異なる制度ロジックの並存は組織に何をもたらすのか

組織は社会の掟とか不文律のような見えない力によって動かされます。例えば、日本の大企業がある時期に一斉にホールディングスを設立したり、年功的な賃金を排して成果主義的なものに置き換えたりした動きは、組織が何らかの社会的な圧力に従った結果だと解釈することが可能です。一般的にこういった社会の掟を「制度」といいますが、具体的な制度の深層もしくは背後にあるものとして「制度ロジック」というものがあります。ThornsonとOcasio (1999)によれば、制度ロジックは「社会的に構成され、歴史的にパターン化された活動、前提、価値観、信念」であり、「認知や行動に影響を与えるもの」「日々の活動の組織化の原理を形成するもの」と定義されます。制度ロジックが、具体的な制度という形で具現化されるといっても良いでしょう。


制度ロジックの具体例として、社会レベルではメインの制度ロジックとして家族ロジック、共同体ロジック、宗教ロジック、国家ロジック、市場ロジック、専門家ロジック、企業ロジックがあります。組織や人々は、このような社会レベルの制度ロジックの中に埋め込まれており、それらが今度は組織内の制度ロジックや集団内の制度ロジックの形成に影響を与えていると考えられます。しかし、BesharovとSmith (2014)は、組織の周りや内部には単純に1つの分かりやすい制度ロジックがあるわけではなく、複数の異なる制度ロジックが混在していることを指摘します。また、お互いに相容れないような異なる制度ロジックが並存することで様々な問題をもたらすことが先行研究でも指摘されてきたといいます。これに関して、BesharovとSmithは、異なる制度ロジックの並存にはいくつかのパターンがあり、そのパターンによって組織が影響を受ける内容や度合が異なってくることを理論化しました。


BesharovとSmithが異なる制度ロジックの並存パターンの分類に用いた次元は、互換性(compatibility)と中心性(centrality)です。互換性とは異なる制度ロジックがお互いに相容れるものかどうかという度合です。互換性が低いということは、複数の異なる制度ロジックが対立していたり矛盾していたりすることを意味します。中心性とは、複数の制度ロジックがどれも組織の機能にとって中心的なものを代表している度合いを指します。中心性が低い状態とは、1つの制度ロジックが組織機能にとってコアな要素を示しており、もう1つの制度ロジックは、そうではなく周辺的な存在であることを意味します。


BesharovとSmithによれば、複数の制度ロジックの互換性と中心性の高低によって、複数の制度ロジックの併存パターンが4つに分類されます。まず、互換性が低く、中心性が高い状態が「争い型(contested)」です。お互いに相容れない制度ロジックが、組織の使命、戦略、目標など重要な組織機能に影響を与えるロジックとして併存しているわけですから、組織のコアに関して曖昧性が高まり、また激しい対立や葛藤が発生しがちな状態だと言えます。例えば、BeharovとSmithは、別の研究の事例で挙げられたマイクロファイナンス会社には、収益を追求する「銀行ロジック」と、経済開発を志向する「開発ロジック」が並存していますが、両方とも組織にとって重要なロジックでありながらお互いに相容れないため、それぞれの制度ロジックを代表する銀行出身の社員とソーシャルワーカー出身の社員とで葛藤が起こりやすいことを指摘します。


互換性も中心性も両方とも低いパターンは「疎遠型(estranged)」です。並存する複数のロジックはお互いに相容れないものなのですが、1つの制度ロジックが組織機能にとって重要なものとして存在し、他の制度ロジックは周辺的なものと考えられているため、争い型の組織ほど曖昧性が高いわけではなく、また争い型の組織ほど激しい対立や葛藤が生じるわけではありませんが、ある程度の対立や葛藤があります。BesharovとSmithは、例として、美術館や博物館を経営する文化組織を挙げています。この組織では、文化資産を守り、文化を保持しようとする「文化保存ロジック」と、資本主義社会のもとで美術館などの経営をうまく行うための「市場ロジック」とが並存していますが、文化保存ロジックの支持者が支配的であって、市場ロジックの支持者の勢力は強くないことを指摘しています。ですが、市場からの圧力にさらされながら経営を行う必要のある組織上層部と、文化保持に重点を置く現場層との間に対立や葛藤が生じることも指摘しています。


互換性も中心性も高いパターンは「連携型(aligned)」です。これは、異なる制度ロジックが並存していても、お互いに相容れるものであってかつ組織機能にとって重要な要素に関わっているため、組織のコアが一致団結しており、異なる制度ロジックが異なる組織のメンバーによって体現され、それらがお互いに一貫性を保ちながら組織の使命、戦略、同一性、コアの構造や活動の形成につながります。したがって、異なる制度ロジックが並存しているからといって、対立や葛藤が起こるわけではなく、それらはほとんどないと言ってよいでしょう。BesharovとSmithは、チャイルドケアを行う組織の例を挙げています。チャイルドケアの法規制に基づく力を持った政府職員が組織運営に対して影響力を持つ一方で、現場の専門職員が現場における幼児教育の実践に影響力を持つというような形で異なる制度ロジックが並存していますが、それらは互換性を持って共存しているといえます。


互換性が高く、中心制が低いパターンは「支配型(dominant)」です。異なる制度ロジックが並存しており、それらは相互に相容れるものですが、その中で1つが組織の重要な機能にとっての支配的な制度ロジックとして存在しています。このパターンについても、互換性が高いため、組織内での対立や葛藤は少ないといえます。BesharovとSmithが例示しているのは、現代建築の業界では、複数の制度ロジックが混在していますが、特定のタイプの会社においては、特定の支配的な制度ロジックが存在するようになっています。例えば、復興主義的建築家に率いられる会社では、専門家ロジックとしての伝統的な美学を追究しつつ、伝統的な価値観を有するクライアントにサービスを提供していく一方で、現代機能主義的建築家に率いられる会社では、商業ロジックの影響を受けた建築方針で、商業的なクライアントに対してサービスを提供していくようになっています。


これらのように、BesharovとSmithは、私たちの社会や組織において異なる制度ロジックが混在し並存しているからといって、それらが必ずしも組織内外での対立や葛藤を生み出す要因になるわけではなく、場合によってはシナジー効果が発揮されたり、対立や葛藤があまり起こらないケースがあることを論じます。そしてその理由は、彼らの理論モデルが示すように、異なる制度ロジックの並存パターンが異なれば、それらが組織に与える影響も異なるからなのです。

参考文献

Besharov, M. L., & Smith, W. K. (2014). Multiple institutional logics in organizations: Explaining their varied nature and implications. Academy of Management Review, 39(3), 364-381.
Thornton, P. H., & Ocasio, W. (1999). Institutional logics and the historical contingency of power in organizations: Executive succession in the higher education publishing industry, 1958–1990 1. American Journal of Sociology, 105(3), 801-843.