社会人はどのようにしてソーシャル・ネットワーキング・サービスと付き合っているのか

フェイスブックツイッターなど、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を利用することが当たり前の時代になってきました。SNSは、知人や友人との付き合いかたも変えつつあります。例えば、SNSが普及する以前では、基本的に人付き合いは1対1の関係でした。しかし、SNSが普及すると、SNSでつながりコミュニケーションを行う人々の数も格段に増え、多くの人々に対して一斉にメッセージを投稿したり情報開示を行ったりすることが一般的になりました。そしてSNSを使いこなすことでいろいろなメリットが得られるようになりました。このような時代の趨勢の中、友人関係が生活の中心を占める学生とは異なり、友人関係のみならず仕事上の付き合いもある社会人にとっては、どのようにSNSと付き合っていくのかについて頭を悩ませることもあるでしょう。なぜならば、仕事上いろいろなタイプの人と付き合ったりつながったりする必要がある社会人の多くは、友人同士で行うようなくだけた交流のみをSNS上で行うわけにもいかず、仕事とプライベートとで異なる自分を使い分けたり、仕事とプライベートでの人との付き合い方を変えたり必要があることが多いためです。


Ollier-Malaterre, Rothbard, & Berg (2013)は、社会人によるSNSとの付き合い方には、その人の特徴に応じた複数のタイプがあることを理論化し、それぞれのタイプごとにSNSの利用が仕事上でどのような結果をもたらすのかについてのフレームワークを構築しました。鍵となるのが、SNSのようなオンラインにおける仕事とプライベートの境界をどのように設定するかというSNS行動すなわち「オンライン境界マネジメント」です。Ollier-Malaterreらは、社会人が、仕事とプライベートとの境界を明確に設けることを好むか否かと、SNSにおいて、ありのままの自分をさらけだす傾向があるか、あるいは望ましい自分の姿を演出する傾向があるかの2軸を用いて、SNSの付き合い方の4つのタイプを導き出しました。そして、それぞれのタイプごとに、SNSの使用がその人の仕事上の評判や好感度にどう影響するかについて予想しています。


まず、仕事とプライベートの境界を設けず、自分自身をさらけ出すタイプの人は、「オープン型」のSNS行動をとります。これは、SNSにおいて仕事上の知人とプライベートの友人と分け隔てなくつながり、すべての人々に対して同じようにメッセージを投稿したり情報公開をしたりします。しかも、SNSにおいては、良い面も悪い面も含めて、ありとあらゆる投稿や情報開示を行い、ありのままの自分をさらけ出そうとします。Ollier-Malaterreらは、このようなオープン型のSNS行動は、仕事面において、平均的には評判を落としたり好感度を下げることにつながりやすいことを指摘します。なぜならば、オープン型の人は、プライベートでの活動や写真などで多少ふざけた投稿を行うなど、仕事上求められる行動規範から逸脱したような投稿をつながっている全員に対して一斉に行ったり、場合によっては友人関係のみならば許されるようなネガティブな投稿をつながり全員に向けて行ったりすることで、仕事上の付き合いしかない人から見ると違和感を感じるようなことが生じやすいからです。


次に、仕事とプライベートの境界を設け、自分自身をさらけ出すタイプの人は、「投稿対象選別型」のSNS行動をとります。これは、例えば、仕事上の付き合いの人はリンクトイン、プライベートの友人はフェイスブックというように仕事上とプライベートのネットワークを異なるSNSサービスで使い分けたり、同じSNSでも仕事上の知人にはプライベートの領域や投稿へのアクセスを制限したりします。そして、プライベート上の友人のつながりのみに、ありのままの自分をさらけ出すような投稿を行います。Ollier-Malaterreらは、このような投稿対象選別型のSNS行動は、仕事面において、評判を落とすことはないが評判を高めることもなく、平均的には好感度を下げることにつながりやすいことを指摘します。なぜならば、投稿対象選別型のタイプであれば、仕事上の付き合いの人に自分をさらけだすようなプライベートな投稿を見せないことから、オープン型の人がするように評判を落とすような投稿がSNSでつながっている仕事上の知人に伝わらないこと。しかし、SNSを通じて本人の評判を挙げるような情報も伝わらないこと、そして、プライベートな領域から仕事上の知人をシャットアウトするような行為が、彼らを阻害したり彼らにたいして冷たい態度だと受け取られたりする可能性があるからです。


さらに、仕事とプライベートの境界を設けないが、望ましい自分自身を演出するタイプの人は「コンテンツ選別型」のSNS行動をとります。これは、オープン型のようにSNSにおいて仕事上の知人とプライベートの友人と分け隔てなくつながり、すべての人々に対して同じようにメッセージを投稿したり情報公開をしたりしますが、投稿する内容を注意深く選別し、自分の評判や好感度を高めるような情報のみを開示しようとします。つまり、仕事およびプライベートのあらゆる知人、友人に対して、自分のイメージをよくするような情報を一斉配信するような行動です。Ollier-Malaterreらは、このようなコンテンツ選別型のSNS行動は、平均的にはその人の仕事上の評判および好感度を上げることを指摘します。なぜならば、基本的に投稿の内容や情報開示が、望ましい自分を演出するものであり、それが社会人からみても仕事上の行動規範にあったものであることが多いからです。


最後に、仕事とプライベートの境界を設け、かつ望ましい自分自身を演出するタイプの人は「ハイブリッド型」のSNS行動をとります。これは、仕事上の付き合いの人とのつながりと、プライベートの友人たちとのつながりを区別したうえで、それぞれのつながりに対して、もっとも自分の評判や好感度を高めるような投稿を注意深く選別して行うような行動です。これは、仕事上のつきあいの知人、プライベートでのつきあいの友人それぞれに対して、自分のイメージをよくするような情報をもっとも効果的に発信するようなSNS行動です。Ollier-Malaterreらは、このようなハイブリッド型のSNS行動も、平均的にはその人の仕事上の評判および好感度を上げることを指摘します。これは、コンテンツ型の行動と同様に、社会人の知人とのつながりに向けて発せられる投稿や情報開示は、社会人からみても仕事上の行動規範にあった、望ましい自分を演出するものであることが多いからです。


上記のように、社会人のSNS行動のうち、「コンテンツ選別型」と「ハイブリッド型」のような「オンライン境界マネジメント」を行う際、望ましい自分を演出するための投稿コンテンツを注意深く選別する必要があるため、それなりのスキルを必要とし、時間と手間もかかります。SNSではたまに不用意な発言や投稿をして炎上したり失笑を買うなどの「失敗」や「事故」が起こります。このような失敗があると一気に評判や好感度を下げることにつながりますので、注意が必要であるのと同時にスキルyや時間と手間も必要とされるわけです。つまり、「オンライン境界マネジメント」のスキルが高い人ほど、SNSで「コンテンツ選別型」もしくは「ハイブリッド型」の行動をとることで、仕事上の評判や好感度を高めることにつながるというわけです。ただし、ハイブリッド型のほうが仕事上のネットワークとプライベートのネットワークを使い分けながら、かつ投稿するコンテンツも使い分ける必要があるため難易度が高いといえましょう。また、Ollier-Malaterreらは、社会人のSNS行動は不変であるわけではなく、人生のライフイベントやライフステージの変化や、知人、友人からのフィードバックなどによって変化する可能性があることも指摘しています。

参考文献

Ollier-Malaterre, A., Rothbard, N. P., & Berg, J. M. (2013). When worlds collide in cyberspace: How boundary work in online social networks impacts professional relationships. Academy of Management Review, 38(4), 645-669.