ピーター・センゲに学ぶ「システム思考」入門(準備編)

今回は、下にリンクがある「ピーター・センゲに学ぶ「システム思考」入門」の準備編的な役割として、小田(2017)によるピーター・センゲの「学習する組織」を分かりやすく解説したシステム思考のポイントを紹介します。小田によれば、システム思考とは、現実の複雑性を理解するために、ものごとのつながりや全体像を見て、その本質について考えるディシプリン(方法)です。このシステム思考の重要な原則が「構造がパターンに影響を与える」というもので、構造を理解しないで施策を行うならば、しばしば「システムの抵抗」と呼ばれる構造の罠に阻まれ、良かれと思う行動の効果が打ち消されてしまう一方、システムの構造を理解することによって、小さな力でも大きく動かせる「レバレッジ・ポイント」を見出すことができるといいます。これは組織変革を実行し、組織進化を促す際にとても重要なポイントだといえます。

 

小田は、システム思考の基本的な実践は、現実に起こっていることを俯瞰して大局の流れを捉え、フィードバック・ループがどのように絡み合っているかの全体像をループ図として「見える化」することだといいます。つまり、組織の変革や組織進化の促進は、組織をシステムとして捉えた場合に、そのシステムの本質についての理解をもとに働きかけを行うことで、本質的な問題解決や未来創造を目指すことだというわけです。ここでいうシステムとは、2つ以上の要素が相互作用し、目的または機能を有する集合体です。ビジネスの文脈では、個人、チーム、部署、会社、サプライチェーン、業界、市場など、社会の文脈では、家庭、近所、町会、自治体、国、国際社会などがシステムであり、小さなシステムの集合体が大きなシステムを構築するといったような階層をなしていることがしばしばあるといいます。

 

システム思考で重要なのは、複雑なシステムにおいて、個々の要素の質よりも、つながりの質こそが、システムのパフォーマンスに大きな影響を与えるという点です。システム思考では、ものごとのつながり、関係性に着目しそれらのつながりが時間の経過を経てどのような変化のダイナミクスを生み出すかを理解しようとすると小田は指摘します。「自己強化型ループ」「バランス型ループ」「時間的な遅れ」という3つのフィードバック構造が、システムのダイナミックスを形成する基本構成単位だと小田はいいます。つまり、この3つの単位の組み合わせでシステムは理解可能です。この3つの基本構成単位を理解することで、大局の流れを読みながら、そこに変化のパターンを見出すことが可能になってくるといいます。

 

システム思考の実践においては、まず、大局の流れを見る時系列変化パターンをグラフ化することが有効だと小田はいいます。自分達のとっている行動、成果、結果やその影響について、少し期間が長めのグラフを描いてみることです。過去から現在に至る「今までのパターン」現在から未来に向かう「このままのパターン」と「望ましいパターン」を描き入れるだけで良いと小田はいいます。次に、とりわけなぜ今までのパターンとこのままのパターンが起こっているのかを理解するために、流れを作る構造を見える化します。この理解が浅いと、システムの抵抗に直面することになるといいます。構造がパターンに影響することが理解できたら、最後に、構造への働きかけを探求します。システムの構造を変える具体的な方法としては、組織やチーム内で内省や対話を行い、その後に、システム全体を効果的に動かせるレバレッジ・ポイントを探ることが重要だといいます。

 

レバレッジ・ポイントを探る際には、物理的な構造(ストック、フロー、バッファー、リードタイムなど)、フィードバック構造(自己強化型ループやバランス型ループの相対的な強さ)、情報の流れの構造(誰が、いつ、どの情報にアクセスできるかなど)、制度上の構造(目標、ルール、インセンティブ、罰則など)、メンタル・モデル(世の中の見取り図)といった5つの観点から考えるのが良いと小田はアドバイスします。企業などで取り組む際には、加えて実施戦略と行動計画、資源配賦などを行い、その効果をモニターしながらさらなる学習や普及のための仕組みを築くことを推奨しています。その際、PDCAなどのシングル・ループ学習だけでなく、常に自分たちの持つ前提を疑うダブル・ループ学習のもと、複雑な構造から織りなされるダイナミクスの変化に適応するマネジメントが必要になると小田はいうのです。

参考文献

小田理一郎 2017「学習する組織」入門――自分・チーム・会社が変わる 持続的成長の技術と実践」英治出版

ピーター・M・センゲ 2011「学習する組織――システム思考で未来を創造する」英治出版

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