今こそ「成果主義」の原点に立ち返ろう

企業人事の世界では、企業業績を高めるために人事管理の面からできることとして、様々な取り組みがなされてきました。とりわけ近年では、グローバル人材の発掘・育成、ダイバーシティ・女性活躍の推進、働き方改革プレミアムフライデーなど、様々な取り組みが流行しています。しかし、現在の状況を俯瞰するならば、日本の企業は、いまこそ「成果主義」に立ち戻る必要があると言えるのではないでしょうか。


成果主義という言葉は10年以上前にに流行しましたが、現在、成果主義を声高に叫ぶ人はほとんどいません。しかし、とりわけ現在では「働き方改革」がさかんに叫ばれていますが、成果を伴わない働き方改革、すなわち労働時間を減らすだけの試みは、企業の業績低下や競争力の低下につながることを助長するだけで終わってしまう可能性があります。では何がいちばん大切なのか。それは、生産性を高め、これまでよりも短い時間で、これまでよりも大きな成果を出すことです。ここでは、成果主義を、賃金がうんぬんとか、人事部の隠れた本音(人件費を圧縮したい)とかとは別次元で考えたいと思います。すなわち、成果主義の根本的な語感に立ち返り、成果主義とは「成果を出すことに注意を集中する経営や働き方」であると定義しましょう。出すべき成果を明確にし、それを職場で共有し、スピード感を持って成果を実現することに全精力を集中する。そして、成果を出したらさっさと帰宅して豊かなライフを楽しむのです。


これは具体的にどういう経営、どういう働き方を意味するのか。それは、出すべき成果を明確にし、成果を出すために本当に重要なことのみに集中することです。そして、成果につながらない無駄な作業は廃止し、優先順位が低いものは思い切ってカットし、成果を出すために使える資源を総動員することで、働く時間を短くする代わりに、働いている時間は成果を出すことに集中し、素早く実行するということです。ここで誤解してほしくないのは、成果を出すことに集中するといっても、短期的な成果のみを追い求めるわけではないということです。当然、長期的に成果を出し続けていく、あるいは将来大きな成果を出すために投資をすることも、成果主義としては重要な考え方だということです。


働く側としての意識として推奨したいのは「時間当たりの付加価値」すなわち「1時間にどれだけの成果につながる価値を生み出したか」を意識することです。例えば、労働時間と年収をもとに、自分がもらっている報酬の時給を計算したとしましょう。そうしたら、今自分がやっていることは、最低での自分の時給の2倍とか3倍とか、あるいはそれ以上の価値を生み出しているかということを常に意識することです。自分の時給の何倍もの価値を生み出しているからといって、その価値はどこにいってしまうのか、労働搾取ではないのか、などとは考えないようにしたいものです。今の時代、そのような高い生産性を維持し、その結果として高い成果を出し続けているならば、自然と報酬もそれに合わせて上がっていくものです。なぜなら、企業はそのような人材を欲しているのであり、そのような人材は過去の工業化時代のような生産力を持たない労働者とは違うのです。もはや、価値を生み出すのは生産設備ではなく、人材だと言えましょう。また、組織を共同体として考えるならば、ある程度生み出した成果の分配方法を平準化して組織メンバー全員がハッピーになれるような工夫が必要な場合もあるでしょう。要するに、成果を生み出したあとの分配は後で考えるとして、まずは、成果を高めることに集中しようというのが、成果主義の目的でもあるわけです。


さて、1時間なんらかの活動をしたら、そのたびに、どれだけの価値を生み出したかを意識しましょう。例えば、会議をしたらどうだったか、外回りをしたらどうだったか、研修を受けたらどうだったか。生み出した価値というのは、短期的な成果につながる価値や、その活動によって将来生み出される成果を現在の価値に割り引いたものです。毎日、例えば8時間働いたら、8時間分の報酬をはるかに上回る価値を生み出せたかどうかを計算してみることです。これを毎日実践する。そして、時間あたりに生み出す価値を最大化するためになんでもやってみる。勉強をして新しいことを覚え、仕事に使えるものはどんどん試していく。うまくいかなくても、それで将来成果が出せるような教訓を得た場合、それは重要な価値が生み出されたことになります。そして、自分が利用できる資源、モノ、カネ、情報、人脈などは何であっても活用する。これを毎日続けていれば、知らない間に、無意識的に、常に時間当たりの付加価値を意識して仕事をするようになるでしょう。


組織で働く人全員がこの時間あたりで生み出す価値に意識を集中するならば、皆が一丸となって、価値を生み出さない活動を削減し、皆が協力することで、時間当たりに生み出す価値がさらに高まる方法を生み出すことも可能になるでしょう。それには、仕事や業務内容のみならず、会議の仕方、休憩時間の取り方、オフィススペースの配置や談話スペースの活用など、さまざまな事柄が改善・改良の対象となります。また、IT化やAIの活用によって生産性が一気に改善することが予測できるのであれば、トップダウンで一気にやってしまうということも考えられるでしょう。また、短期的に出すべき成果と、長期的に出していく成果とのバランスを戦略的に考え、短期的に出すべき成果のみについては、例えば仕事に費やす全時間の30%くらいでさっさとやってしまう。そして、のこりの70%の仕事時間は、長期的な成果を生み出すための「投資」に費やす。これも戦略的な成果主義です。


このように、成果主義の原点に立ち返ることで、働いているときは成果を出すことに集中し、成果を出すために生産性を最大限に高め、時間当たりの付加価値を意識して高速に仕事をする。その分、労働時間は減らす。つまり、時間あたり付加価値を最大化することで労働時間を減らしてかつ成果を高める。それによって得られた時間を、ライフの充実に充てることで、ワークもライフも充実したものとなることでしょう。