ワーク・ファミリー・コンフリクトと罪悪感:性別役割意識による影響

ワーク・ライフ・バランスは、近年の人事労務管理のキーワードとなっています。その理由が、従来のように、仕事を中心とした生活観を持っている社員ではなく、女性の社会進出や共働き夫婦の増加など、仕事以外の生活に時間が必要な社員が全体的に増えてきたことだと考えられます。一般的に、仕事と家庭の両立は大変です。ワーク・ファミリー・コンフリクトとは、仕事と家庭におけるそれぞれの役割が十分に果たせなくなることを指しています。ワーク・ファミリー・コンフリクトに陥れば、人々は、仕事ないしは家庭での役割を果たせないことに対する罪悪感を感じるでしょう。では、ワーク・ファミリー・コンフリクトと罪悪感の関係は、性別によって異なるのでしょうか。


LivingstonとJudge (2008)は、ワーク・ファミリー・コンフリクトと罪悪感の関係を理解する上で重要なのは、性別そのものではなく、性別役割意識(gender role orientation: GRO)だと主張します。確かに「ワーク・ファミリー・コンフリクトは女性のほうが陥りやすい、なぜなら、女性のほうが家事負担が多く、家族に対する責任が重いとされているから」という説明は成り立ちますが、これは、「男性は外で仕事をし、女性は家庭を守る」という伝統的な性別役割の概念に基づいた考え方です。けれども、現代社会は変容してきており、必ずしもすべての人がこのような考えに囚われているわけではありません。


そこで、LivingstonとJudgeは、性別役割意識を、伝統型(男性は仕事、女性は家庭と考える意識)と、平等型(仕事と家庭の関係に性別は関係ないとする意識)とに分類し、こらら性別役割意識の違いが、ワーク・ファミリー・コンフリクトと罪悪感の関係に影響を及ぼすと考えました。この考えに基づいて調査した結果、以下のような興味深い発見がありました。


まず、罪悪感には、家庭の事情によって仕事上の役割が果たせない罪悪感(家庭→仕事罪悪感)と、仕事の都合によって家庭での役割が果たせない罪悪感(仕事→家庭罪悪感)があるのですが、伝統型の性別役割意識を持つ男性の場合、その他のケースと比べ、家庭の事情によって仕事上の役割が果たせない場合に罪悪感を強く感じることがわかりました。これは、男性は仕事中心の生活を送るべきで、仕事が家庭より優先すべきだという考え方を反映しています。したがって、例えば休日出勤をしたり、家に仕事を持ち込んだりと、仕事の都合で家庭の役割が果たせなくてもそれほど罪悪感は感じないのですが、逆に、家庭の事情で仕事に支障をきたすようなことになった場合に、ひどく罪悪感を感じるというわけです。「仕事に私生活を持ち込んではいけないが、私生活に仕事を持ち込んでもかまわない」という意識なのでしょう。


次に、平等型の性別役割を持っている場合は、男女問わず、仕事の事情によって家庭での役割が果たせない場合の罪悪感が、伝統型に比べて強いことがわかりました。このタイプの男女は、仕事と家庭の役割に性別は関係ないと考えていることもあって、伝統型の人が考えるように、仕事のために家庭を犠牲にしても構わないという考え方には賛成しないわけです。仕事が忙しかろうと、家庭のこともきちんとしなければならないという責任感も持っているため、仕事によって家庭での役割が果たせなくなることに対して罪悪感を抱きやすいのだと考えられます。

文献

Livingston, B. A.& Judge, T. A. 2008.Emotional responses to work​-​family conflict: An examination of gender role orientation among working men and women. Journal of Applied Psychology, 93, 207-216.