セレブ企業の誕生プロセス

現代では、世間において注目の的となって脚光を浴びる企業がしばしば出現します。そういった企業は「業界の風雲児」「変革の覇者」「時代を切り開く企業」のように、熱狂的もしくは羨望のまなざしで見られることもしばしばです。Rindova, PollackとHayward(2006)は、個人にもセレブがいるように、これらの企業を「セレブ企業」と呼びます。世間の注目を浴びる「セレブ企業」になるならば、ビジネスそのものや人材獲得にも大きなメリットを得ることになるでしょう。


企業の「セレブ性」が、企業の評判、ステイタス、正当性などと異なるのは、評判やステイタスや正当性といったものが、世間に知られている企業が、過去の業績や実績に基づく形で形成されてくるのに対し、セレブ性というのは、無名だった企業が、急激に、かつ熱狂的な形で世間の注目の的となる点にあるとRindovaらは指摘します。そういった情緒的、熱狂的な関心が、「あの企業は素晴らしい」という、企業実態への推測につながっていくというのです。このようなセレブ性の発生で重要な役割を果たすのが、マスコミを代表とするメディアだというのです。メディアが「セレブ企業」を作り上げるのです。


メディアというのは、常に話題性を求めています。とりわけ視聴者・読者にとって予想外の、驚きを伴うようなニュースは大歓迎です。そのために、世の中で起こっていることに対して、何か新しい動きや変化を察知し、それをあるていど脚色してドラマ仕立てで伝えようとするのです。そういう意味で、メディアが伝える現実(リアリティ)というのは真の現実ではなく「ドラマ化された現実」だといえるでしょう。現実をドラマ仕立てにするのです。世の中の出来事や動きを、平穏な状態から波風が立ち、何か不穏な状態になっているというようなドラマ仕立てでストーリー化していく過程で、メディアによって「主役」となる企業が選ばれます。セレブ企業の始まりです。


そして、セレブ企業の特徴や文化などが、ストーリー全体の中での当該企業の役割とキャラがだんだんと立ってくるように脚色されます。そういった企業は、例えば業界全体が変わりつつある中で、それを先導する風雲児とか、変革の旗手といったポジティブなイメージを付加されるような目立つ形で報道されるようになるでしょう。メディアは、このような形でターゲット企業を見つけ出し、その企業を、とりわけ際立った「セレブ企業」に仕立てていくことで、よりインパクトや話題性のある報道ができるようになるので好都合なわけです。そして、選ばれてセレブ企業に仕立て上げられた企業自身も、さまざまな形でメリットを得られるようになるというわけです。

文献

Rindova, V.P., Pollock, T.G. & Hayward, M.L.A. 2006. Celebrity firms: The social construction of market popularity. Academy of Management Review, 31: 50-71.