日本的処遇・労使関係の特徴

濱口(2009)によれば、日本的雇用慣行の世界的に見た大きな特徴は、職務と結びついた雇用ではなく、組織へのメンバーシップ雇用でした。たとえば、採用でももっとも重要な「新卒採用」の場合、職務を特定したうえで定員を設定するのではなく、組織内のいかなる仕事もこなす可能性のあるメンバー(総合職)や、組織内のいかなる事務作業・補助業務もこなす可能性のあるメンバー(一般職)というようなかたちで、明確な仕事の定義をすることなく、メンバーとして学卒の新人を受け入れるという形態でした。


そこで、日本の大企業を中心とする賃金・処遇制度の特徴について見てみましょう。濱口(2009)も指摘するように、組織へのメンバーシップ雇用を中心とする日本企業においては、職務と賃金をリンクすることは困難です。よって、賃金は担当職務とは基本的に切り離されていると考えるのが自然です。


賃金が職務に基づいて決められるわけではないので、その代わりに用いられる代表的な賃金決定基準として、勤続年数や年齢が用いられます。どれだけ組織のメンバーとしての実績があるかという部分と、年上かどうかという基準が大きいわけです。もちろん、それだけでなく、こういった年功的な賃金をベースとしながらも、人事査定の結果が加味されて、本人の能力や貢献度に応じて賃金に差がつくように設計されています。


人事査定・人事評価は、アメリカなどでは業績評価(performance appraisal)といいますが、これは評価が職務とリンクしているためです。いっぽう、職務を人事管理の機軸としない日本企業の場合、職務給ではない属人的な賃金に貢献度や能力に応じた格差をつけるために、より広範な従業員を対象に、業績のみならず、本人の就業態度や職務遂行能力も含めた総合的な査定が行われます。つまり、メンバーシップ雇用という枠組みの中、どれだけ本人が、組織の一員としてふさわしい態度や行動をとっているか、そして実際に組織に貢献しているかが総合的に見られるわけです。


労働組合に関しても、職務と雇用がリンクしていないので、産業全体において、同一職務ごとに同一の賃金や労働条件を交渉するという、企業横断型の組合が成立せず、企業内労働組合が適切な形態となります。賃金が、企業内の勤続年数や年齢を基準に決められるわけですから、交渉も当該企業と企業内労働組合との間で行われるのが自然なのです。