サーバントリーダーシップは職場内に伝染する!

リーダーシップ類型の1つに、サーバントリーダーシップというものがあります。奉仕型リーダーシップとも呼ばれ、部下を支配するのではなく、部下に奉仕し、部下のニーズを満足させ、部下のポテンシャルを最大限に発揮させようとする精神を重視したリーダーシップスタイルです。奉仕者であるサーバントリーダーは謙虚・謙遜の人物であるがゆえに、部下からも尊敬され、彼らと強い信頼関係で結ばれます。ゆえに、部下達は安心して組織目標の実現のために精力を注ぐことができると考えられています。


サーバントリーダーシップが他のリーダーシップと異なる特徴の1つに「伝染力」があります。サーバントリーダーシップの「奉仕の精神」は、職場内に伝染し、職場全体に「奉仕の文化」を根付かせます。つまり、サーバントリーダーの下では、奉仕精神が伝染し、職場全体がお互いに奉仕しあい、助け合うカルチャーが醸成されるのです。別の言い方をすれば、職場内でサーバントリーダーシップを実践するメンバーが次々と登場することになるわけです。そしてそれは当然、顧客に対する奉仕の精神につながり、それがひいては、顧客満足や業績向上につながるというわけです。今回は、このようなサーバントリーダーシップが伝染するプロセスに焦点を当てたLiden, Wayne, Liao & Meusea(2014)の研究を紹介します。


Lidenらは、サーバントリーダーシップが職場内に伝染する理由を、次のように論理的に説明します。まず、自分のニーズや利益よりも部下のニーズを利益を優先するサーバントリーダーは、部下から尊敬されます。部下にとって、サーバントリーダーは尊敬する上司、理想の上司、憧れの上司となるでしょう。そうなれば、おのずと、部下はサーバントリーダーである上司のようになりたいと思い、上司の行動を観察し、上司の行動を真似るようになります。これは「行動モデリング」というプロセスです。そうすることで、部下達も、サーバントリーダーが持っている奉仕の精神を学び、身に着けることになります。それはすなわち、部下達も職場の同僚などの周りの人々に対してサーバントリーダーのように行動するようになるということです。


サーバントリーダーシップが伝染し、職場のメンバーが同僚に対してもサーバントリーダーのように振舞うようになれば、そのような奉仕の精神が職場のカルチャーとして根付くことにつながります。職場全体が奉仕型文化を有するようになれば、それはますますメンバーの行動を奉仕型に強化します。つまり、職場でメンバーが自然なかたちで周りに対してサーバントリーダーシップを発揮するようになります。そうなると、そのような職場にメンバーが愛着を持つようになります。すなわち、メンバーの職場への同一化(アイデンティフィケーション)が高まり、職場全体の一体感も高まります。そして、メンバー1人ひとりが、あるいは職場全体として、顧客に対してもサーバーンとリーダーシップすなわち奉仕精神に満ち溢れた行動を発揮するようになります。つまり、職場のメンバーが、顧客の立場になり、顧客のニーズを最優先して行動できるようになります。それが、顧客満足や職場の業績を高めるのです。


Lidenらは、上記のようなプロセスの妥当性を検証するため、アメリカの6つの州で事業展開しているレストランチェーンの76店舗のマネジャーおよび従業員に対するサーベイを実施しました。サンプル数は1000人以上にのぼり、レストランの業績データも本部から収集するなど、念入りかつ厳密な仮説検証を行いました。その結果、彼らの仮説はほとんどが支持されました。Lidenらの研究は、なぜサーバントリーダーシップが、職場における部下たちの行動によい影響を与え、職場全体の業績向上に貢献するのかについて「サーバントリーダーシップが伝染し、職場内に文化として根付いていく」プロセスを用いて説明し、実証することで、サーバントリーダーシップの理解を深めるのに貢献した研究だといえましょう。

参考文献

Liden, R., Wayne, S., Liao, C., & Meuser, J. (2013). Servant leadership and serving culture: Influence on individual and unit performance. Academy of Management Journal, 57, 1434-1452.