市場の不確実性と企業のネットワーキング行動

企業が活動している市場においては、さまざまな不確実性に直面します。企業が不確実性に直面すると、不確実性を低減させようと行動します。経済学における取引コスト理論によれば、市場の不確実性が高まれば、市場における取引コストが増大するので、企業は組織化してグループ間取引などを優先するようになると説きます。資源依存理論も、市場の不確実性が高まると、企業は自分にとって重要な外部資源を持つ組織とのつながりを確立しようとすると説きます。


Podolny(1994)は、ネットワーク的視点からさらに理論を推し進め、市場の不確実性が高まると、企業のネットワーキング行動が排他的になると論じます。これには2つのメカニズムがあって、1つは、不確実下では、企業は過去と取引をした経験のある組織と優先的につながっていく(取引関係を持つ)ことで、2つめは、企業は、自分と同程度のステイタスの企業とのみ、つながっていく(取引関係を持つ)というものです。そうすることによって、市場の不確実性下では、とりわけ第2のメカニズムによって、ステイタスの高い組織の集団による排他的な集中化が起き、逆にそれが、それら集中化された企業の手が届かないニッチ市場を生み出し、ステイタスの低い企業にとっては参入機会となると説くのです。


不確実下では過去と取引をした経験のある組織と優先的につながっていくということに関しては、「限定合理性」の考え方を用いると分かりやすいでしょう。つまり、不確実であるがゆえに、信頼に足る企業かどうかを、過去の取引経験に頼っているということになります。それ以外にも信頼に足る企業はあるかもしれないですが、その企業をきちんと探すにはコストがかかるうえ認知的な限界があるので、安直かもしれないが、過去取引経験のある企業が信頼できるだろうと推測し、つながっていこうとするわけです。


ステイタスというのは、その企業の真の実力やクオリティがわからない場合、その企業がどことつながっているかによって、実力やクオリティの推測材料となるシグナルのことです。例えば、特定の企業が、超優良企業とばかり取引しているとなれば、その特定の企業のステイタスは高く、客観的なクオリティがわからなくても、おそらくその企業の製品クオリティは高いだろうというような憶測がなされるわけです。市場の不確実性が高い場合、企業は取引相手となりうる企業の真のクオリティも不確実であるため、その企業のステイタスに気を払います。そして、高いステイタスの企業と取引をしたいと思います。一方、自分のステイタスの高さもさまざまなメリットに影響するので、低いステイタスの企業とつながりたくありません。低い企業とつながれば、自分のステイタスを低めることになるからです。それで結局のところ、ステイタスの高いもの同士、中くらいのもの同士、というように、同程度のステイタスの企業同士がつながっていこうとうするとPodolnyは説くのです。その結果、ステイタスの同じ企業同士の、排他的で閉鎖的なネットワークができてくることになるのです。

文献

Podolny, J. M. 2004. Market uncertainty and the social character of economic exchange. Administrative Science Quarterly, 39, 458-483.