ニューサイエンスに学ぶ組織論1:量子力学的組織観と場の理論

私たちが組織を理解しようとするとき、例えばピラミッド構造の組織図をイメージするなど、部品からなる機械として捉えがちですし、組織をマネジメントしようとする際にも、組織を要素や機能に分解して問題のある箇所を見つけ、それを解決しようとしがちです。しかしこれは、私たちの世界観が、まだデカルトニュートンが作り出した機械論的なもの、物事を要素に分解することで理解しようとするアプローチに留まっているからだと言えます。しかし、実際の組織はそのような機械的なアプローチでマネジメントが可能であるわけではなく、もっと流動的で有機的な存在だと感じる人も多くいるのではないでしょうか。そして、もっと全体的かつ動的な視点から組織を理解し、組織をマネジメントすべきでないかと考える人も多いでしょう。

 

そして現代科学の世界では、既にデカルトニュートンの機械論的世界観は過去のものと考えられており、量子力学や生物学、複雑系科学などのニューサイエンスによって描かれる新たな世界観が支配的となっています。ウィートリー(2009)は、このような視点から、私たちがニューサイエンスの成果から、組織や組織のマネジメントのために何を学ぶことができるのかについて、生物学、物理学、化学、そして複数の分野にまたがる進化論やカオス理論といった分野で蓄積が進んでいる知識を紹介しながら、解説しています。機械論的な組織観から脱却し、ニューサイエンスに基づく新たな組織観を手に入れることで、これまでとは異なり、かつ強力な組織のマネジメントの方法を理解することができると思われます。

 

今回は、ウィートリーの著作を参考に、量子力学的な世界観がどう組織論の考え方を変えうるかについて考えてみましょう。まず、量子力学では、この世界の物理的な根源をとことんミクロの視点から理解しようとします。そうすると、この世界の究極の根源となる単位としての素粒子は、粒子であると同時に波であるという二重性を有しており、かつ、その素粒子が他の素粒子と独立しては存在(観察)し得ないという明快な観測事実が立ち現れてきます。つまり、根源的な世界では、世界を機械のように考えた場合のひとつひとつの部品としての「モノ」は存在せず、全てが関係性によって立ち現れてくる「コト」として理解するのが適切になりそうです。すなわち、モノからコトへという世界観の転回です。

 

この量子力学的世界観を組織の理解に適用するならば、組織を、仕事や人といった独立した構成要素によって組み立てられた機械のように捉えるのは古典的な世界観に他なりません。ニューサイエンス、量子力学ではこのような考え方は否定されたと考えるべきでしょう。むしろ、組織というものは、さまざまな関係性によって織り成された現象もしくはプロセスとして、すなわち「コト」として捉えるべきだと思われます。そして、一見するとあたかも「モノ」のようなものが立ち現れてくる源泉は、現代物理学で言うところの「場」の働きによるものです。

 

量子力学における場の理論では、物質の物理的な現れである粒子は、場の副次的な効果であって、2つの場が交わってエネルギーとエネルギーが交わる合流点で一瞬現れるものです。つまり、さまざまな場の絶え間ない相互作用の結果として粒子が現れる。場は非物質的であるが物理的存在なのです。場の理論を用いれば、私たちが普段感じているような「デカルトニュートン力学的な」空間、すなわち虚無で空っぽな空間のイメージは覆されます。つまり、空虚な空間に他とは独立した「モノ」としての粒子が存在しているのではなく、見えない力やエネルギーで満たされ、相互浸透する場が空間を満たしており、そこから「コト」としての物理現象が立ち現れてくると考えるべきなのです。

 

上記の場の考え方を組織の理解に応用するならば、組織をタスクや個人の集合体として見るのではなく、エネルギーが流れる「場」として捉えることの重要性が分かってくるでしょう。つまり、タスクや個人が主役ではなく、組織という「場」が主役であり、その場によるエネルギーの相互作用によってさまざまな組織現象が立ち現れ、そこにタスクや人々もテンポラルな形で立ち現れると捉えることになるでしょう。以前から組織はオープンシステムとして外部環境との資源の出入りが頻繁にあると考えられてきましたので、オープンシステムの考えを使えばイメージはしやすいかもしれません。つまり、常にタスクや資源や人々は外部から組織に流入し、組織から流出するといったような流れや継続的変化があるわけですが、それにも関わらず、場としての組織は存在し続けるわけです。

 

ではなぜ、万物変化のプロセスの中で、組織という場が存在し続けるのかというならば、そこにはパーパスやビジョンが浸透し、充満しているからだと考えても良いかもしれません。パーパス経営でも主張されるように、企業の存在価値としてのパーパスやビジョンが、場としての組織にさまざまな関係性に織り成される形で充満するエネルギーの源泉であり、現象として目に見える人々の動き、タスクの遂行、組織のアクションといった「コト」は、そのエネルギーと関係性によってもたらされるものと考えられるでしょう。つまり、組織を、さまざまな関係性を織り込んだ「場」と、そこを流れる「エネルギー」に着目しながら、ダイナミックなプロセスとして理解することが重要であることをニューサイエンスは教えてくれるのです。

参考文献

マーガレット・J・ウィートリー 2009「リーダーシップとニューサイエンス」英治出版