ワーク・ライフ・バランスのための境界マネジメント戦術

Kreiner, Hollensbe & Sheep (2009)は、ワークとホーム(ライフ)の境界線の引き方は、人によって異なるので、そういった個人の境界の好みと周りの環境との不適合がさまざまな問題につながるという「ワーク・ホーム・インターフェース」の理論を構築しました→「ワーク・ライフ・バランス論の新展開」


個人の境界線の引き方の好みと、個人の置かれた環境とがフィット(適合)しているのが望ましく、不適合状態であると望ましくないと考えるわけですが、人々は単に、受動的に不適合状態に甘んじたり放置したりするわけではないと考えます。つまり、不適合状態によって、ワークとホームの境界線が侵犯されたり、ワーク・ホーム・コンフリクトが生じそうな場合には、それを解決して望ましいワーク・ホーム・インターフェースを実現しようと主体的に働きかける存在であると考えられます。


Kreinerらは、そのような主体的な動きを、境界マネジメント戦術(boundary work tactics)と捉え、調査結果を元に、いくつかの戦術に類型化しています。まずは、行動的戦術(behavioral tactics)です。行動的戦術には、(1)他人をうまく利用する、(2)ITなどの技術を活用する、(3)仕事や家庭の活動に優先順位をつける、(4)ワーク・ホームの境界線を明確にする活動、しなくてもいい活動を選別する、があります。


次に、テンポラル戦術です。これには、(1)状況に応じてタイムマネジメントを行う、(2)小休止やリフレッシュする時間を入れる、があります。さらに、物理的戦略として、(1)物理的な境界をつくる(家で書斎を設けるなど)、(2)ワーク・ホームの空間位置を調整する(職住接近もしくは分離)、(3)物理的な小物を工夫する(カレンダー、写真、メールアドレスの使い分けなど)、コミュニケーション戦略として、(1)不適合が起こる前に事前に要望や期待を知らせる、(2)境界線を侵食するような相手と対峙する、などがあります。


人々は、これらのワーク・ホーム境界戦術を複合的に用いることによって、ワーク・ホームの不適合、ワーク・ホーム境界の侵犯や、ワーク・ホーム・コンフリクトといった問題を解決することができると考えられるのです。

文献

Kreiner, G., Hollensbe, E., Sheep, M. 2009. Balancing borders and bridges: negotiating the work-home interface via boundary work tactics. Academy of Management Journal, 52: 704-730.