「オペレーションのグローバル化」から「マネジメントのグローバル化」へ

「グローバル人材」や「人事のグローバル化」といった、グローバル経営に関するトピックが2010年ごろから頻繁に叫ばれるようになりました。しかし、日本はもともと加工貿易国であり、海外市場なしには存在しえない企業も多かったはずです。さらに、円高の進行とともに国内製造拠点を海外に移転するなどの「グローバル化」も以前から行われてきたことです。では、なぜここ数年になって経営のグローバル化が頻繁に叫ばれるようになったのでしょうか。これまで求められてきたグローバル化と、これから求められるグローバル化とは何が異なるのでしょうか。


松田(2013)は、この問いに関して以下のような答えを提示します。松田によれば、日本企業によって従来行われてきたのは、製造拠点の海外移転や海外での販売網構築といった、ビジネスにおける「オペレーションのグローバル化」です。それに対して、これから必要なのは、日本企業がその経営能力を世界に通用するようにしなければならないという「マネジメントのグローバル化」です。海外に進出するのではなく、海外に密着して経営の意思決定を行う、そこで働く人々の多様な背景を十分に理解して人材を生かす、世界どこでも通用するような共通言語を用いる、事業戦略策定や経営管理、企業理念や企業統治の仕組みといった会社の根幹に関わる部分を、誰にでも説明可能な形に置き換えていくというようなことを意味します。


松田によれば、従来の日本企業が強かった理由は「やりたいこと(事業・オペレーション)」に専念できたからです。しかし、本来の経営(マネジメント)は、やりたいことを行うにあたって「先立つもの(財務)」をどう工面し、「取り組む人(組織や人材)」にどう頑張ってもらうかというところにあります。戦後、日本に植え付けられた「安定化装置」が作動していた状況では、「先立つもの」の面倒はすべて銀行に任せ、「取り組む人」は終身雇用・年功序列・協調的組合という日本的経営システムの採用すればよく、企業として苦心する必要がなかったわけです。しかし、現在おかれている状況というのは、経済社会のグローバル化の中でこの「安定化装置」が機能しなくなり、本来の不安定さに取り巻かれた「事業」「財務」「組織」という3つの要素のバランスを取りながら、企業自らが舵取りをしなくては経営が成り立たない状況になったということです。


では「マネジメントのグローバル化」を実現させるためのポイントは何なのでしょうか。松田は、グローバルなグループ経営を成功させるためのキーポイントとして以下の点を挙げます。まず、理念も数字も「ゴール」を決めて共有することです。言い換えれば、「企業の存在意義としての目指すべき理念を共有する」ことです。とりわけ、人材がグローバルに多様化していく中では、以心伝心ではすまない相手に対して、なるべく共通言語を使って理解を求めることが重要だといいます。


次に、本社が果たすべき3つの機能として「見極める力(=本社の投資家的機能)」「連ねる力(=本社の連携強化機能)」「束ねる力(=本社のグループ代表機能)」を強化することです。「見極める力」については、将来像をどう描くかに関連しています。自社の経営理念に沿うことを前提に事業の将来像を考え「将来にわたって生み出すキャッシュフロー」をどのように増やしていくかに注力することです。「連ねる力」については、事業間・部門間の連携やシナジーを検討するとともに「どのような組織的な仕掛けをもって行うか」を考え、実行することが重要です。また、本社によるインキュベーションを通じて、新しい芽を生み、育て続けることも重要になります。「束ねる力」については、外部に向けてグループを代表する機能と、内部に向けてグループをひとつにしていく機能とに分かれます。


「束ねる力」のうち、内部に向けてグループをひとつにしていく機能については、競争優位の源泉としての多様性(ダイバーシティ)を重視することと、ダイバーシティ・マネジメントを実践するための「リーダーシップ」と「コミュニケーション」が重要になってくると松田は指摘します。個の違いを尊重しつつ、多様な人材を規律づける「拠って立つ不変の共通軸」としての経営理念(ミッション・バリュー・ビジョン)が重要だといいます。そして、こういった「軸」は、経営者が「嫌になるほど繰り返す」必要があるのだと松田は主張します。