーの侮辱的管理を誘発するメカニズムを助長するのが、専制的リーダーシップの存在です。組織内で行われているリーダーシップのあり方が、部下の参画意識を奨励するような民主的なものではなく、自分自身を絶対視し、部下に対して命令調で、権力によって従わせようとするような専制的リーダーシップであるならば、相互作用的な不公正感を持っているマネジャーは、そういったリーダーシップスタイルを部下に対して行うことで、フラストレーションや怒りのはけ口としようとする行動につながるわけです。


そういった侮辱的管理の対象となった部下は、上司に対して、相互作用的不公正感を抱きます。つまり、自分が会社の一員としてもしくは人間として尊重され、丁寧に、大切に扱われていないという認識につながるのです。そういった不公正感は、組織への愛着(情緒的コミットメント)、仲間への支援、組織規律の遵守といった、チームワークを通じた組織の生産性の向上にとってマイナスとなる行動につながると考えられます。このような形でAryeeらは、組織による不適切なフェア・マネジメントが、侮辱的管理の蔓延につながり、それがさらに下層の従業員の不公正感につながり、最終的には組織の生産性を阻害する行動につながるという理論を展開したわけです。Aryeeらは、実証研究を通じてこのモデルの妥当性を確認しました。

文献

Aryee, S., Chen, Z. X., Sun, L., & Debrah, Y. A. 2007. Antecedents and outcomes of abusive supervision:
Test of a trickle-down model. Journal of Applied Psychology, 92: 191–201