つながりによって生み出される「ステイタス」

多くの学生が一流企業に就職したい理由は、そうすることによってステイタスが得られるからでしょう。同様に、一流大学に入学したいと思うのも、就職などに役立つステイタスが得られるからでしょう。このように、ネットワーク理論の視点からみると、ステイタスというのは、どことつながっているかといったネットワーク上の位置によって生み出されるものと考えられます。そして、ステイタスは、本人の実力といった品質(クオリティ)とは独立していると考えられます。言い方を変えると、実際のクオリティが分からなくても、人々はステイタスからクオリティを推測することが起こるというわけです。対象の未知なクオリティに対する期待を抱くとき、実際のクオリティの高低とは関係なく、ステイタスが高ければ、クオリティも高いだろう(一流大学卒ならば優秀だろう)という推測が行われるわけです。このように、ステイタスは、過去の業績やクオリティの実績から形成される評判(レピュテーション)とは異なる概念であるといえます。


Podolny (1993)によれば、個人と同様に、経済的な活動を行う企業も、つながりによってステイタスを得ることによってさまざまな経済的なメリットが得られます。前述のとおり、ステイタスは、実際に使ってみないとわからない製品クオリティなどを推測するためのシグナルとして機能します。まず、ステイタスが高ければ、クオリティが過大評価されがちになります。例えば、品質の違いがほとんどわからないようなA企業の製品とB企業の製品があると、A企業のステイタスがB企業よりも高ければ、A企業の製品のクオリティが高いと認知されがちです。そうすると、ステイタスの高い企業は、製品を割高で売れることになるので、客観的な品質を維持するためのコストが相対的に下がるわけです。このようなコスト効果に加え、もともとステイタスが高ければ、広告宣伝に用いるコストの節約もできます。場合によっては口コミなどで無料の宣伝も可能になります。ステイタスが低ければ、積極的に自社製品の品質を宣伝しなければならないことを考えれば、コスト効果は一目瞭然です。また、ステイタスの高い企業は信頼されやすいので、他の取引先との取引コストも下がることになるでしょう。つまり、ステイタスの高い企業は、さまざまな活動をするに伴うコストが節約できるのです。


ステイタスの高い企業は、財務コストも節約できます。ステイタスが高く、信用されている企業であれば、低金利での融資がなされやすいということです。さらに、ステイタスの高い企業で働きたい人材が多数いるということは、相対的に割安の給料で人材を獲得できることも意味しています。よって、同じ品質を維持するための人的資源コストも節約できるのです。


このように、企業にとって、ステイタスが高まることによってさまざまなコストメリットが得られると、今度は、実際に高品質の製品の開発・製造にかける投資の余裕もできてきます。よって、ステイタスの高い企業ほど、高品質にむけた投資がしやすくなり、実際の品質面においても、低ステイタス企業との間に、ますます差をつけることが可能になるのです。つまり、ステイタスと実際のクオリティは理論的には独立していると考えられますが、時間とともにクオリティとステイタスは相関してくるともいえるわけです。そうなると、マーケットにおいていったんステイタスの序列ができてしまうと、その序列は安定し、崩れにくくなります。ステイタスの低い企業は、ステイタスの高い企業とのつながりを作ることによって、自社のステイタスを高めることも可能となりますが、ステイタスの高い企業は、ステイタスの低い企業とのつながりを作りたがりません。よって、ステイタスの高い企業どうしのつながりが強くなって、ステイタスの低い企業は、その輪の中に入っていけなくなるというメカニズムも働くと考えられます。

文献

Podolny, J. M. 1993. A status-based model of market competition. American Journal of Sociology, 98, 829-872
Benjamin, B. A., & Podolny, J. M. 1999. Status, quality, and social order in the California Wne Industry. Administrative Science Quarterly, 44, 563-589.