キャリアを成功に導く「カメレオン戦略」

変化の激しい時代において、私たちも自分のキャリアを成功に導くためには、常に成長し続けなければなりません。例えば、多くの人は、リーダーシップがあまり必要のない仕事から、キャリアの年数を経るごとに、より大きなリーダーシップが求められる仕事をしていかなければならないでしょう。ある業界から全く別の業界へ、ある職種からまったく別の職種へとキャリアチェンジをすることもそんなに珍しいことではなくなっていくでしょう。したがって、別の言い方をすれば、キャリアにおいて成功するためには、過去の自分から現在の自分、そして将来の自分へと、私たち自身が変わっていかなければならないのです。そこで今回は、リーダーシップ教育の人気教授であるIbarra (2015)も主張する、キャリアを成功に導く「カメレオン戦略」を紹介します。


カメレオン戦略を一言でいえば、「様々な状況においてもっともふさわしい自分を演出する」ということです。カメレオンが環境に応じて変幻自在に自分の姿を変えるように、私たちも、状況に応じて自分自身の姿を変えるようにするわけです。別の例えを使えば、TPOに応じて着る服を変えるようなものことです。着こなしが上手な人は、派手な服でも控えめな服でもいろいろと試しながら自分のものにしていくことで、どんな状況であっても魅力的な自分を演出することができるのです。つまり、自分が置かれた状況において、他の人は自分がどのように考え、振る舞い、行動することが望ましいと考えているのか、どのような人に魅力を感じ、頼もしいと思うのかなどを察知し、そのような自分になりきるということなのです。Ibarraは、カメレオン戦略をとる人のほうが、そうでない人よりもキャリアで早く成功していくことを示唆しています。


キャリアのカメレオン戦略に対する反論として考えられるのが、それでは八方美人にすぎないのではないか、偽りの自分や仮面の自分を見せることは望ましくないのではないかというものです。確かに、近年では「自分に正直になること」「自分自身をさらけだすこと」「自分らしくあること」を重視する傾向があります。その代表的な理論が「オーセンティック・リーダーシップ理論」です。しかし、それに対してIbarraは、そのような発想は、逆に自分の殻に閉じこもってしまい、変われないあるいは変わろうとしない、成長できないあるいは成長しようとしない自分への言い訳を作ってしまうことになりかねないと警鐘を鳴らします。


そもそも、自分らしくあるとか自分に正直になるとかいう自分とは何でしょうか。私たちは、自分自身のことをそれほどよく分かっていないかもしれませんし、自分自身は将来変わっていくことも可能であるということも認識しなければなりません。また、自分自身の素の姿を出すことが必ずしも成功しないケースがたくさんあります。例えば、リーダーにはタフな面と優しい面の両方が求められます。自分はタフではないからといってメンバーに優しいだけでは優秀なリーダーにはなれないでしょう。仮に自分自身がどんな人間なのかについて熟知しているとしたとしても、それは決して固定化されたものではなく、変わりうるもの、進化しうるものであることを認識することが重要です。


カメレオン戦略は決して、自分自身について「嘘を嘘で塗り固める」ような行為を指しているわけではありません。これまでの自分自身は過去の産物です。これまで成功してきたスキルや能力を持った自分です。しかし、これまで成功してきたスキルや能力が、将来の成功につながるとは限りません。いや、新たなキャリアのステージに進むためには、過去の成功にすがりつくことなく、新たスキルや能力を積極的に獲得することが必要でしょう。カメレオン戦略は、多くの人たちから学び、様々な違う自分を試し、自分に合ったものを見つけていくプロセスにおいて、新しい自分に気づく、新しい自分に生まれ変わる、新たなステージの自分へと進化する・成長する、一皮むける、といったことを志向するキャリア戦略なのです。


カメレオン戦略を効果的に身に着けてキャリアで成功するための具体的な方法として、Ibarraは次の3つの行動を推奨します。1つ目は、多様なロールモデルを見つけ、その人の良いところ、優れた行動を実験的に真似て試してみることです。これは、様々なタイプのファッションセンスのある人を見習って、派手な衣装から無難な衣装など、自分も様々なファッションを試してみるようなものです。そのような実験を繰り返すことで、特定の状況下で、自分に似合った、今までとは違う自分を演出できるようになっていきます。2つ目は、成長のための学習ゴールを設定することです。成果を出すことも大切ですが、どのようなスキルや能力を身に着けるのか目標を立て、先ほどいった多様なロールモデルを見習いながらそれらのスキルを身に着けていくことです。そして3つ目が、過去の自分の物語りにこだわりすぎず、将来どのように自分が進化しうるのか、将来の自分の「可能性」に焦点を当てることです。カメレオン戦略を用いて自分自身を「バージョンアップ」していくことがキャリアの成功をもたらすことでしょう。