これからの人事部に必要なのは権限ではなくリーダーシップである

日本企業は世界的に見てもある意味特殊な雇用システムを持っています。例えば、日本の大企業で特徴的な人材マネジメントといえば、三種の神器と言われる終身雇用、年功序列、企業内労働組合に加え、新卒一括採用、メンバーシップ雇用、遅い昇進、縦と横の異動を通じたキャリア形成などが挙げられるでしょう。


このような特徴的な人材マネジメントであるがゆえ、日本企業の人事部の位置づけや機能も特徴的な面があります。その1つが、人事部門が社内人事に関する一定の権限を持ち、全体最適の視点から個別人事にも関与していくという特徴でしょう。新卒採用はそうですし、昇進や人事異動についても人事部門が一定の権限を持って、ライン部門と協議を行ったり強権を発動したりすることもあるようです。


これに対して、以前、人事部不要論というのも登場してきました。ポイントは、権限を持った「強い人事部」ではなく、人事権はライン部門が持つべきで、人事部はあくまでラインのサポート役に徹するべきだ、あるいは人事部などなくてもよい、という考えです。人事部が権限を持って、会社の人材マネジメントを監視・監督することは百害あって一利無しということかもしれません。これには賛否両論があるでしょう。では、日本企業の人事部は、ほんとうに「強い人事部」である必要があるのでしょうか。


そこで今回強調したいのは、これからの日本企業の人事部に必要なのは、権限を集中させて会社人事を管理監督していくことではなく、人事部がリーダーシップを発揮して、全社的な視点から、会社人事をリードしていくことだということです。とりわけ長期雇用を基本とする日本企業では、全社的な視点からの人材マネジメントの統一感は重要だと考えられるからです。


ここで「権限(もしくは権力)と「リーダーシップ」の違いが重要になってくるので、それをおさえておきましょう。まず、権限(権力)とは、有無を言わせず相手を動かすことができる能力を指します。極端な話、権限さえあれば、誰でも人を動かせるのです。それに対し、リーダーシップは、相手が納得して動くように影響を与えるプロセスを指します。無理矢理人を動かすのではなく、相手が納得して自分の意志で動くよう、説得したり勇気づけたりするプロセスだといえましょう。そして、これからの日本企業の人事部に必要なのは、前者の「権限」ではなく、後者の「リーダーシップ」です。


人事部に権限が集中しており、会社人事にかんして人事部が権限を盾に現場に介入するならば、現場からネガティブな心情を持たれかねないでしょう。とりわけ、人事部からの監視・管理が強くなればなるほど、現場では人材マネジメントの自由度を失い、人事部に対する有言無言の反発を招くのではないでしょうか。


だからといって、人事部は邪魔者かというと、そうではありません。人事部がやるべきことは、第一に、企業全体の人材マネジメントのビジョン(あるべき姿)を描き、それを組織内に浸透させ、その実現に従業員を巻き込んでいくことではないでしょうか。いってみればこれは経営トップの役割でもあるのですが、経営トップ以外に会社のどの部門がそれを担うのかといえば、人事部以外にはないでしょう。これは、人事部が権限をもって強権的に行うことではありません。ビジョンを描いて社員を巻き込み、会社メンバーの一体感、帰属意識を醸成し、社員全員のベクトルを1つの目標にむけて統一させていくことは、リーダーシップにほかなりません。


具体的な仕事としては、全社的な人材マネジメントの共通基盤(人事制度等)を整備し、その運用やサポートを行うのみならず、社内に向けたビジョンの発信、好ましい企業文化・職場風土の醸成や強化、組織変革や組織開発への支援、日常のマネジメントへの支援など、人事部がリーダーシップを発揮して行うべき活動は数多くあることでしょう。現場が、自らの意志で、人事部が描いたビジョンの実現に向けて協力する。その結果として、企業が経営目標を実現するのに重要な人的資源を効果的に活用する事ができる。これを可能にするためには、人事部が現場や社員から信頼されている必要があります。社内で信頼される、頼りになる人事部になることがリーダーシップを発揮する上で最低限必要な条件だといえましょう。