フェア・マネジメントの指針にも影響する従業員のフェアネス監視行動

企業が従業員に対する公正(フェア)な処遇を実現しようとするフェア・マネジメントにおいて大切なのは、従業員の態度や行動に影響を及ぼすのは、客観的にフェアかどうかではなく、本人がそれをフェアだと知覚しているかどうかということです。そもそも、誰から見ても客観的な意味で公正・公平であることは不可能に近く、それゆえ、いかにして従業員の公正知覚を高めるか(よく使う言葉でいえば、納得感を高めるか)が、フェア・マネジメントでは重要になるということです。


一口にフェアネス・公正といってもいくつかの次元があり、代表的なものとしては、結果や分配の公正さを問題とする「分配的公正」、結果に導くプロセスや手続きの公正さを問題にする「手続き的公正」、そして、対人関係や情報開示などの相互作用上の公正さを問題とする「相互作用的公正」があります。そして、従業員が、組織からフェアに扱われているかどうかを判断するさい、どれか特定の次元を特に重視して公正かどうかの情報を集める傾向があると考えられます。Long, Bendersky & Morrill (2011)は、従業員が公正さを判断するために特定の情報を集め、それを利用するプロセスを「フェアネス監視行動(fairness monitoring)」と命名しました。


Longらは、従業員のフェアネス監視行動は、企業によるマネジメント方針の影響を受けると考えました。Longらがタイプわけしたマネジメント方針は、(1)市場原理型、(2)官僚組織型、(3)部族型です。市場原理型のマネジメントは、職務成果や結果を重視し、成果に基づく競争原理をマネジメントに適用する方針です。官僚組織型は、組織内の規則やルールを明確にすることにより、それに着実に従業員が従うことが組織成果につながるよう設計されたマネジメント方針です。部族型は、企業のミッションや価値観を徹底することにより、従業員行動の規律をマネジメントしようとする方針です。Longらは、この3つの異なるマネジメント方針は、従業員による異なるフェアネス監視行動につながると論じました。


まず、企業が市場原理型のマネジメント方針をとる場合、成果や結果が従業員の処遇に大きな影響を及ぼします。したがって、従業員は、分配的公正をより気にすることになり、分配的公正次元のフェアネス監視行動をより強めると考えられます。次に、企業が官僚組織型のマネジメント方針をとる場合、規則やルールに従うことが従業員の処遇に大きな影響を及ぼすので、従業員は、手続き的公正をより気にすることになり、手続き的公正次元のフェアネス監視行動をより強めると考えられます。さらに、企業が部族型のマネジメント方針をとる場合、企業のミッションや価値観を共有し、それにしたがっているかが従業員の処遇に強い影響を及ぼすので、従業員は、組織が自分自身を価値観を共有する同志だと見ているどうかをより気にします。よって、相互作用公正次元のフェアネス監視行動をより強めると考えられます。


Longらは、シナリオスタディサーベイ調査の2つの研究を通じて、上記の予測が成り立つことを実証的にも確認しました。このことから、企業は自社のマネジメント方針がどのような基準に基づいているかによって、フェア・マネジメントで特に気をつけるべきポイントを判断することの重要性が示唆されます。

文献

Long, C. P, Bendersky, C,& Morrill, C. (2011). Fairness monitoring: Linking managerial controls and fairness judgments in organizations. Academy of Management Journal, 54, 1045-1068.