グーグルに学ぶ「スマート・クリエイティブ組織」のマネジメント

経験豊富な経営幹部として新たにグーグルの経営に参加したシュミットとローゼンバーグ(2014)は、グーグルに入社して「私たちが20世紀に学んだことのほとんどは間違っており、それを根本から見直す時期が来ている」と実感し、「グーグルで成功するには、ビジネスとマネジメントの方法をすべて学び直さなければならない」と悟ったといいます。では、グーグルで必要な組織のマネジメントとはいったい何だったのでしょうか。その鍵を握るのが、グーグルに存在する人材、グーグルが求めている人材です。これを、シュミットとローゼンバーグは「スマート・クリエイティブ」と呼びます。スマート・クリエイティブを有する組織のマネジメントは、20世紀のマネジメントとは全く異なることを示唆します。


シュミットとローゼンバーグのいう「スマート・クリエイティブ」とは、コンピューター科学者、医師、デザイナー、科学者、映画監督、エンジニア、シェフ、数学者などの中に存在する人材で、自分の「商売道具」を使いこなすための高度な専門知識を持っており、経験値も高い人材で、そして、実行力に優れ、単にコンセプトを考えるだけでなく、プロトタイプも作ります。分析力に優れ、ビジネス感覚にも優れています。競争心も旺盛で、猛烈な努力をいとわない性格をしています。プロダクトを誰よりもユーザー目線、消費者の視点から見ることができ、好奇心旺盛で常に疑問を持ち、斬新なアイデアがほとばしります。リスクをいとわず、自発的で、あらゆる可能性にオープンです。さらに、細かい点まで注意が行き届き、コミュニケーションも得意です。スマート・クリエイティブのマネジメントは難しく、従来型の経営モデルは通用しません。よって、シュミットとローゼンバーグは、彼らがモノを考える「環境」をマネジメントするしかない。それも毎日喜んで出社したくなるような環境を作るべきだといいます。


スマート・クリエイティブ組織のマネジメントの要諦は、最高のスマート・クリエイティブを惹き付け、これらの人材の知性と知性を混ぜ合わせることでクリエイティビティと成功を生み出すよう「イノベーションの原始スープ」に満たされた環境を作ることだといいます。ここでは、組織文化と組織構造のあり方に絞ってシュミットとローゼンバーグの説を紹介しましょう。まずは、どんな企業文化を作りたいかを考え、スローガンのように明確にしておくことです。「ぼくらにとって大切なことは何か」「信念は何か」「どんな存在になりたいか」「会社の行動や意思決定の方法はどうあるべきか」などの問いが企業文化につながります。


また、グーグルでは「お互いが手を伸ばせば相手の肩に触れられるような環境」に社員を「押し込める」ことによって、スマート・クリエイティブがお互いとの交流の中で、狭い職場内に熱気あるエネルギーを発生させ、彼らの真価を発揮させるようにしています。そして、どれだけオフィスが窮屈で散らかっていても、従業員の業務遂行に必要なものはすべて揃えるために惜しみないオフィス投資を行います。例えば、たくさんの娯楽施設や無料の食事などです。グーグルでは、在宅勤務のような形態は一見先進的に見えても、職場から生気が失われるリスクがあるといいます。社員に職場で働いてもらいたい、偶然の出会いを含め、刺激に満ちた環境でクリエイティビティを発揮してもらいたい。つまり、相互交流を促進するようなオフィスデザインにしているということです。


組織構造は、フラットに保つべきだとシュミットとローゼンバーグはいいます。スマート・クリエイティブは、仕事をやり遂げたい。それには、階層構造ではない組織で、意思決定者と直接折衝する必要があるからです。グーグルでは「管理者は最低7人の部下を持つ(通常はそれ以上)」という7つのルールで、組織のフラット化を保っていたといいます。また、「独立採算にしない」ことも重要だといいます。独立採算にすれば、事業部が自分の利益のために動くようになるからです。さらに、「組織の構成単位を小さなチームにする」ことです。小さなチームは大きなチームより多くの仕事を成し遂げることができるからです。そして「一番影響力の大きな人」たちを見極め、彼らを中心に会社をつくるようにします。仕事ぶりや情熱をもとに、会社を動かすのは誰かを見極めるわけです。


シュミットとローゼンバーグは、上記のほかにも、グーグルでいかにしてスマート・クリエイティブ組織をマネジメントしているのかについてのさまざまなポイントを紹介しています。