就職活動はジェットコースターのようなプロセス

就職活動は、とりわけ大学生の場合、息の長いプロセスです。また、誰かに強制されてではなく、自発的に動いていかねばならないことや、試行錯誤も伴うことから、就職活動を成功させるためには、自分を律すること(セルフ・レギュレーション)、自己調整(セルフ・コントロール)が必要となります。Wanberg, Zhu, & van Hooft (2010)は、求職中の人々に対して3週間の間、毎日アンケート調査を実施することにより、就職活動はその進捗度合いに応じてジェットコースターのように気分や自信の度合いのアップダウンが伴うダイナミックなプロセスであることを明らかにしました。


Wanbergらは次のようなプロセスモデルを提示します。就職活動中の個人は、毎日、就職活動目標(例、内定を得る)への進捗度合いがどの程度であるかを感じ取ります。その結果、一次選考に進んだとか、面接でうまくいったとか、進捗度合いが着実に進んでいると知覚した場合、翌日の気分は高揚し、就職活動に対する自信も高まります。一方、入社試験に落ちたとか、面接で失敗したなど、進捗度合いがおもわしくないと知覚した場合、翌日の気分は落ち込み、自信も喪失します。うまくいった日もあればうまくいかなかった日もあるというように進捗度合いの知覚は日々変わってくるので、就職活動中は、気分のアップダウン、自信のアップダウンが繰り返されることになります。つまり、ジェットコースターのようなプロセスを描くわけです。


ただ、就職活動の成功は運ではなく、内定をもらうためにどれくらい努力をするか、努力を持続させるかにも影響を受けます。例えば、多くの説明会に足を運ぶとか、たくさんの会社に応募するとか、面接の練習を繰り返したり実地の経験を積んで上達するとか、就職活動に積極的にかつ頻繁に取り組むほど、成功に近づいていくと考えられます。逆に、就職活動に対するモチベーションがダウンすれば、就職活動のペースも鈍るため、その結果、上達もせず、成功から遠ざかるでしょう。では、先に述べた就職活動における気分や自信のアップダウンと、それに伴う努力の度合いはどのように関わってくるのでしょうか。


社会的認知理論によると、人々は気分が高揚したり自己効力感(自信)が高まるとよりモチベーションが高まり、努力量も増えると考えます。これによるならば、就職活動の進捗度合いが望ましいと知覚するときによりやる気が高まり、就職活動に向けるエネルギーも高まると思われます。一方、進捗度合いが望ましくないと知覚するさいには、やる気が減退し、就職活動への努力も減退すると考えられます。しかし、コントロール理論によると逆の予想が成り立ちます。つまり、進捗度合いが望ましいと知覚したときには、目標に順調に進んでいるので「一休みしよう」という気持ちになり、努力は一時的に低下します。一方、進捗度合いが望ましくないと知覚したときには、「このままでは目標に到達できない」という気持ちになり、より努力しようとすると考えるわけです。


社会的認知理論とコントロール理論で正反対の予測がされるのですが、このコンフリクトはどう解決されるのでしょうか。Wangergらは、この理論的なコンフリクトを解決する鍵として、「自己規律能力の個人差」を持ち出しました。自己規律能力の個人差については「活動志向型(action-oriented)」と「状況志向型(state-oriented」に分かれ、活動志向型の人の場合、望ましくない結果や思考から距離を置いて考えることができるため、目標に到達するために思考や感情や行動を自律的にコントロールする自己規律プロセスに集中することができます。一方、状況志向型の人の場合、ネガティブな結果や思考に取り乱されやすいため、目標に到達するための自己規律プロセスを維持しにくい性質を持っています。


このことから、Wanbergは、自己規律能力の低い状況志向型の人については、社会的認知理論が示すように、就職活動の進捗状況が望ましいと知覚する場合に、気分が高揚し自信も高まるため、よりたくさんの努力を翌日にするようになると予測し、自己規律能力の高い活動志向型の人については、コントロール理論が示すように、就職活動の進捗状況が望ましくないと知覚する場合に、目標への到達度を高めるためによりたくさんの努力を翌日にするようになると予測しました。そして、冒頭に述べたような求職中の人々に毎日実施したアンケート調査によって、この仮説を支持する結果を得ました。


Wanbergらの研究から、自分を律することができる人、自分をコントロールすることができる人については、ネガティブな気分にさせるほど「なにくそ」「がんばらなくては」という気持ちにさせ、努力量を増やすことにつながると考えられ、逆に、自分を律することが苦手な人については、小さな成功を与えたりポジティブな気分にさせることが、「いいぞいいぞ」「よし、頑張ろう!」というように努力量を増やすことにつながると考えられます。

文献

Wanberg,C. R., Zhu, J. & van Hooft, E.A.J. 2010. The job-search grind: Perceived progress, self-reactions, and self-regulation of search effort. Academy of Management Journal, 53: 788-807.